[認知症PLUS]③薬物治療で覚えておくこと


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[認知症PLUS]③薬物治療で覚えておくこと

 

 

このコンテンツは、認知症の概要について整理したものである。

 

このコンテンツでは、認知症の薬物治療で薬剤師が覚えておきたいことを考察する。

内容は、基本的な薬剤のプロフィール等ではなく、サブノート的なものである。

 

 

 

[アルツハイマー型認知症](以下、ADと略す)

ADの中核症状には、コリンエステラーゼ阻害薬とNMDA受容体拮抗薬が処方される。

 

ADでは脳の神経細胞が変性することにより、海馬や大脳皮質下の重要な部位の神経細胞数が減少し、脳の委縮が見られる。

脳は、神経細胞が複雑なネットワークを形成しており、そのネットワークは神経伝達物質を使って刺激や情報を伝導させている。

この神経細胞が破壊され、ネットワークが機能しなくなることによって、認知機能の低下が起こる。

当然、脳の神経伝達物質も減少する。(主な神経伝達物質の異常)参照

なかでも記憶に深く関係しているアセチルコリンは、顕著な減少が認められている。

その原因はアセチルコリンを産生する「マイネルト核」(脳の底面近くにある)が比較的初期からダメージを受け、

神経細胞が減少するためだと考えられている。そのため、ADは初期から記憶障害が発生するのである。

 

<主な神経伝達物質の異常>

アセチルコリン   : ↓↓

セロトニン     : ↓↓

ノルアドレナリン  : ↓↓

ドーパミン     : ↓

グルタミン酸    : ↓↓

ソマトスタチン   : ↓

 

コリンエステラーゼ阻害薬は、アセチルコリンを分解するコリンエステラーゼを阻害し、アセチルコリンの分解を防ぐことによって減少を食い止める。言い換えるなら、残存した脳のネットワークの働きを高めて(あるいは維持し)、認知機能の症状進行を抑制する薬である。

なお、神経の変性・脱落自体を止めるわけではないので、ADは徐々に進行する。

ゆえに、コリンエステラーゼ阻害薬の効果は6ヶ月~2年程度と言われている。

 

コリンエステラーゼ阻害薬は、認知機能検査で主薬効を判定する。

現在、市販されている3薬剤は、いずれも二重盲検比較試験において有意な差をもって認知機能低下を改善している。

コリンエステラーゼ阻害薬の使用は、日本神経学会の認知症治療ガイドラインにおいても、推奨グレードA(強い科学的根拠があり、行うよう強く勧められる)である。

 

ただし、薬剤師として覚えておきたいのは、以下の点である。

・コリンエステラーゼ阻害薬は、確かに有意差をもって認知機能、日常機能、行動が改善するが、臨床的にはわずかな改善である。

(70 点満点のアルツハイマー評価スケールでプラセボに比しわずか2、3点の改善に過ぎない。)

・しかし、認知症の悪化ペースがゆっくりになる。

・日常機能、行動でアリセプトはイクセロンやレミニールより若干優れるという報告はあるが、大きな差はない。

つまり、コリンエステラーゼ阻害薬は、どれを使ってもよい。

・コリンエステラーゼ阻害薬の主な副作用は吐気、嘔吐、下痢、めまい、体重減少である。

・実際の投与は、3剤のうちの1剤で開始し、無効か副作用があれば他のコリンエステラーゼ阻害薬に変更。

・コリンエステラーゼ阻害薬単独で効かなければメマンチンを追加する。

(コリンエステラーゼ阻害薬は原則併用しない。)

 

※NMDA受容体拮抗薬(メマンチン)

グルタミン酸は、脳の海馬や小脳に広く分布し、神経伝達物質として記憶・学習に関与する。

ADではグルタミン酸神経系の機能異常が関与しており、グルタミン酸受容体の1種類であるNMDA受容体の過剰な活性化が原因の一つと考えられている。

メマンチンはこのNMDA受容体阻害作用を示すことにより、神経細胞内への過剰なCaイオンの流入を抑制し、神経細胞保護効果と記憶・学習機能障害抑制作用を示す。

メマンチンは、メタアナリシスで中等度から重度AD患者に対する認知、ADL、臨床全般評価の改善が報告されている。

なお、コリンエステラーゼ阻害薬とは作用が異なるため、併用可能である。

 

 

 

[脳血管性認知症]

現在、脳血管性認知症に有効な薬剤はない。

 

 

 

[レヴィ小体型認知症]

コリンエステラーゼ阻害薬が有効である。

ドネペジルが唯一、効能効果を取得している薬剤である。

 

 

 

[前頭側頭型認知症]

現在、前頭側頭型認知症に有効な薬剤はない。

認知症治療ガイドラインでは、行動障害の改善を目的に、SSRIの使用が推奨されている。

(ただし、グレードC1:C1とは「科学的根拠はないが、行なうよう勧められる」グレード)

 

 

 

[周辺症状]

認知症の行動・心理症状 BPSD:Behavioral and Psychological symptoms of Dementia(以下、BPSDと略す。)

 

まず、具体的な症状と選択される薬剤を日本神経学会のガイドラインより復習しておこう。

 

≪幻覚、妄想、攻撃性、焦燥≫

メマンチン、コリンエステラーゼ阻害薬を使用し、改善しない場合は抗精神病薬の使用を検討する。

レヴィ小体型認知症ではコリンエステラーゼ阻害薬が第一選択となる。

 

≪抑うつ症状、うつ病≫

コリンエステラーゼ阻害薬を使用し、改善しない場合は抗うつ薬の使用を検討する。

 

≪不安、緊張、易刺激性≫

抗不安薬の使用を検討する。

 

≪睡眠障害≫

病態に応じて睡眠導入剤、抗精神病薬、抗うつ薬の使用を検討する。

 

BPSDの薬物療法のときに薬剤師が注意するべきことは、「高齢者の薬物療法」の注意点とほぼ同じである。

基本は「低用量で開始し症状をみながら漸増する」である。

用量については、以下の3点が重要である。

→「添付文書の最高投与量を超えないこと」

→「薬物相互作用に注意すること」

→「年齢、体重、肝・腎機能などの身体状況を勘案すること」

処方内容の確認の際に参考にしていただきたい。

 

BPSDの薬物治療において薬剤師が肝に銘じておくべきことは、

「対応の第一選択は、非薬物的介入が原則である。」ことと「抗精神病薬の使用は適応外であり、基本的には使用しないという姿勢が必要である。」こと。

(「かかりつけ医のためのBPSDに対応する向精神薬使用ガイドライン」より)

つまり、ケアが重要だと言うことである。

 

※認知症の患者さんの薬の管理と服薬介助については、コンテンツ[⑤薬局でできること]にまとめておいたので、参照いただきたい。

 

 

以上

 

 

 

[参考資料]

・認知症治療ガイドライン2010年(コンパクト版2012)

(日本神経学会)

 

・かかりつけ医のためのBPSDに対応する向精神薬使用ガイドライン

平成24年度厚生労働科学研究費補助金(厚生労働科学特別研究事業)

認知症、特にBPSDへの適切な薬物使用に関するガイドライン作成に関する研究班作成

 

「アルツハイマー病の治療はどこまで進んでいるか?」新井平伊:順天堂医学.2008,54 P.516~519

 

「新しい認知症治療薬の位置づけ」菱川望・阿部康二:日本内科学会雑誌第103巻第8 号・平成26年8 月10

日 P.1823~1830

 

「Alzheimer 病を中心とした認知症の最新治療」北村伸:日医大医会誌2012; 8(4)P.291~295

 

 

 

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