[薬剤師と法律]②薬剤師の法的責任


前章 >> [薬剤師と法律]①法律は変化していく

 

 

 

 B  スキルアップシリーズ(研修向け単発コンテンツ) 

[薬剤師と法律]②薬剤師の法的責任

 

 

[②法的責任]

処方せんの内容に疑義が生じない前提で、医師の処方せんどおりに調剤している限り、患者に健康被害が発生しても、それは医師の責任にとどまり、薬剤師はその責任を免れることとなる。

反対に、処方せんに誤りはなかったが、薬剤師が調剤する際に薬剤を間違えた場合は、「薬剤師の単独責任」となる。

と言うことは、第一に「疑義照会」がいかに重要な職務であるかが理解できるだろう。

ここでは、「薬剤師の単独責任」について考える。

 

医療行為が正当性を確保するためには、3つの要件が必要であるといわれる。

第1は、医学的に適応があること。

第2は、患者さんの同意が得られていること。

第3は、医療水準に即した手技で医療行為を行うこと。である。

医療訴訟ではこの3点が論点になる。この3点は覚えておこう。

 

 

 

では、薬剤師の法的責任について説明する。

薬剤師による調剤過誤が原因で医療紛争に発展した場合、問題となる責任の種類は、「法的責任」と「それ以外の責任」に分けられる。

「法的責任」とは、一言で言えば、「民事責任」、「刑事責任」、および「行政上の責任」の3つのことである。

「それ以外の責任」とは、一般的に「社会的責任」と言われているものである。

 

法的責任は3つに分けられるが、抵触する法律によって分けられている。

「民事責任」は民法、「刑事責任」は刑法・刑事訴訟法、「行政上の責任」とは薬事法・薬剤師法や健康保険法等に関係することである。

以下に、それぞれの法的責任のポイントを簡単に述べる。

 

なお、民事上の不法行為責任、債務不履行責任、刑事上の業務過失致死傷罪の責任を問うには、結果として死亡、傷害等の損害の発生が必要となるので、健康被害が発生していない場合には、倫理上の責任は別として、民事上あるいは刑事上の責任は問われない。

患者さんからのクレームや訴えがあった場合、第一に患者さんの健康状態を確認することは薬剤師の倫理上、当然であるのだが、このときの確認と記録が法的にも非常に重要なことが理解できると思う。

 

・民事上の責任

調剤過誤で患者に健康被害が発生した場合、被害者側は金銭的救済を得るために、加害者である薬剤師の債務不履行(民法第415条)、不法行為(同第709条)を理由に損害賠償責任を追及することがある。これが民事責任である。

 

民法訴訟上では多くの場合、その使用者が賠償上の責任を負うこととなる。

医事紛争の場合も同様であり、薬剤師に調剤過誤があった場合、本来は調剤をした薬剤師が不法行為を理由に民事上の責任(賠償責任)を負わなければならないが、一般的には、薬局開設者が使用者として、あるいは調剤契約の当事者として賠償責任を負うこととなる(民法第715条、同415条)。

 

 

・刑事上の責任

業務上必要な注意を怠り、その行為により患者に傷害を与えたり死亡させたりした場合、加害者たる医師や薬剤師は、業務上過失致死傷罪(刑法第211条前段)に問われることがある。

 

調剤事故の多くは、示談や損害賠償金の支払いによって解決しているが、まれに刑事事件(業務上過失致死傷)に発展する。

弁護士の小林郁夫氏は、調剤事故に警察が介入する基準として「注意の怠り方」「頻度」「被害状況」の3点を挙げている。

どれだけ悪質であったかと健康被害の程度によるということだろう。

民事訴訟では薬局の経営母体が訴えられるのだが、刑事事件では薬剤師個人が刑罰を科せられる対象である。

過去の事例(病院薬剤師)では、調剤を行った薬剤師と監査を行った薬剤師ともに罪に問われている。

 

 

・行政法上の責任

医師、薬剤師等の免許を取得している医療従事者が医療事故を起こした場合、「行政上の責任」を問われることがある。

薬剤師について言えば、厚生労働大臣は、薬剤師法に違反した薬剤師または薬事に関し犯罪または不正の行為があった薬剤師に対して、薬剤師法第8条に基づき免許の取り消し、あるいは業務の停止という行政処分を命ずることができる。

また、薬局については薬事に関する法令に違反した場合等に、都道府県知事が「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」第75条に基づき許可の取り消し、あるいは業務の全部又は一部停止という行政処分を命ずることができる。

 

 

 

(ご参考)

薬剤師法の行政処分については、第8条の2に関連して第5条も関連する。

以下に各条文を示す。

 

第5条  次の各号のいずれかに該当する者には、免許を与えないことがある。

 一  心身の障害により薬剤師の業務を適正に行うことができない者として厚生労働省令で定めるもの

 二  麻薬、大麻又はあへんの中毒者

 三  罰金以上の刑に処せられた者

 四  前号に該当する者を除くほか、薬事に関し犯罪又は不正の行為があつた者

 

第8条

2 薬剤師が、第五条各号のいずれかに該当し、又は薬剤師としての品位を損するような行為のあったときは、厚生労働大臣

は、次に掲げる処分をすることができる。

 一  戒告

 二  三年以内の業務の停止

 三  免許の取消し

 

※薬剤師法は「e‐GOV 電子政府の総合窓口」より引用

http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S35/S35HO145.html

 

 

 

これまで説明してきた法的責任の要件は、「過失」「因果関係」「損害」の3点である。

「過失」とは、義務に違反したことを意味する。(素人の私は、うっかり間違えたことだと考えていた。法律用語は難解である。)

義務を、法律的には「注意義務」といい、悪い結果を予見する義務(結果予見義務)と悪い結果を回避する義務(結果回避義務)に分かれる。

具体的には、疑義照会、情報提供、正確な調剤、情報収集、添付文書に沿った処方の調剤などを行うことにより、患者さんの適正使用を確保し、薬物療法の安全性を高めることである。

 

「因果関係」とは、患者さんの健康被害が本当にその調剤ミスによって起きたのかどうか、である。

時間的な関係も大変重要になるので、服用した時間や症状が発生した時間などを必ず記録しておく。

 

「損害」については、詳細な説明は不要であろう。ただし、因果関係と同じように、患者さんからクレームや訴えを受けた時に、第

一に健康状態や症状を聴取し、適切な対応をしたうえで、記録に残すことが大切である。

 

 

 

「薬剤師から多い質問」

「医師に疑義照会しても『それでいいんだ』の一点張りで取りあってもらえないのですが、そのような場合、医師に疑義照会したことを記録にさえ残しておけばそのまま調剤してもよいのでしょうか?」

このような場合は、そのまま調剤すると、薬剤師も責任を問われる可能性が極めて高い。

しかも、この場合は危険性に気づいていながら調剤しているため、過失責任ではなく、故意犯になるかもしれないのである。

毅然とした態度で、医師と協議するしかないだろう。

日頃から、医師との関係性を良好にしておくことは、リスクマネジメントの面でも大きな意味をもつのである。

ちなみに過去の判例では、医師の処方せんに誤りがあったが、薬剤師が疑義照会を行わずにそのとおりに調剤し、患者さんに健康被害が及んだ場合には、薬剤師も責任を問われている。処方せん上の間違いに気づかなかったこと自体が過失として認定されたためである。

 

 

 

 

[③対策]へ続く

 

 

 

次章 >> [薬剤師と法律]③対策

 

 

 

B スキルアップシリーズ(研修向け単発コンテンツ) ナビゲーション

[疑義照会]

[薬剤師と法律]①法律は変化していく

[薬剤師と法律]②薬剤師の法的責任 ←今ココ

[薬剤師と法律]③対策

 

 

 

↓ もし良かったら、この記事をシェアしていただけると嬉しいです。