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D 調剤報酬改定
[決定版 健康サポート薬局①]2016年10月REPORT
このコンテンツでは「健康サポート薬局」について、現時点での情報を整理した。
「健康サポート薬局」とは、「患者が継続して利用するために必要な機能及び個人の主体的な健康の保持増進への取組を積極的に支援する機能を有する薬局」であり、2016年4月より法令上位置付けられている。(医薬品医療機器法施行規則 第1条第2項第5号)
定義をわかりやすく言い換えると、「かかりつけ薬剤師・薬局の基本的な機能」と「市民の健康の保持増進を積極的に支援する(健康サポート)機能」の両方を備えた薬局である。
この2つの機能を備えているかどうかは、業務体制や設備が厚生労働大臣が定める基準に適合しているかどうかで判断される。
この基準に適合する薬局が、「健康サポート薬局」である旨の表示ができる制度である。
(表示は、薬局開設者が都道府県知事等に届出を行うことにより可能になるが、この届出は2016年10月1日より開始される。)
2016年10月現在、健康サポート薬局であるかどうかは、調剤報酬には関係していない。
また、かなり難易度の高い基準のため、取りあえず対応を先送りにしている調剤薬局も多いだろう。
しかし、健康サポート薬局に関する情報は、大変重要である。
理由は後で詳しく述べるが、私は薬局経営者はもちろん、すべての薬剤師が知っておくべき内容だと思う。
大きな改革や新しい制度が始まるとき、ネットでは議論や途中経過、決定と通知、解説やQ&Aなどがどんどん発信される。
ネットの利点は速さなので、これらの速報型の情報も貴重ではあるが、重要な制度の場合はこれまでの情報を整理・統合し、理解を深めることも必要である。
また、薬に関する制度の場合、重要な情報の多くは厚生労働省が発信源である。
なかには、法令の通知のようなものも含まれる。
面白く、わかりやすい情報ばかりではないので、読むべき資料の選別が必要になる。
これらの理由から、これまでに発信された健康サポート薬局に関する情報を整理した。
健康サポート薬局に関する情報のうち優先順位の高い情報を選択したのである。
このコンテンツは、以下に該当する方のために作成された。
・健康サポート薬局について詳しく知らない薬剤師
・生き残るための経営方針を考える調剤薬局経営者
・将来、調剤薬局への就職を希望する薬学生
・その他、調剤薬局に興味のある人
調剤薬局は、激動の時代に入っている。
その困難に対応するために、一番重要な武器は「情報」である。
では、その情報を紹介しよう。
まず、「健康サポート薬局とは何か」である。
※なお、このコンテンツは2016年10月現在の情報である。
[健康サポート薬局とは]
いつの時代も社会は変化し続け、それに伴い薬剤師や薬局に求められることも変化していく。
そのなかで、2016年度の調剤報酬改定は、非常に大きな転換点といってよいだろう。
患者さんのための「かかりつけ薬局・薬剤師」が明確に規定され、評価・報酬に組み込まれたからだ。
これまでの調剤報酬は、主に調剤における技術的な評価であったが、対人業務の評価へと大きくシフトした。
大きな変化は、「調剤」の報酬だけではない。
「薬局」についても、同様である。
薬局に求められる役割・機能が見直され、国民に望まれる薬局像が規定された。
この薬局像が「健康サポート薬局」である。
「健康サポート薬局」は、簡単に言うと2つの機能を持つ薬局である。
その機能は、「かかりつけ薬剤師・薬局の基本的な機能」と「市民の健康の保持増進を積極的に支援する(健康サポート)機能」である。
機能とは、次に示す項目が厚生労働大臣が定める基準に適合していることを意味する。
項目数はかなり多いので、まずは一覧で確認いただきたい。
「かかりつけ薬剤師・薬局の基本的な機能」とは
・服薬情報の一元的かつ継続的な把握とそれに基づく薬学的管理・指導
・24時間対応
・在宅対応
・かかりつけ医を始めとした医療機関等との連携
「市民の健康の保持増進を積極的に支援する(健康サポート)機能」とは
・地域における連携体制の構築
・常駐する薬剤師の資質の確保
・設備
・表示
・要指導医薬品及び一般用医薬品の取扱い
・介護用品等の取扱い
・開店時間並びに健康サポートの取組
以上を踏まえて厚生労働省から告示された健康サポート薬局の基準を詳しく見てみたい。
(厚生労働省告示第二十九号を改変)
【かかりつけ薬局の基本機能】
①患者が当該薬局においてかかりつけ薬剤師を適切に選択することができるような業務運営体制を整備していること。
②患者が受診している全ての医療機関を把握し、要指導医薬品及び一般用医薬品を含めた医薬品を服用している情報等を一元的かつ継続的に把握するよう取り組み、薬剤服用歴の記録を適切に行うこと。
③残薬管理及び確実な服用につながる指導を含め、懇切丁寧な服薬指導及び副作用等の状況把握を実施するよう取り組むこと。
④患者に対し、患者の薬剤服用歴を経時的に管理できる手帳(「お薬手帳」)の意義及び役割を説明した上で、その活用を促していること及び一人の患者が複数のお薬手帳を所持している場合には、当該お薬手帳の集約に努めること。
⑤かかりつけ薬剤師及びかかりつけ薬局(以下「かかりつけ薬剤師・薬局」という。)を持たない患者に対し、薬剤師が調剤及び医薬品の供給等を行う際の薬剤服用歴の管理、疑義照会、服薬指導、残薬管理その他の基本的な役割を周知することに加えて、かかりつけ薬剤師・薬局の意義、役割及び適切な選び方を説明した上で、かかりつけ薬剤師・薬局を選ぶよう促していること。
⑥開店時間外であっても、かかりつけ薬剤師が患者からの相談等に対応する体制を整備していること。(24時間対応)
⑦過去一年間に在宅患者に対する薬学的管理及び指導の実績があること。
⑧医療機関に対して、患者の情報に基づいて疑義照会を行い、必要に応じ、副作用その他の服薬情報の提供及びそれに基づく処方の提案に適切に取り組むこと。
⑨かかりつけ薬剤師・薬局として、地域住民からの要指導医薬品等の使用に関する相談及び健康の保持増進に関する相談に適切に対応した上で、そのやり取りを通じて、必要に応じ医療機関への受診勧奨を行うこと。
⑩地域包括支援センター、居宅介護支援事業所、訪問看護ステーションその他の地域包括ケアの一翼を担う機関における多職種との連携体制を構築していること。
【地域における連携体制の構築】
国民による主体的な健康の保持増進の支援を実施する上での地域における関係機関との連携体制
①利用者から要指導医薬品等に関する相談を含む健康の保持増進に関する相談を受けた場合は、利用者の了解を得た上で、かかりつけ医と連携して状況を確認するなど受診勧奨に適切に取り組むこと。
②利用者からの健康の保持増進に関する相談に対し、以下に示す関係機関への紹介に取り組むこと。
地域包括支援センター
居宅介護支援事業所
訪問看護ステーション
健康診断や保健指導の実施機関
市町村保健センターその他行政機関
介護保険法における介護予防サービス及び日常生活支援総合事業の実施者
その他の連携機関
③地域の一定範囲内で、医療機関その他の連携機関とあらかじめ連携体制を構築した上で、連絡先及び紹介先の一覧表を作成していること。
④利用者の同意が得られた場合に、必要な情報を紹介先の医療機関その他の連携機関に文書(電磁的記録媒体を含む。)により提供するよう取り組むこと。
⑤地域の医師会、歯科医師会、薬剤師会、看護協会、栄養士会、介護支援専門員協会その他の関連団体と連携及び協力した上で、地域の行政機関及び医師会等が実施又は協力する健康の保持増進その他の各種事業等に積極的に参加すること。
【常駐する薬剤師の資質】
要指導医薬品等及び健康食品等の安全かつ適正な使用に関する助言、健康の保持増進に関する相談並びに適切な専門職種又は関係機関への紹介等に関する研修を修了した薬剤師が常駐していること。
【設備】
間仕切り等で区切られた相談窓口を設置していること。(パーテイションなど)
【表示】
①健康サポート薬局である旨並びに要指導医薬品等及び健康食品等の安全かつ適正な使用に関する助言及び健康の保持増進に関する相談を積極的に行っている旨を当該薬局の外側の見えやすい場所に掲示すること。
②当該薬局で実施している国民による主体的な健康の保持増進の支援の具体的な内容について、当該薬局において分かりやすく提示すること。
【要指導医薬品等、介護用品等の取扱い】
①要指導医薬品等、衛生材料及び介護用品等について、利用者自らが適切に選択できるよう供給機能及び助言を行う体制を有しており、かつ、その際、かかりつけ医との適切な連携及び受診の妨げとならないよう、適正な運営を行っていること。
②要指導医薬品等又は健康食品等に関する相談を受けた場合には、利用者の状況並びに当該要指導医薬品等及び健康食品等の特性を十分に踏まえた上で、専門的知識に基づき説明すること。
【開店時間の設定】
平日の営業日において連続して開店しており、かつ、土曜日又は日曜日のいずれかの曜日において一定時間開店していること。
【健康サポートの取組】
健康相談及び国民による主体的な健康の保持増進の支援の取組次のいずれにも該当すること。
①要指導医薬品等及び健康食品等の安全かつ適正な使用に関する助言並びに健康の保持増進に関する相談に対応すること。
②販売内容及び相談内容(受診勧奨及び医療機関その他の連携機関への紹介の内容を含む。)を記録した上で、当該記録を一定期間保存していること。
③国民による主体的な健康の保持増進の支援に関する具体的な取組を積極的に実施していること。
④地域の薬剤師会等を通じること等により当該薬局における取組を発信すると同時に、必要に応じて、地域の他の薬局の取組を支援していること。
⑤国、地方自治体及び医学薬学等に関する学会等が作成する健康の保持増進に関するポスターの掲示又はパンフレットの配布により、啓発活動に協力していること。
補足:
・要指導医薬品等の取り扱いについては、「基本的な薬効群」として、かぜ薬や解熱鎮痛薬、整腸薬など48品目を例示した。
(「施行通知」薬生発0212第5号に全品目のリストが掲載されている。[その他の資料・情報一覧]参照)
・要指導薬や健康食品などに関する販売内容や相談内容は記録し、その記録は3年間保存しなければならない。
・常駐する薬剤師の要件として5年以上の薬局での実務経験が必要である。
・薬剤師の研修に関しての補足
重要なので、少し詳しく紹介する。
【常駐する薬剤師の資質】
要指導医薬品等及び健康食品等の安全かつ適正な使用に関する助言、健康の保持増進に関する相談並びに適切な専門職種又は関係機関への紹介等に関する研修を修了した薬剤師が常駐していること。
この研修は、集合研修の「技能習得型」とeラーニングの「知識習得型」の2つから成る。
それぞれの具体的な研修内容は以下の通りである。
※研修内容のあとの( )は、研修時間である。
これらは、厚生労働省医薬・生活衛生局⾧通知「健康サポート薬局に係る研修実施要綱について」により定められており、すべて必修である。
研修修了証は、発行から6年間有効で、有効期限の2年前から有効期限中に研修を再履修・修了すれば有効期限を6年間延長できる。
「技能習得型研修」は都道府県薬剤師会が実施し、「知識習得型研修」はe-ラーニングを日本薬剤師会が実施する。
ちなみに「技能習得型研修」は、当初の予想を大幅に上回る参加者が集まり、一部の会員が研修を受けられない状況になった。
そのため、日本薬剤師会は「本当にやれる薬局だけに手を挙げてもらいたい」と異例の要請を行った。
「知識習得型研修」のe-ラーニングは、2016年10月現在、実施されている。
【健康サポート薬局研修】
技能習得型(演習が必須)
健康サポート薬局の基本理念(1)
薬局利用者の状態把握と対応(4)
地域包括ケアシステムにおける多職種連携と薬剤師の対応(3)
知識習得型(講義形式。eラーニングも可)
地域住民の健康維持・増進(2)
要指導医薬品等概説(8)
健康食品、食品(2)
禁煙支援(2)
認知症対策(1)
感染対策(2)
衛生用品、介護用品等(1)
薬物乱用防止(1)
公衆衛生(1)
地域包括ケアシステムにおける先進的な取組事例(1)
コミュニケーション力の向上(1)
研修の概要を紹介したが、詳細な情報は日本薬剤師会のホームページより入手可能である。
☞資料
「健康サポート薬局研修について」
日本薬剤師会作成資料
2016年7月7日
(日本薬剤師会)
http://www.nichiyaku.or.jp/action/wp-content/uploads/2016/07/160707_4.pdf
※健康サポート薬局の研修について最も整理された情報
☞資料
平成28年厚生労働省告示第29号
健康サポート薬局 告示
(厚生労働省)
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11120000-Iyakushokuhinkyoku/0000112480.pdf
以上が、健康サポート薬局の基準であるが、かなりハードルが高いことがわかるだろう。
なぜ、このような薬局が考えられたのだろうか?
次の章では、健康サポート薬局が考えられた背景や道筋を復習し、なぜ健康サポート薬局についての情報が重要なのかを考察する。
以上
次章 >> [決定版 健康サポート薬局②]2016年10月REPORT
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