B スキルアップシリーズ(研修向け単発コンテンツ)
[疑義照会]
このコンテンツでは、「疑義照会」について考察する。
具体的には、疑義照会の項目、見つかった時の手順、疑義照会の注意点やコツについて考える。
薬局の中には、処方せんを受ける医療施設と疑義照会のルールが確立されているところがあるかもしれない。
このコンテンツで想定しているのは門前の病医院ではなく、地域の中核病院からの処方せんで疑義照会に該当する内容が見つかったパターンである。
[疑義照会のパターン]
一般に、疑義照会は「形式的疑義照会」と「薬学的疑義照会」の2種類に分類できる。
「形式的疑義照会」とは、いわゆる記載不備の確認である。
「薬学的疑義照会」とは、薬剤の過多・過小、相互作用などの薬効や患者さんの身体に影響する問題と保険上の問題の確認である。
[疑義照会の項目]
疑義照会と処方鑑査は、セットである。
処方鑑査とは、処方せんの内容に記載不備や誤記、薬学的な問題の有無を確認することである。
つまり、処方鑑査を行い、処方せんの内容に問題が見つかった場合に疑義照会を行うのである。
では、処方せんの内容の何を鑑査すればよいのだろうか?
私は、薬剤師になりたての頃、どのように鑑査すればよいかがわからなかった。
試行錯誤の後、「処方せんに記載されるべきことが記載されていること」と「記載内容に薬学的な問題がないこと」に分けて確認することにした。
そして、私が確認する具体的な項目を次のように考えた。
・正規の処方せんかどうかの確認
例:カラーコピーなどに注意すること。
・処方せんの必要な記載事項の確認
・必要な薬剤が処方されているかどうかの確認
いわゆる処方漏れの確認である。
・用量が不足、または過剰であるかどうかの確認
・規格、剤型の記載不備もしくは誤記の確認
・相互作用の確認
現在の通院状況とお薬手帳の確認。
・副作用が発現している、もしくは発現の恐れが極めて高いかどうかの確認
薬歴・お薬手帳の確認。
・使用禁忌の確認
配合禁忌などの確認。
・剤型不適応の確認
・その他
以上が、私が処方鑑査の時に確認する項目である。
では、実際の現場では、どのような疑義照会がされているのだろう?
また、どのような項目が多いのか?
日本薬剤師会が公表した平成22年度薬剤服用歴の活用、疑義照会実態調査報告より、実際に疑義照会した内容を見てみよう。
[平成22年度薬剤服用歴の活用、疑義照会実態調査報告書]
平成23(2011)年3月に日本薬剤師会より公表された疑義照会に関する調査報告によると疑義照会の内容では、「薬学的内容に関する疑義」82.3%、「処方せんの記載漏れや判読不能」16.2%となっていた。
さらに、「薬学的内容に関する疑義」の具体的な内容についてみると、「用法に関する疑い」24.3%が最も多く、次いで「処方意図に関する次項」20.2%、「投与日数・投与量等に関する疑い」15.2%などとなっていた。
以下に詳細な結果を示す。
平成22年度薬剤服用歴の活用、疑義照会実態調査報告書 P.17 図表2-2-11疑義の具体的内容より引用
※薬学的内容に関する疑義照会の詳細なデータ(複数回答)
用法に関する疑い (24.3%)
処方意図に関する事項 (20.2%)
投与日数・投与量等に関する疑い (15.2%)
服薬支援の実施の確認 (12.2%)
分量に関する疑い (11.0%)
重複投与の疑い(同種・同効薬含む) (9.0%)
用量に関する疑い (6.3%)
禁忌投与の疑い (2.4%)
副作用の疑い (2.2%)
相互作用の疑い (1.8%)
慎重投与の疑い (0.6%)
薬物アレルギーの疑い (0.5%)
妊婦・授乳婦への投与に関する疑い (0.2%)
その他 (12.2%)
無回答 (0.1%)
現場で、実際に行われた疑義照会の項目がご理解いただけたと思う。
比率も示してあるので、特に注意が必要な頻度の高い項目が確認できる。
この比率が高い項目は、処方監査の際に気をつけてチェックするべきである。
[手順]
次に、疑義照会するべき内容が見つかったとき、どのように対応するのが正解かを考える。
もちろん、ケースによっていろいろな対応があるので、あくまでも基本的パターンと思っていただきたい。
①まずは落ち着いて確認
これは、おかしい。と思うことがあったら、根拠を確かめる。
そのほとんどは、添付文書であることが多いのだが、根拠の資料は手元にまとめておこう。
電話連絡をする際に必要だからである。
また、製造中止品目または経過措置期間は、別刷りのリーフレットにより連絡を受けることが多い。
もし、この連絡が薬局に保存してなければ、当該メーカーのホームページで確認する。
②患者さんに疑義照会の内容を伝えておく。薬剤の変更の可能性がある場合は、事情を説明して同意を得ておく。
③その病院の疑義照会のルールを確認する。
④疑義照会する。
⑤結果を患者さんに報告し、調剤を行う。
⑥疑義照会内容を処方せんと薬歴に記入する。
⑦必要に応じて、疑義照会した医師に内容をフィードバックする。
[疑義照会を行う際の注意点、コツ]
1)マナー
疑義照会は、電話で行われるケースが多い。
相手に嫌な印象を持たれず、スムーズな対応のために必ずマナーを守りたい。
医療施設によっては、FAXによる問い合わせや事後報告が必要なケースがある。
その際、送信済みの確認をしよう。
先方にFAXが届いたころを見計らって電話するのが一番確実で、ていねいである。
※ページが抜けていないか、見づらい文字がないかも確認する。
(当サイト作成のFAX送信状を「無料ダウンロードコンテンツ」よりダウンロードできます。)
2)電話での疑義照会
疑義照会の内容を整理し、代替案を用意しておく。
電話で初めての医師と疑義を照会する場合、もっとも大切なのは「短時間」で「わかりやすく」説明することだからだ。
そのためには、話す内容を予め整理しておくとよい。
また、電話の場合、なるべく速く伝えようとしてどうしても早口になり、照会する内容や順序がバラバラになりやすい。
だから、普通の速度で話すよう意識することと、伝える要点をメモして整理しておくことがコツなのである。
3)代替案を用意するコツ
なんらかの理由で別の薬剤に変更する場合、変更前の薬と同程度の薬効・力価の用法用量を把握しておく。
→薬効別に薬剤を確認できる『今日の治療薬』が便利である。
医師が短時間で楽に処理できる提案をすることも大切な心配りである。
例えば、処方せんに痛み止め貼付剤が全量28枚で処方されているのだが、規格が5枚入パックの場合。
→痛み止め貼付剤28枚の製剤は5枚入包装のため、6枚パック30枚でご用意してよろしいでしょうか?
4)要点を整理
電話で疑義照会をする時に、必ず手元に要点を整理したメモと根拠の資料を置いておく。
(もし、薬剤変更の可能性がある場合、代替案を考えた資料も。)
処方せんの変更内容は、メモし、電話の最後に反復して医師に確認いただく。
[記録]
疑義照会をした場合、処方せん内容変更の有無にかかわらず、以下の内容を処方せんの備考欄(または処方欄)と薬歴に残す。
・疑義照会した日時
・疑義照会した薬剤師名(フルネーム)
・対応した医師名
・問い合わせ方法
・内容
・その他の特記事項
[併用注意の考え方]
処方せんの内容の明らかな誤りは、迷うことなく疑義照会を行う。
しかし、疑義照会に迷うケースを経験したことはないだろうか?
たとえば、「併用注意」である。
基本的に「併用注意」はそのまま調剤するのだが、医師への連絡を考えるケースもある。
コミュニケーションが良好な門前の医師であれば、念のための疑義照会やレポートによる報告を行うのだが、面識のない医師に「併用注意」を連絡するのはためらうケースもあると思う。
この点について、最も勉強になったレポートが「患者・医師への情報提供」藤上 雅子:薬学図書館 52(1), 16-21, 2007である。
この報告で藤上は、『併用注意の処方では、 「使ってもよい根拠」を立証し慎重に投与する必要がある。』と述べている。
すなわち、現病歴、既往歴、家族歴など、十分な予見で禁忌者であることを否定し、その患者に特化した「慎重投与できる」と判断した理由を明確にする必要があると言っているのだ。
私は、この考えを基に「併用注意」の際の確認するべきことを以下のように設定した。
・各々の薬剤の副作用歴を確認すること。
・各々の薬剤の代謝及び排泄の臓器に疾患・障害がないかを確認すること。
(主として肝臓と腎臓)
・小児または高齢者であること。
・相互作用によって生じる可能性のある症状・病態の既往歴の確認。
・その他、相互作用を増強する要素。
これらの項目を確認し、すべてOKであれば、慎重投与できると判断する。
逆に、相互作用を増強する要素が見つかった場合は、疑義照会をする。
併用禁忌は必ず疑義照会しなければならない。
しかし、 併用注意は目の前の患者さんが副作用の発現しやすいハイリスク患者か否かを検証し、必要に応じて疑義照会するのだ。
そして、入手できた情報は医師にフィードバックする。
[修行]
最後に、疑義を見つけるトレーニングについて考えたい。
処方せんを受け取り、最初に行う処方鑑査は疑義を見つける第一関門である。
日本薬剤師会の調査結果でも、疑義発見のタイミングは、「処方せんを受け付けた際」が52.6%と最も多い。
この時、できるだけ迅速かつ正確に処方せんの内容を鑑査するためには、ある程度の修行が必要である。
私はこの修行のキーワードを、「禁忌のまとめ」と「パターンの学習」だと考えている。
「禁忌のまとめ」は、文字通り各種の禁忌を自分でまとめていくことである。
具体的には、添付文書に禁忌の項目がある薬剤の該当部分を抽出して記録していく。
ちなみに私は「本剤に対して過敏症の既往歴のある患者」以外の項目をまとめている。
この項目は、原則すべての薬剤に適応されることだからだ。
もちろん、禁忌だけでは不十分なのだが、最低限の必修科目として提案したい。
「パターンの学習」
どの分野でも、間違えやすいパターンは共通していることが多い。
処方せんについても、間違えやすいパターンや事柄があり、それは発生しやすい。
例えば、私の経験では、以下のようなパターンである。
・複数の規格がある散剤の処方→特に転院時。
・新製品の処方日数制限の解除。
・製造中止品目および経過措置品目→特に製品名変更。
・複数の医療機関を受診している場合の重複投与→特に胃薬、高齢者。
・ニューキノロンの相互作用→特に酸化マグネシウム、冬場のカゼの季節。
このような、パターンを学習しておくと、該当する薬剤の処方内容を意識して確認できる。
また、これらのパターンに関連する情報‐例えば、製造中止の連絡などの情報の管理や活用を工夫するようになる。
このような修行の積み重ねが、迅速かつ正確な処方鑑査への近道なのである。
参考資料:
・特集「医師も納得の疑義照会5ヶ条」
NIKKEI Drug Information 2009.5 P.16-23
・「患者・医師への情報提供」
藤上 雅子:薬学図書館 52(1), 16-21, 2007
・薬局薬剤師における薬学的疑義照会の意識調査
鹿村恵明ら:薬学雑誌131(10)1509-1518(2011)
・平成22年度薬剤服用歴の活用、疑義照会実態調査報告書
平成23(2011)年3月 社団法人日本薬剤師会
・「これだけは知っておきたい医療禁忌」改訂第2版(羊土社)
以上
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