[認知症PLUS]②いろいろな認知症


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[認知症PLUS]②いろいろな認知症

 

 

このコンテンツは、認知症の概要について整理したものである。

他のコンテンツで使われる用語の説明にもなっている。

 

認知症とは、脳の組織の変性や血管障害による損傷のため、脳の機能に障害が起こり、日常生活に支障をきたしている状態である。

脳の機能とは、記憶力や判断力、注意力、計画力、実行能力、会話能力などの知的機能を指す。

日本における認知症の有病者数は、約462万人(平成24年)と推定されている。

 

代表的な認知症は、「アルツハイマー型認知症」「血管性認知症」「レヴィ小体型認知症」「前頭側頭型認知症」であり、認知症全体に占める割合については以下の報告がある。

 

=認知症を呈する主要な疾患が認知症全体に占める割合=

(World Alzheimer Report 2009:Alzheimer’s Disease International)より

アルツハイマー型認知症    :50-75%

血管性認知症         :20-30%

レビィ小体型認知症      :<5%

前頭側頭葉型認知症      :5-10%

 

※これらの認知症における割合は、報告により差が大きい。

たとえば、レヴィ小体型認知症は、報告により5~20%とかなり差が見られる。

さらに認知症は合併していることが多く、アルツハイマー型認知症単独のケースは全体の20%ともいわれている。

 

認知症患者の1割弱に「治療可能な認知症」がある。

例えば、甲状腺機能低下症、薬物性認知症、慢性硬膜下血腫、正常庄水頭症などである。

これらは、早期に対応することで治癒も見込めるため、初期症状を見逃さないようにしたい。

このように、認知症は根治ができない疾患とできる疾患があるということであり、それゆえに早期の鑑別診断が重要なのである。

 

=治療可能な認知症=

・慢性硬膜下血腫

・正常圧水頭症

・甲状腺機能低下症

・ビタミン欠乏

・肝性脳症、肺性脳症、腎性脳症

・薬剤性認知症

など

 

認知症は、脳神経の破壊が進み脳全体が委縮していく結果、認知機能が障害される疾患である。

脳細胞が壊れることによって直接起こる症状を「中核症状」、患者さんのパーソナリティ、環境、人間関係などの要因で起こる症状を「周辺症状」と呼ぶ。

さらに具体的な症状で整理すると以下のようにまとめることができる。

 

 

 

「中核症状」

脳細胞が壊れることによって起こる症状

 

①記憶障害

近時記憶が障害される。

アルツハイマー型認知症の初期には、エピソード記憶が障害される。

加齢に伴う物忘れとの違いは、朝食の味噌汁の具を忘れるのが物忘れであり、朝食を食べたことを忘れるのが認知症と例えられる。

 

②見当識障害

→時間、空間、人物などを正確に認知できなくなること。

ちなみに時間→空間→人物の順に障害が進行すると言われている。

 

③理解・判断力の障害

→1度に処理できる情報量が減るので、2つ以上の情報が重なると理解できなくなる。

必要な話は、「短く、簡単な言葉で、繰り返し」が大切になる。

 

④実行機能障害

→計画を立てて実行することができなくなること。料理などで判明することが多い。

 

⑤失行・失認・失語

失行:運動機能の障害はないのに、日常生活の中でそれまではできていた動作や行為が正しくできなくなること。

失認:視覚や触覚などで認知できていたものが正確に判断できなくなること。

失語:言語中枢の障害により、言語を理解できなくなったり、声が出なくなること。

 

 

 

「周辺症状 BPSD:Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia」認知症に伴う精神症状と行動障害(以下BPSDと略す)

患者さんのパソナリティ、環境、人間関係などの要因で起こる症状。

BPSDは、認知症の7割に出現するといわれ、症状は多彩であり、大きく「精神症状」と「行動障害」に分けられる。

問題行動が次々と起こるようなケースでは、介護者は大きな負担を感じ、介護うつの原因になることもある。

認知症の場合、自分を受け入れてもらえなかったり、自分の思いが伝えられないようなときに、問題行動が激しくなる傾向があるといわれている。

これは、ケアの重要性を示し、薬物療法の慎重な適応を示唆するものである。

 

<精神症状>

・アパシー(自発性の低下、無関心)

・幻覚

・妄想

・不安、焦燥

・うつ症状、抑うつ状態

 

<行動障害>

・徘徊

・せん妄

・睡眠障害

・異食、過食

・暴言、暴力

・排尿障害、失禁

・介護への抵抗

 

 

 

このコンテンツでは、代表的な認知症の原因疾患4つの概要を復習しておきたい。

 

[アルツハイマー型認知症 AD:Alzheimers Disease](以下、ADと略す)

ADは、もっとも多い認知症であり、進行性の神経変性疾患である。

脳の神経細胞が破壊される原因としては、脳内の老廃物であるβタンパクとτ(タウ)タンパクが考えられている。

これらのタンパクが蓄積することにより脳神経の破壊が進行し、海馬を中心に脳全体が委縮していく。

その進行は、速度が変化することはあっても確実に悪化していく。

全経過期間は2~20年といわれている。これは、個人により進行に大きく差があることを示している。

 

症状におけるもっとも大きな特徴は、初期の近時記憶障害である。

特に、日々のエピソード記憶が障害され、約束、食事、物の置き場所などを忘れてしまう。

近時記憶の障害に対し、遠時記憶は比較的保たれる。

つまり、昔の話は覚えていることが多いのである。

このことは、残存機能を活かす工夫、患者さんとのコミュニケーションをとる工夫のヒントになることを覚えておきたい。

症状が進行するにつれ、視空間障害、計算障害、書字障害などの認知機能障害が出現する。

 

ADのBPSDの中でもっとも高い頻度でみられる精神症状は、「アパシー」である。

アパシーとは、比較的初期から初期からみられる自発性低下、無関心などの症状であり、ADの70~80%に出現する。

 

妄想は、ADの半数以上に見られ、被害妄想が多いといわれている。

いわゆる「もの盗られ妄想」である。

「嫁が財布を盗んだ」など、貴重品や金銭などについて訴えることが多い。

これは、患者さんが「大切なモノ」を人目につかない場所にしまい、その場所やしまったこと自体を忘れるためである。

 

ADの中核症状には、認知症治療薬が使われる。

※認知症治療薬については、別のコンテンツ「③薬物治療で覚えておくこと」で情報を整理する。

認知症治療薬には、コリンエステラーゼ阻害薬とNMDA受容体拮抗薬の2種類がある。

これらの薬剤は、認知機能、日常生活動作、行動障害の改善および進行抑制作用が報告されている。

なお、この「進行抑制」という意味は、あくまでも症状の進行であり、「神経の変性」の抑制のことではない。

脳の破壊されていない細胞・ネットワークを賦活し、認知機能の低下を防ぐ作用なのである。

そのため、これらの薬剤の効果は6ヶ月~2年といわれている。

 

=認知症治療薬=

コリンエステラーゼ阻害薬:ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミン

NMDA受容体拮抗薬:メマンチン

 

2016年現在、日本で使えるのは4種類であるが、選択できる剤型が増え、作用機序が異なる薬剤が発売されたことにより、併用効果も期待できるようになった。

 

 

[脳血管性認知症 VaD:Vascular Dementia](以下、VaDと略す)

VaDは、脳出血や脳梗塞などの脳血管障害に起因して起こる認知症の総称である。

ADと異なるのは、VaDでは記憶障害は主症状ではないことである。

では、特徴的な症状は何かというと、「うつ」が多いのである。ちなみに「幻視」「妄想」は稀なことが多い。

 

VaDの原因は広範皮質病変よりも皮質下病変がほとんどだといわれている。

皮質下病変では前頭葉と線条体の回路が中断し、特に「注意力、情報処理、実行力の障害」が起こりやすくなる。

このことが、うつ、無感動が多い理由と考えられている。

ちなみに、幻視、妄想が少ない点は、レヴィ小体型認知症との鑑別のポイントになる。

 

VaDでは、心臓や大血管も障害されていることが多いため、平均生存年数は低く、3~5年である。

VaDはADとは成因・病態が異なるため、純粋なVaDには認知症治療薬は有効性が期待できない。

ただし、VaDとADは合併している場合が多く、その場合には認知症治療薬の効果が期待できることになる。

 

 

[レヴィ小体型認知症 DLB:Dementia with Lewy Bodies](以下、DLBと略す)

「レヴィ小体」とはαシヌクレインというタンパク質が蓄積したものである。

これが脳内に蓄積して発症するのが、DLBである。

レヴィ小体が、大脳皮質に蓄積するとDLBの症状が現れ、脳幹に蓄積するとパーキンソニズムが現れるとされている。

 

初期には、幻視が現れるのが特徴で、他には、小刻み歩行、手足のふるえ、筋肉のこわばりなどがあらわれる。

AD特有の物忘れなどは、目立たないことがあり、パーキンソン病と診断されることも少なくないといわれている。

 

DLBとADの鑑別の最大のポイントは「幻視」の存在であり、認知症初期に幻視があると病理的にレヴィ小体型認知症の確率が極めて高い。

ちなみに、幻視は人、子供、動物が多いといわれている。

 

薬物治療は、認知機能障害に対して、ドネペジル、リバスチグミンおよびメマンチンに改善効果が認められている。

※2016年4月現在 ドネペジル以外は保険適応外

 

 

[前頭側頭型認知症 FTD:Frontotemporal Dementia](以下、FTDと略す)

FTDは、大脳の前頭葉と側頭葉が委縮することによって発症するが、原因は不明。

ADのような記憶障害や見当識障害はみられず、人格や性格が極端に変化するのが特徴である。

進行すると、非社会的な行動をとる場合も見られる。

たとえば、八百屋さんで大根がほしいと思うと、代金を払わずにもってきてしまう。

本人は、悪いことをしている意識はなく、何度でも繰り返す。

人の話は聞かず、同じ言葉を繰り返したり、他人の言葉をオウム返ししたりする。

また、決まった時間に決まった行動をしないと気が済まなくなる。

自分の椅子やテーブルなどの位置がいつもと違うことでも興奮状態になる。

日常生活は普通に送れるため、周囲は精神病を疑うことがあっても、認知症と気づく人は少ない。

つまりは、専門医以外は誤診されやすい疾患ということである。

薬物治療は、行動障害の改善のためにSSRIが使用されるが、現在の時点でFTDの認知機能低下に対する有効な薬剤はない。

※コリンエステラーゼ阻害薬は評価が定まっていない。メマンチンは、行動異常に対する部分的な効果が報告されている。

 

以上が、代表的な4つのタイプの認知症の概要である。

日本で最初の認知症治療薬アリセプトが新発売になってから十数年、認知症の病態の解明が進み、診断が向上し、治療薬の選択肢が増えた。

医薬情報の亢進が重要であることは論を待たないが、認知症の基本情報をまとめると改めて日々の勉強の大切さを実感する。

 

 

以上

 

 

 

[参考資料]

・認知症治療ガイドライン2010年(コンパクト版2012)

(日本神経学会)

 

・医療の俯瞰報告書 -認知症(特にアルツハイマー型認知症)について-

平成22年3月 独立行政法人 科学技術振興機構 研究開発戦略センター

 

・「認知症の治療とケア」-基本から実践まで-

監著:高瀬義昌

著:榊原幹夫・助川未枝保・永田久美子

(株式会社 じほう)

 

・The Lancet, Oct24,2015, Series: Non-Alzheimer’s dementia 3

 

 

 

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