[高齢者の薬物療法PLUS]⑥高齢者に注意するべき薬


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[高齢者の薬物療法PLUS]⑥高齢者に注意するべき薬

 

 

このコンテンツでは高齢者に注意するべき薬を考察する。

 

高齢者に注意するべき薬とは、どのような薬だろうか?

高齢者への処方が多い薬、有効性を発揮する血中濃度域が狭い薬、特殊な体内動態を示す薬など、いろいろな切り口がある。

ここでは以下の4つの切り口から考察する。

1)高齢者への投与を注意するべき薬のリスト

2)特定薬剤管理料対象薬

3)非線形薬物

4)抗コリン剤と睡眠薬→(⑥-2高齢者に注意するべき薬2で解説)

 

このようなリスト・分類は、高齢者への処方薬の整理や優先順位を考える際に有効である。

ひとつのリストを盲信するのではなく、いろいろな視点で考えることができるよう複数の切り口を知っておきたい。

その切り口を紹介するのが、このコンテンツの目的である。

 

 

 

[1)高齢者への投与を注意するべき薬のリスト]

高齢者への投与を注意するべき薬をまとめたリストを3種類紹介する。

 

【Beers Criteria】

「ビアーズ基準」は、1991年米国のマーク・H・ビアーズらによって「65歳以上の高齢者にとって望ましくない薬剤」としてリストアップされた。

高齢者に投与した場合にリスクがベネフィットより大きいと考えられる“不適切な”医薬品を、米国の薬理学、老年医学、精神医学をはじめとした専門知識を有する急性期・慢性期・地域医療の専門家に依頼して“デルファイ法”という合意形成方法を使って作ったエキスパート・コンセンサスガイドラインである。

 

「高齢者に対する多剤投与等による影響把握と症状別の投与選択法に係る研究」古田勝経(長寿医療研究委託事業 総括研究報告書)によると、高齢者における多剤投与の実態について、国立長寿医療センターの入院データベース(2009年1月~2009年12月)を解析したところ、Beers Criteriaに関連する薬剤は80%の患者に処方されていた。

(国立長寿医療センターに入院していた65歳以上の2484名のうち内服薬を服用していた2001名を対象に解析した。6剤以上の多剤投与は全体の37.5%、平均処方薬剤数は4.9剤であった。薬効別の処方薬剤数の割合は、循環器用剤(30.1%)や消化性潰瘍治療剤(11.2%)で高い割合を示した。)

 

【Beers Criteria Japan】

2008年4月、国立医療科学院 疫学部長 今井博久が発表したBeers Criteriaの日本版。
主旨は、Beers Criteria米国版と同様であり、このリストをたたき台にしたため、約70%は共通の薬剤になっている。発表された当時は、メディアでも紹介されていた。

あえて記しておくが、このようなリストに対して(米国版においても日本版においても)一部問題を指摘する声もある。

たとえば、

・現在、ほとんど使用されない薬剤も含まれている

・重篤な副作用の報告のない薬剤も含まれている

・高齢者に投与すべき薬が投与されていないことをこそ問題にすべきである

などである。

しかし、高齢者医療のエビデンスが不十分な中で、このようなリストが作られたこと自体には大きな意義があるだろう。

 

【高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015】

このガイドラインは、日本老年医学会がまとめた「高齢者に対して特に慎重な投与を要する薬剤のリストと解説」である。

(高齢者の安全な薬物療法ガイドラインは2015年に改訂されている。)

内容は、領域毎に主要薬剤を「特に慎重な投与を要する薬物のリスト」と「開始を考慮するべき薬物のリスト」にわけて分類している。

このリストでは、推奨される使用法、エビデンスの質と推奨度、参考にしたガイドラインまたは文献が確認できる。

 

これらのリストは、薬剤の優先順位や処方内容の見直しの際には、有用な資料である。

たとえば、処方を見直すとき(減量、中止、変更の際)の、優先順位を考えるときである。

このときに可能であれば、当該疾患の治療ガイドラインも確認しておきたい。

 

 

 

[2)特定薬剤治療管理料対象薬]

特定薬剤治療管理料は、「厚生労働省が指定した薬剤に対して投与薬剤の血中濃度を測定し、その結果に基づき当該薬剤の投与量を精密に管理した場合、月1回に限り算定する。」ものである。

つまり、これらの薬剤は治療域が狭く、投与量に注意しながら、治療計画を立てるべきものなのである。

当然、高齢者に処方される場合にも注意すべき薬剤リストと考えてよいだろう。

 

どのような薬が指定されているかを、厚生労働省の通知から紹介する。

(「診療報酬の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について(通知)」平成28年3月4日 保医発0304第3号から該当部分を引用一部改変。)

 

【特定薬剤治療管理料】

(1) 特定薬剤治療管理料は、下記のものに対して投与薬剤の血中濃度を測定し、その結果に基づき当該薬剤の投与量を精密に管理した場合、月1回に限り算定する。

 

ア)心疾患患者であってジギタリス製剤を投与しているもの

イ)てんかん患者であって抗てんかん剤を投与しているもの

ウ)気管支喘息、喘息性(様)気管支炎、慢性気管支炎、肺気腫又は未熟児無呼吸発作の患者であってテオフィリン製剤を投与しているもの

エ)不整脈の患者に対して不整脈用剤を継続的に投与しているもの

・プロカインアミド

・N-アセチルプロカインアミド

・ジソピラミド

・キニジン

・アプリンジン

・リドカイン

・ピルジカイニド塩酸塩

・プロパフェノン

・メキシレチン

・フレカイニド

・シベンゾリンコハク酸塩

・ピルメノール

・アミオダロン

・ソタロール塩酸塩及びベプリジル塩酸塩

オ)統合失調症の患者であってハロペリドール製剤又はブロムペリドール製剤を投与しているもの

カ)躁うつ病の患者であってリチウム製剤を投与しているもの

キ)躁うつ病又は躁病の患者であってバルプロ酸ナトリウム又はカルバマゼピンを投与しているもの

ク)臓器移植術を受けた患者であって臓器移植における拒否反応の抑制を目的として免疫抑制剤を投与しているもの

・シクロスポリン

・タクロリムス水和物

・エベロリムス及びミコフェノール酸モフェチル

ケ)ベーチェット病の患者であって活動性・難治性眼症状を有するもの又はその他の非感染性ぶどう膜炎(既存治療で効果不十分で、視力低下のおそれのある活動性の中間部又は後部の非感染性ぶどう膜炎に限る。)、重度の再生不良性貧血、赤芽球癆、尋常性乾癬、膿疱性乾癬、乾癬性紅皮症、関節症性乾癬、全身型重症筋無力症、アトピー性皮膚炎(既存治療で十分な効果が得られない患者に限る。)若しくはネフローゼ症候群の患者であってシクロスポリンを投与しているもの

コ)若年性関節リウマチ、リウマチ熱又は慢性関節リウマチの患者であってサリチル酸系製剤を継続的に投与しているもの

サ)悪性腫瘍の患者であってメトトレキサートを投与しているもの

シ)全身型重症筋無力症、関節リウマチ、ループス腎炎、潰瘍性大腸炎又は間質性肺炎(多発性筋炎又は皮膚筋炎に合併するものに限る。)の患者であってタクロリムス水和物を投与しているもの

ス)重症又は難治性真菌感染症又は造血幹細胞移植の患者であってトリアゾール系抗真菌剤を投与(造血幹細胞移植の患者にあっては、深在性真菌症の予防を目的とするものに限る。)しているもの

・グリコペプチド系抗生物質:バンコマイシン及びテイコプラニン

・トリアゾール系抗真菌剤:ボリコナゾール

セ)片頭痛の患者であってバルプロ酸ナトリウムを投与しているもの

ソ)イマチニブを投与しているもの

タ)結節性硬化症に伴う上衣下巨細胞性星細胞腫の患者であって抗悪性腫瘍剤としてエベロリムスを投与しているもの

 

[3)非線形薬物]

大部分の薬は、投与量を多くするとその分だけ血中濃度も高くなる。わかりやすく言うと、2倍の量の薬を飲むと、血中濃度も2倍になる。

その関係は、比例しているのである。

ところが一部の薬は、投与量に比例しない。

2倍の量を飲んだのに血中濃度が3倍に上昇したり、1.5倍に頭打ちになったりする。

このような薬を「非線形薬物」と言う。

 

薬は代謝されて薬効を失い排泄されるが、この代謝酵素に限界があるときを考えてみよう。

代謝酵素の限界までは、投与量が増加するに従い代謝機能も働いていく。つまり、ここまでは投与量が多くなってもそれに伴って消失も増えていく。

ところが、代謝が限界点まで到達すると、それ以上は一定量しか代謝できない。

代謝できない未変化体は血中に増え続け、血中濃度が跳ね上がるのである。

もちろん、これは薬の過剰投与の状態である。

だから、「非線形薬物」が高齢者に処方された場合は、注意深く経過観察しなければならない。

 

「非線形薬物」の代表はフェニトインであるが、他にはどのような薬があるかを菅野先生のテキスト「患者とくすりがみえる薬局薬物動態学」松澤忍・菅野彊(南山堂)から引用する。

・パキシル:パロキセチン塩酸塩水和物

・アスぺノン:アプリジン塩酸塩

・プロノン:プロパフェノン塩酸塩

・イトリゾール内用液:イトラコナゾール

・ブイフェンド:ボリコナゾール

・ミカルディス:テルミサルタン

・レイアタック:アタザナビル硫酸塩

・レスクリプター:デラビルジンメシル酸塩

など

 

※復習

薬の体からの消失パターンは2つに分かれる。図1参照

まず、飲む量が多くなればなるほど消失する量も多くなるタイプ。

このタイプは、血中濃度が高いとき(体にたくさんの薬がある状態)は消失する量が増えるので、単位時間の血中濃度はストンと下がる。

しかし、時間の経過とともに血中濃度が低くなり、体の薬の量が少なくなれば消失する量は減るため、血中濃度の下がり方は緩やかになっていく。

つまり、血中濃度と経過時間は直線にならない。この消失パターンを「一次速度過程」と言う。

 

もう一つのタイプは、飲む量が多くなっても一定量しか消失しない。これを「非線形薬物」という。

消失する量が一定であるということは、単位時間あたり血中濃度は同じように減っていくことである。

つまり、血中濃度と経過時間の関係は直線になる。この消失パターンを「ゼロ次速度過程」という。

 

薬のほとんどは、一時速度過程、つまり体内薬物濃度に比例して消失していく。

 

 

 

以上、高齢者に注意するべき薬1)~3)までを紹介した。

薬剤を選択する参考になれば幸いである。

次のコンテンツでは高齢者にとって注意するべき薬として4)「抗コリン作用を持つ薬」と「向精神薬」を考察する。

 

 

 

[参考資料]

・「Beers Criteria日本版への疑義:未熟なコンセンサスガイドライン」

齊尾 武郎:Clin Eval 36(2)2008;P.467-472

 

・「高齢者に対する多剤投与等による影響把握と症状別の投与選択法に係る研究」(長寿医療研究委託事業 総括研究報告書)

古田勝経:日老医誌 46:271-274,2009

 

・「診療報酬の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について(通知)」

平成28年3月4日 保医発0304第3号

別添1 医科診療報酬点数表に関する事項

http://www.mhlw.go.jp/file.jsp?id=335811&name=file/06-Seisakujouhou-12400000-Hokenkyoku/0000114867.pdf

 

・「患者とくすりがみえる薬局薬物動態学」松澤忍・菅野彊(南山堂)

 

 

以上

 

 

 

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