[高齢者の薬物療法PLUS]④腎機能低下時


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[高齢者の薬物療法PLUS]④腎機能低下時

 

 

このコンテンツでは、高齢者の「腎機能低下時」の薬物療法を考察する。

 

高齢化による生理的変化は、薬にいろいろな影響を及ぼす。

(詳しい内容は、「③高齢者の生理的変化」参照。)

最も注意するべき点は、高齢化により代謝・排泄の機能が低下し、薬が「過剰投与」の状態になることである。

特に排泄器官の腎は、高齢化による生理的機能の低下が顕著である。

肝代謝機能を簡便に測定する検査はないが、腎機能を推定することは可能である。

腎から排泄される薬は、腎機能によって効果や副作用が影響を受ける。

腎機能が低下している場合は、腎以外から排泄される薬に変更するか、投与量を調節しなければならない。

 

ゆえにこのコンテンツでは、3点の内容を整理する。

1)薬の排泄型を確認するにはどの指標を見るか?

(腎から排泄される薬かどうかを確認するためである。)

2)腎機能を知るための方法

3)腎機能が低下している場合に腎から排泄される薬を飲むときの投与量の調節

この3点は、腎機能低下時の薬物療法の基本中の基本である。

 

 

 

[1)薬の排泄型を確認するにはどの指標を見るか?]

患者さんの腎機能が低下している場合は、薬の排泄型を確認する。

腎機能が薬剤の排泄に及ぼす影響を考えるためである。

体内に入った薬剤が肝臓で代謝されて、その代謝物が胆汁や尿中に排泄されるタイプを「肝排泄型」、未変化体で腎臓から尿中に排泄されるタイプを「腎排泄型」と言う。

薬の排泄型を判断するためには、「尿中未変化体排泄率(fu)」「油水分配係数(P)」の2つの指標を調べる。

 

【尿中未変化体排泄率(fu)】

投与された薬が代謝を受けることなく、そのまま腎臓を通って未変化体で尿中から排泄される割合である。

fuは、以下の式で求められる。

fu=尿中未変化体/薬物吸収量

fuが大きい:腎排泄型薬物>fuが小さい:肝排泄型薬物

 

【油水分配係数(P)】

その成分が油と水のどちらに溶けやすいかを現す指標であり、脂溶性薬物か水溶性薬物かを推定する目安である。

Pが1より大きい場合は脂溶性、1未満の場合は水溶性になる。

通常は、油水分配係数はlogPで表されている。

logPの場合は、プラスの値であれば脂溶性、マイナスの値であれば水溶性である。

logPは、脂溶性の場合、一の位の数値は倍数で表される。

たとえば、一の位が1の場合は10倍、2の場合は100倍を表し、それぞれ、水よりも10倍、100倍脂に溶けやすいことを意味している。

脂溶性薬物は肝臓で代謝されることにより排泄されるので「肝排泄型」、水溶性薬物は腎臓から排泄されるので「腎排泄型」と判断する。

多くの脂溶性薬物はそのままでは腎の糸球体から排泄されても尿細管で再吸収を受けたり、肝内胆管で再吸収されて体内に長く留まり蓄積する。

そのため生体は、肝が薬物をより水溶性の高い物質にして排泄しやすくするために代謝を行う。

腎機能が低下している場合、肝排泄型薬剤でよいが、腎排泄型の場合には投与量の調節(もしくは、薬剤変更)が必要である。

投与量の調節方法の前に腎機能に関する指標を紹介する。

 

 

[2)腎機能を知るための方法]

血清クリアランスとクレアチニンクリアランス

腎機能はgold standardであるイヌリンクリアランス、すなわち糸球体濾過速度(GFR:glomerular filtration rate)を用いるのが理想である。

しかし、添付文書の記載は長期間にわたって臨床で繁用されてきたクレアチニンクリアランス(以下Ccr)別の投与量設定が主流である。

Ccrは、1日の尿量を測る必要があるため、外来での測定は難しい。

よって、血清クリアランス値から推測する。

推測する方法はいろいろあり、安田式、Cockcroft-Gault式、折田式、Walser式などである。

ここでは、安田式とCockcroft-Gault式を紹介する。

なお、これらの推定値は、急激な腎機能の変動に対しては、正確には反映していないことは覚えておきたい。

 

→安田式

男性:Ccr=(176-年齢)×体重/100×血清クレアチニン値

女性:Ccr=(158-年齢)×体重/100×血清クレアチニン値

 

→Cockcroft-Gault式

男性:Ccr=(140-年齢)×体重/72×血清クレアチニン値

女性:Ccr(男性)×0.85

 

 

【復習】

クレアチニンとは生体内では筋肉・脳で生成されるクレアチンの脱水物である。(つまり、老廃物である。)

クレアチンは、筋肉運動のエネルギー源として重要な役割をしている。

生成されたクレアチニンは血流に入り、これが血清クレアチニンとなる。

クレアチニンは、腎糸球体から濾過されるが、尿細管での分泌も再吸収もほとんどされない。つまり、腎臓からストレートに排泄される。

この性質を利用して、24時間の蓄尿から排泄されたクレアチニンを測り、血清クレアチニンで割れば、クレアチニンクリアランスが得られる。

このように、クレアチニンを使って腎臓の排泄能力を推測するのである。

高齢者の場合に注意するべきことは、血清クレアチニンが正常にもかかわらず糸球体濾過量の低下が起こることである。

糸球体濾過量が少なくなっても、クレアチニンの生成量が少ないために見かけの正常値を示すのである。

 

 

[3)腎機能が低下している場合に腎から排泄される薬を飲むときの投与量の調節]

腎機能が低下しており、薬剤が腎排泄型の場合、投与量を調節しなくてはいけない。

このとき一番最初に行うことは、「添付文書の確認」である。

腎機能が低下した場合の投与方法が記載していないかを確認する。

添付文書に記載がない場合には、下記の方法などを用いて投与量を算出する。

ここでは、「投与量の調節」の代表的な方法であるGiusti-Hayton法を紹介する。

 

【Giusti-Hayton法】

腎機能が低下しているときの薬の投与量を求める代表的な方法

D(r)=D-D×fu(Ccr-Ccr(r)/Ccr)

 

D(r) :腎機能低下者投与量

D   :正常者の投与量

fu  :尿中未変化体排泄率

Ccr  :正常者クレアチニンクリアランス

Ccr(r):腎機能低下者クレアチニンクリアランス

腎機能→薬の排泄タイプ→投与量を調節→処方医に相談する

これが、基本的な考え方である。

 

 

[その他]

腎機能低下時の併用で注意するのは、「NSAIDs」「レニン・アンジオテンシン阻害薬」「シクロスポリン」などの薬剤である。

これらの薬剤は、腎動脈系を収縮させ、糸球体血流を低下させることにより糸球体濾過速度(GFR)を減少させるからである。

 

 

 

以上、腎機能低下時における超基本的な考え方をまとめた。

なお、実践的な内容については、⑦「具体的にどうすればよいか?」で考察する。

次は、「服薬アドヒアランス」について考える。

 

 

 

[参考資料]

・「患者とくすりがみえる薬局薬物動態学」松澤忍・菅野彊(南山堂)

 

 

以上

 

 

 

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