[認知症PLUS]⑦廃用症候群


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[認知症PLUS]⑦廃用症候群

 

 

このコンテンツでは「廃用症候群」について考察する。

 

人体の機能は「使う」ことで維持・向上するが、「使わない」とすぐに落ちてくる。

いろいろな機能を使わないことで、身体や精神の機能が低下することを、「廃用症候群」と言う。

重要なのは、廃用症候群は「身体機能」と「精神機能」の双方に現れ、相互に大きく影響することである。

 

認知症の患者さんで問題になるのは、「まともに話ができないから」と話しかけてもらえなかったり、「どうせ、できないから」と何もさせてもらえなかったりすることが多いことである。つまり、放置されやすいのだ。

「孤独」「会話の減少」「活動の減少」状態になるわけで、まさに廃用状態といえるだろう。

人がこのような状態になると、身体機能はもちろん脳機能の活動そのものの低下を招き、認知症症状の進行を加速させることになる。

人間が人間としての活動を維持していくためには、脳への感覚刺激の入力が必要であるためだ。

 

認知症の患者さんの機能を評価するときには、どうしても「問題点」を見ることが多い。

だから、認知機能の低下がある程度進行したケースでは、「できないこと」を探すと、できないことだらけになってしまう。

この視点も放置の原因のひとつである。

このように「できないことの塊」にならないようにするためには、「残存機能」を探すことと評価する視点が大切である。

「残存機能」とは、今でもその患者さんが「できること」である。

 

では、どのように「残存機能」を見つけ出すか?

「廃用症候群とコミュニティケア」のP.191には、その答えの貴重なヒントが記されている。

キーワードは「昔とった杵柄」である。

残存機能を見つけ出すのに有効なのは、過去の生活史や仕事、趣味などの「個人」の情報である。

これらの情報に基づいて、「できること」を探す。これを「昔取った杵柄によるアプローチ」と言う。

確かに、これらの「できること」は、本人が得意であったり、やり慣れたことが多いのだから、開始・継続も容易であることが多い。

この本の筆者によると、「残存能力など何もあるはずない」と思われていた患者さんに驚くべき能力が見つかったり、重度の認知症の患者さんに現在でも「できること」が見つかるケースがあるという。

この「できること」が活動性改善のきっかけとなり、問題行動の改善につながる例も報告されている。

「昔取った杵柄」は人によって異なるため、「できること」を探すだけでも大変なケースが多いだろう。

言語的コミュニケーションが難しいケースもあるからだ。

しかし、軽作業やレクリエーションを一律義務的に行うより、はるかに「パーソンセンタードケア」の考え方に近いのではないだろうか?

 

また、他に「身体を動かす重要性」は知っておくべきである。

高齢者の筋力は、超高齢であっても筋肉を鍛えれば向上することがわかっている。

「寝たきり」→「座る」→「立つ」→「歩く」

これらの段階が一段上がっただけで、認知症の患者さんの身体機能は向上する。

行動範囲が広がり、脳への刺激や情報のインプットも増える。これは、身体機能だけでなく、精神機能にも良い影響を与える。

寝たきりだった患者さんが、車椅子に乗って庭の花を見ただけで表情が豊かになった例など、類似の例は多くの介護者が経験している。

座るだけでもリハビリしているのである。

ちなみに「歩く」ことは、全身の筋肉の60~70%を使用している。

当然、身体を動かすことで食生活や睡眠にもプラスの影響を与える。

 

最後に廃用症候群の適切な対応が、認知症の「中核症状」に改善をもたらす可能性について、小澤勲の名著である「痴呆を生きるということ」の該当部分を紹介する。

 

中核症状は脳障害の直接的なあらわれであり、現在の医学では脳障害自体を改善する方法が見つかっていない以上、根本的な治療は不可能である。

しかし、中核症状は廃用症候群と考えられる部分がかなり含まれている。廃用症候群とは、使わない筋肉が委縮するのと同じで、生活の中で使用しない機能が本来なら低下しないレベルまで落ち込んでしまうことをいう。この廃用症候群が、痴呆では認知の領域や感情の領域に起こっていて、本来の病気のために生じる障害より深く知的機能が減退し、感情の反応が鈍っている。

これらの機能は、再び活発に使用される状況に置かれると改善する。一人暮らしで、隣人らとのつきあいもなく、家に閉じこもって生活してこられた方が、デイケアなどを利用されるようになって数週間で、以前には言えなかった自分の年齢や生年月日が正確に言えるようになり、表情も豊かになることが少なくない。身体の切れがよくなり、活発に動けるようになって、生活習慣も戻ってくる。その変化はときに奇跡のようで、ほれぼれするほどである。

「痴呆を生きるということ」小澤勲著(岩波新書)P.193-194 第5章 痴呆のケア

 

 

以上

 

 

 

[参考資料]

廃用症候群とコミュニティケア-別冊総合ケア-(医歯薬出版)

折茂賢一郎、安藤 繁、新井健五 共著

 

痴呆を生きるということ(岩波新書)

小澤 勲

 

 

 

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