[認知症PLUS]④パーソンセンタードケア


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[認知症PLUS]④パーソンセンタードケア

 

 

このコンテンツでは「パーソンセンタードケア」のポイントを整理する。

 

認知症の多くは、完治する治療方法のない疾患である。脳神経の脱落の速度には個人差はあるが、徐々に確実に進行していく。

現在の認知症治療薬では、認知機能の低下などの症状の進行を抑制することはできるが、脳神経の破壊自体は抑制できるわけではない。

そうなると、患者さんにとって最も重要なのは「ケア」になる。

認知症は、「薬2割 ケア8割」と言われる所以である。

 

残された時間に何をするか、同居している家族の負担をどう軽減するか、社会的資源の活用をどのようにするかなどが課題なのだが、特に重要なのは介護する人がどのように患者さんに接するかである。

なぜなら、患者さんの周辺症状の発生状況は、介護の影響を大きく受けるからだ。

適正な介護は、患者さんに良い影響(周辺症状の軽減など)を与え、それによって介護者にも負担軽減などの恩恵が与えられることが多い。

 

薬剤師がチーム医療に参加し、認知症の患者さんに対応する場合も、基本的なケアの考え方は知っておくべきである。

また、ケアの基本的な考え方は、患者さんや介護の方と接する場合に大変に役立つ。

 

前置きが長くなったが、このコンテンツでは「パーソンセンタードケア」の考え方を紹介する。

ちなみにこのケアは、日本神経学会の認知症治療ガイドラインにも掲載されている。

 

「パーソンセンタードケア」とは英国の臨床心理学者トム・キットウッドが提唱した概念であり、日本では「患者中心のケア」または「その人らしさを尊重するケア」と呼ばれている。

 

過去の認知症のケアは、清潔と安全を基盤とした「食事」「排泄」「入浴」を中心に考えられていた。

徐々に認知機能が低下し、コミュニケーションが取れなくなり、食事や入浴などの日常生活のことができなくなるケースが多いため、身の回りの基本的な世話を中心に考えられていたのだ。

ところが、これらの最低限のケアだけでなく、患者さんの残存機能の維持・向上を考え、社会とのつながりを持つようなケアをすることで、周辺症状が軽減されたり、本人の満足度が良好になることがわかってきたのである。

「食事」「排泄」「入浴」など日常生活支援を一律で行うだけでなく、その人に必要なケアを考え、個別に対応するケアに移行しているのだ。

 

パーソンセンタードケアの主な構成を紹介しよう。

認知症の患者さんを「何もできない人」「訳のわからないことばかり話す老人」として接するのではなく、完全な人間として接する。

要は先入観を失くし、敬意を払うことである。

問題行動や言語的なコミュニケーションに支障が出ている場合においても、人間性が失われたのではなく、見えなくなっている状態とみなす。

認知症の人の行動を、その人の視点に立って解釈する。

そして、患者さんの残存機能を見出し、身体機能や精神機能を維持・向上するように活用する。

認知症の人と他の人(介護する人、家族、友人などを含む社会)とのつながりを広げることをケアの目的のひとつとする。

認知症の人の重症度、残存機能(できること)、家族構成、環境などは様々なので、このケアは個別化される。

つまり、「その人に合ったケア」である。

 

通常、知力の衰えは思考や記憶に影響を及ぼす。

それに比べて、感情や社会性は影響が少ないと考えられている。

これは、介護をする人は必ず覚えておかなくてはいけないことである。

たとえば、認知症の人が、何度も同じ質問をしてきたことに腹を立てて、介護する人がキレたとする。

 

「何度、言ったらわかるの?私はクタクタなのに、何十回も同じことを・・・。このク○ババア!」

 

この場合、おばあちゃんはこの出来事の記憶は消えるかもしれないが、罵倒されて嫌な感情になったことは残るということなのだ。

このようなことが重なれば介護する側のストレスは高くなり、介護される側も周辺症状に影響することが容易に推察されるだろう。

 

その人に合ったケアとは、その人が現在生きている「世界」を受け入れ、その人が今できることを活用し、その人とつながる努力をするということ。

認知症の患者さんが生きている「世界」は、ときとして「現在の世界」と異なる場合がある。

たとえば、今の自分は何十年も前の自分であったり、全然別の人が配偶者だと考えているケースである。

この場合、介護をする人は患者さんの「世界」を受け入れて、相手の現実に対応するのである。

なぜなら、患者さんが構築している「世界」が、患者さんにとっての「現実」だからだ。

 

認知症では近時記憶は失うが、古い昔の記憶は残っていることが多い。

その人が得意だったこと、長年続けてきた仕事、もっとも好きだった趣味などは、記憶も技術も残っている可能性が高いということである。

患者さんが「できること」はこの中から見つけやすい。しかも、この「できること」は、患者さんが好きなこと、得意なことなので始めやすいし継続しやすいのである。

実際、介護の現場では、患者さんの個人史から残存機能を見つけ、その結果、体と脳を動かすきっかけになることが多い。

そして、この残存機能を活用することで、問題行動の減少した例が報告されている。

 

以上が、私が理解しているパーソンセンタードケアについての考え方である。

私は、この考え方を「認知症の介護のために知っておきたい大切なこと パーソンセンタードケア入門」(筒井書房)より学んだ。

このテキストは、このケアの提唱者であるトム・キットウッド自身が介護者・家族向けに書いた本の日本語訳である。

パーソンセンタードケアの基本的な理念、日常の接し方、サポート、生きがい、薬との付き合い方、人権やグリーフ※について考え方はもちろん、具体的な例、心構えまでが平易な文章でまとめられている。考え方を学ぶための入門書としては最適であった。

 

※グリーフについて

「グリーフ」とは、直訳で「深い悲しみ」「悲嘆」。大切な人を失ったときの精神や肉体の変化を指す。

具体的には、親しい人との死別により、感情や情緒が不安定になったり、同時に身体上にも不愉快な反応や違和感が出ること。

 

 

以上

 

 

 

[参考資料]

「認知症の介護のために知っておきたい大切なこと」

パーソンセンタードケア入門

トム・キットウッド&キャスリーン・ブレディン著

(筒井書房)

 

 

 

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