[高齢者の薬物療法PLUS]⑤アドヒアランス


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[高齢者の薬物療法PLUS]⑤アドヒアランス

 

 

このコンテンツでは「アドヒアランス」について考察する。

 

高齢者の薬物療法で考慮するべき2本の柱がある。

ひとつは「投与量の調節」であり、もうひとつは「アドヒアランス」である。

「投与量の調節」は、疾患や高齢による生理的変化に対応した投与量にすることであり、過量投与を防ぐことが主な目的である。

 

アドヒアランスとは「患者さんが積極的に治療方針の決定に参加し、その決定に従って治療を受けること」であるが、高齢者では服用状況に問題が見られるケースが多い。

このコンテンツでは、その原因と対策を整理する。

 

 

[なぜ、服用状況が悪くなってしまうのか?]

アドヒアランスが低下する原因は、ケースによって異なる。

一例一例、注意深く原因を探るしかない。

では、何をチェックするかを整理してみよう。

「高齢者における服薬アドヒアランス低下の要因」(葛谷雅文:CLINICIAN 15 NO. 635 P.75-80)から、その要因を引用し、補足する形でまとめたい。

 

 

【高齢者における服薬アドヒアランス低下の要因】

1)疾患関連

・多疾患に罹患している

・認知症

・抑うつ

 

2)患者関連

・認知機能の低下

・薬物効果(作用)の不理解

・薬物内服方法の不理解

・飲み忘れ

・薬の管理能力の低下

・視力低下 薬袋上の文面の判読不能

・聴力低下 説明の不理解

・ADLの低下 服薬作業能力の低下

・病識の欠如

・薬物副作用の経験

・医療関係者への不信

・自己判断

 

3)処方、服薬方法関連

・薬物数が多い

・薬物の種類が多い

・服薬回数が多い

・服薬方法が複雑

・薬物剤形の不適

・治療期間が長期

・薬物ならびに服薬方法の変更が多い

 

4)環境・医療関係者関連

・独居

・服薬管理者欠如

・服薬管理能力評価の未実施

・薬物に関する説明不足

・服薬方法に関する説明不足

・家族への説明不足

・医師・薬剤師間の連携不足

 

 

【補足】

1)疾患関連について

「他疾患に罹患している」ことは、服用薬剤数が多くなることを意味している。

また、「自覚症状がない」「服用期間が長い」ことは、アドヒアランスを低下させる要因である。

認知症の患者さんの服用状況が悪い場合に注意することは、患者さんご本人に自覚がないことである。

本人は、決められたとおりにキチンと飲んでいると思っている場合がある。

このようなケースの時は、ご本人の自尊心を傷つけないように説明し、ご了解をいただいてから対応する。

 

2)患者関連

注意したいことに「薬物の味」がある。これは、患者さんにとって好きかどうかが大切である。

また、専門用語の使い方も気をつけたい。

わかりやすい説明は、患者さんの病気・治療の理解を深めてアドヒアランスを向上させる。

が、なによりも医療関係者との信頼関係を強くする基本である。

「患者さんのライフスタイルに合わない」ケースもある。

たとえば、「ワシは朝ごはんを食べないので、朝食後の薬を飲んでないもんね!」という場合。

ご飯を食べないと食後の薬を飲んではいけないと考える患者さんは、思ったより多い。

 

視力・聴力などの身体の機能に関しては、患者さんと接する時にある程度、把握できる場合が多い。

患者さんが待合の椅子から窓口まで歩いてくるのを観察すれば、歩行機能が推測できる。

薬の説明のやり取りでは、聴力と視力がある程度わかるだろう。

また、自己負担がある場合には、お支払の際の手指の動きを観察したい。

小型の内服薬が出ている場合に、困っていないかをお声掛けするためである。

 

<ご参考>

患者さんの行動観察のチェックするポイントを挙げておく。

・自力歩行、杖や車椅子の使用

・同伴者の有無(同居する家族、介護者などの情報)

・表情

・話し方、その内容

・口腔(入歯など)

・皮膚の状態(脱水、栄養状態、むくみなど)

・視力、聴力

・会計(お金の出し方)

など

 

3)処方、服薬関連

薬の服用に関しては、「少なく、簡単に、わかりやすく」が基本方針である。

なお、剤型に関しては、「患者さんの嫌いな剤型」に注意したい。

薬を出す側は、飲みやすい、便利と考えても、その剤型を患者さんが嫌いな場合がまれにある。

(「薬の味」と同じである。)

用法の異なる薬に変更になった場合、「変更前の薬を長期間服用していた」や「変更前後の薬が似ている」場合は注意する。

これまでの習慣で、変更前の用法で飲んでしまうことがあるからだ。

 

剤型については、新しいデバイスに注意が必要である。

代表は、吸入薬である。

今までと操作法が異なる吸入薬が処方された場合は、説明書の添付はもちろんだが、必ず目の前で患者さんに試してもらいたい。

 

4)環境・医療関係者関連

どれだけわかりやすい説明をしたとしても、一度の説明だけでは不十分と考えたほうがよい。

ゆえに、患者さんにくどいと思われないように工夫し、服用状況を定期的にチェックする。

家族や親戚等、患者の薬の管理を手伝う支援者が存在していても、正しく服薬出来ているとは限らないと思っておこう。

本人、家族、介護スタッフなどなるべく多くの関係者から服用状況を確認し、残薬も定期的にチェックする。

 

生活習慣病の薬、予防的な効果の薬の場合は、患者さんが薬効を実感することが難しい。

特に症状もなく、自分で効いていることが実感できなければ、服薬のモチベーションも高くならない人も出てくる。

薬剤師は薬の効能だけではなく、服薬の目的-予防や症状の進行抑制といった治療目的についても説明する。

 

医師、薬剤師に対する畏怖や遠慮もある。

「いや、ほとんど飲んでます。」「余るっちゅーことはあんまりなかったですね。うん。大丈夫。」

ご年配の患者さんに服用状況をたずねると、このような答えは多い。

が、実際には残薬がどっさり見つかるケースも体験した。

患者さんがこのような悲しい嘘をつかなくてもすむように、患者さんの畏怖や遠慮は取り除いてあげたい。

この解決方法は、ありきたりだが患者さんとの「信頼関係」を構築することである。

 

以上、高齢者における服薬アドヒアランス低下の要因を整理した。

患者さんの疾患、患者さんの身体機能、服用薬剤数、服用方法の理解、医師・薬剤師らとの関係性などが要因になっている。

服薬アドヒアランスに問題がある場合には、これらの項目から該当するものを確認すると対策を立てやすいと思う。

 

 

[アドヒアランスを良好にするためにできること]

次にアドヒアランスを良好にするためにできることをまとめる。

「高齢者における服薬アドヒアランス低下の要因」を引用した同じ文献より、アドヒアランスを向上させる指針を教材とし考察したい。

 

高齢者服薬アドヒアランス向上に関する指針(葛谷雅文:CLINICIAN 15 NO. 635 P.75-80)

1)薬物量の削減

2)服薬方法の単純化

3)薬効、服薬方法の教育

4)認知機能の評価 服薬管理能力の評価  :服薬管理能力の評価

5)身体機能評価(視力、聴力、ADL を含む):服薬管理能力の評価

6)薬物副作用に対する説明ならびに対策

7)薬物剤形の工夫

8)長期投与を避ける

9)内服状況のチェック

10)薬物同包化

11)ピル・ボックスの利用

12)服薬管理者の選定

13)服薬管理者への教育

14)薬剤師との密な連携

 

 

【考察】

まず、最初に行うのはアドヒアランスの低下の原因を探ることである。

明らかな原因が特定できなかったときには、服薬アドヒアランスの低下の要因を一項目づつチェックしていく。

 

「1)薬物量の削減」については、薬剤師の立場では対応しにくい。

ただし、患者さんが服用していない薬、重複投与、相互作用などは必ず確認し、「処方してはいけない薬」が出ていないかはチェックしておきたい。

 

「2)服薬方法の単純化」は、薬剤師の腕の見せ所である。

患者さんの性格や生活習慣にもよるが、一般的に最も服用がよくないのは「昼食時」である。

また、服用支援の方のスケジュールを把握し、その方がいる時に服用時点をそろえることも大切である。

 

「3)薬効、服薬方法の教育」、「6)薬物副作用に対する説明ならびに対策」、「13)服薬管理者への教育」の3項目に共通する重要なことは、「わかりやすく説明する」ことである。

わかりやすい説明の基本は、「専門用語を使わない」である。

一度、自分の説明を薬局のスタッフに聞いてもらうとよい。

 

「11)ピル・ボックスの利用」は、カレンダー等も含めた服用支援グッズの利用のことであるが、認知機能に問題がある場合には注意したい。

日時の認識ができなければ、服用日や曜日別に整理しても、服用の改善は難しい。

今日が何日で何曜日なのかが認識できなければ、自分で飲み忘れを確認できないからだ。

市販されている服用支援グッズ以外で効果が期待できるのは、あなたが作成した服薬説明書、服薬チェックシートなどである。

 

「14)薬剤師との密な連携」は、非常に大切である。

薬剤師は、しばしば患者さんと医師の橋渡し役を担う。

たとえば、薬の服薬状況が悪いことを、医師に言うと怒られると思い、ごまかしている患者さんのケースである。

この問題を解決する場合、あなたと患者さんの関係も良好であることが必要だが、医師との関係性も大切である。

そのためには、日頃の密な連携が必要十分な条件になるのである。

 

また、外来診療の問題がコンプライアンスに微妙に影響することも指摘されている。

具体的には、来院回数が多くなる、待ち時間が長い、来院するのが不便(公共交通機関が使えない、駐車場が狭いなど)などがコンプライアンスに影響する場合がある。

 

 

以上、高齢者の服薬アドヒアランスの原因と対応について考察した。

最期に大切な注意点を2点述べる。

これらの対策は行った後、かならず服用状況を確認すること。

可能であれば、患者さんだけでなく、ご家族や介護者など多くの方に状況確認するのが理想的である。

また、患者さんが在宅の場合、あなたが行なった工夫や対策は、主治医はもちろん在宅の関連スタッフの方と情報を共有することをオススメする。

1本のTELやFAXが、患者さんのメリットを増やすだけでなく、あなたの信用も厚くする。

 

 

[参考資料]

・「高齢者における服薬アドヒアランス低下の要因」

葛谷雅文:CLINICIAN 15 NO. 635 P.75-80

 

・「高齢者の薬物療法とコンプライアンス」

中野ら:日老医誌 1999; 36: 173-175

 

・「高齢者の薬物治療における残薬発生・長期化の要因に関する質的研究」

中村 友真ほか:社会薬学 (Jpn.J.Soc.Pharm.) Vol.35 No.1 2016 P.2-9

 

 

以上

 

 

 

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