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[高齢者の薬物療法PLUS]③高齢者の生理的変化
このコンテンツでは、「高齢者の生理的変化」を整理する。
人間は、年齢を重ねるごとに体の構成成分や機能が変化していく。
それが、薬にどのような影響を与えるのかは高齢者の薬物療法を考えるうえで重要である。
同じ人間が、同じ薬を同じ量飲んでも、18歳のときと70歳のときでは、効き方も副作用の出現も異なる。
ここでは、薬に関連する主な変化を整理する。
・体構成成分の変化
加齢によって最も変化するのは、脂肪組織の増大と細胞内液の減少である。
わかりやすく言うと、体の水分が減り、脂肪が増えると言うことである。
・血漿アルブミン値の低下
アルブミンは肝臓において合成されるが、高齢に伴い合成能力が低下するのである。
・血流の減少
加齢により「腎」「肝」「脳」の血流が減少する。
・臓器機能の低下
腎:糸球体濾過量の低下
肺:分時最大換気量、肺活量の低下
肝:代謝機能の低下
以上が、薬に関係する主な生理的変化である。
次にこれらの変化が薬に与える影響を考察する。
【高齢者の生理的変化が薬に与える影響】
①薬物吸収
一般的に高齢化による消化管からの吸収は、遅延・減少する。
しかし、消化管からの薬物の吸収は、他の臓器に比べると高齢化の影響は少なく、多くの内服薬では吸収の影響は少ないと言われている。
(薬物の吸収低下を明確に示した報告は極めてまれである。)
②薬物分布
細胞内液(水分)の減少は、水溶性薬物の血中濃度上昇につながり、脂肪量の増加は脂溶性薬物の蓄積につながる。
また、血清アルブミンの低下により、タンパク結合率が高い薬剤の遊離型が増加する。
遊離型薬剤は組織に移行して薬理作用を発揮するため、その増加は薬効や副作用に影響する。
しかし、この遊離型薬剤の増加はクリアランスの増加を誘導し、新しい平衡状態に入るため一時的なケースが多い。
むしろ、タンパク結合率が高い薬剤の多剤併用の注意をするべきである。
③薬物代謝
肝臓におけるクリアランスは、肝血流量と薬物代謝酵素の活性により規定される。
加齢により肝血流量は低下し、酵素の産生や活性も低下するため、クリアランスは低下し肝代謝型薬物は血中濃度が増加しやすくなる。
ちなみに肝臓の代謝のうち、第1相代謝(酸化・還元、加水)機能は低下するが、第2相代謝(抱合)機能は比較的保持される。
④薬物排泄
腎からの薬物排泄機能の低下は、加齢による生理的変化の中で最も顕著である。
腎排泄型薬物の場合は、クレアチニン・クリアランスの計測あるいは推定糸球体濾過率(eGFR)をもとに投与量を調節する必要がある。
⑤薬力学の加齢変化
β刺激薬の感受性低下、ベンゾジアゼピンなどの中枢神経抑制薬、抗コリン薬に対する感受性亢進などがあげられる。
以上、生理的変化が薬の薬物動態に及ぼす影響を簡単にまとめた。
ここに挙げたのは、代表的なものだけである。
たとえば、呼気に排泄される薬には言及していない。
また、心予備能低下、血圧反射機能障害、免疫応答減少など薬物動態には直接関係しなくとも、薬効には影響を及ぼす生理的変化もある。
加齢に伴う体構成成分や生理的な変化を測定し、特定の薬への影響を推測できることが一番の理想なのだが、現時点では不可能である。
よって、代表的なパターンや測定できる生理的変化を押さえていくのが合理的であろう。
加齢に伴う生理的変化の中では、体の薬が過量投与の状態になる原因は「代謝」と「排泄」が大きい。
代謝と排泄は、薬物の消失の決め手になる因子だからだ。
この意味で肝と腎の機能が最も重要になるのだが、肝代謝機能を簡便に測定する検査はない。
また、肝臓は代償性が大きな臓器で、肝臓のダメージが直接薬の代謝に影響しない場合もある。
肝機能については、肝疾患の有無とその重篤度、または肝機能低下を示唆する所見があるかどうかによるのである。
では、腎機能はどうか?
加齢により薬物動態が最も大きく影響されるのは排泄過程であり、排泄で一番問題になるのは腎機能である。
腎の加齢による変化はもっとも顕著である。
(糸球体濾過率は、80歳台になると30歳台の50%以下になると言われている。)
「腎機能」は、高齢者の薬物療法で最も優先順位が高いテーマと言っても過言ではない。
次のコンテンツでは、「腎障害時」の薬物療法について考察する。
※もちろん、「吸収」や「分布」を軽視してよいという意味ではない。
特に、血清アルブミンの変動は病状の変化も含めて臨床的に重要である。
極端な変動が認められる項目は、「代謝」や「排泄」に関わらず必ず考慮するようにしたい。
[おまけ]復習
一般的な内服薬の体内動態を簡単に復習する。
経口投与された薬は主に小腸から吸収され、門脈を経て肝臓に運ばれる。
肝臓に到達した薬は、酵素により代謝を受ける。
その後、薬は血液によって全身に運ばれる。
循環血流に入った薬と服用した薬の量の割合をバイオアベイラビリティという。
薬は水に溶けやすい性質(水溶性)のものと油に溶けやすい性質(脂溶性)のものがあるが、一般的に脂溶性の薬物は小腸からよく吸収され、水溶性薬物は吸収されにくい。
多くの脂溶性薬物は、肝で代謝されると極性が増し水溶性の代謝物になる。
これは、脂溶性薬物のままでは腎の糸球体から排泄されても尿細管で再吸収を受けたり、肝内胆管で再吸収されて体内に停滞・蓄積する。
生体は、これを防ぐため、肝臓で薬物を代謝し、水溶性の高い代謝物に変化させ、腎からの排泄を促すのである。
[参考資料]
・「高齢者と薬」
米島ら:愛知県薬剤師会会誌「薬苑」第557号 平成20年9月1日P.31-44
・「高齢者における薬物動態の特徴」
大西明弘:Jpn J Clin Pharmacol Ther 39(1)Jpn 2008,P.2-5
以上
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