前章 >> [服薬指導 睡眠薬]基礎篇
α 在宅PLUS
[服薬指導 睡眠薬]指導篇
このコンテンツでは、睡眠薬の服薬指導について考察する。
内容は「基礎篇」と「指導篇」の2部構成である。
基礎篇では、睡眠薬の服薬指導に必要な基本的な知識を復習し、この指導篇では、睡眠薬の服薬指導の具体的な内容を整理する。
基礎篇では、睡眠薬の変遷を簡単にまとめ、薬物治療に主力で使われる薬剤について考察し、睡眠薬の選択と薬物治療以外の重要事項を整理した。
指導篇では、睡眠薬の服薬指導の基本的な構成を考える。
また、薬剤の3大必須情報である「副作用」「禁忌」「相互作用」を整理する。
最期に認知症との関連とアシュトンマニュアルを簡単に紹介する。
【服薬指導 睡眠薬 基礎篇】目次
1)最初に
2)ベンゾジアゼピン系睡眠薬と非ベンゾジアゼピン系睡眠薬の違い
3)新しい作用機序を持つ睡眠剤
4)睡眠薬の選択
5)薬物治療の前に
6)睡眠衛生指導
【服薬指導 睡眠薬 指導篇】目次
7)服薬指導
8)ベンゾジアゼピン受容体作用薬の副作用
9)禁忌
10)相互作用
11)睡眠薬と認知症
12)まとめ
13)アシュトンマニュアル
[7)服薬指導]
睡眠薬の服薬指導は、患者さんからの情報を基に構築する部分が多い。
どのような情報を入手すればよいかを考えながら、指導内容を整理する。
【睡眠薬の指導内容組み立て】
①薬についての説明
・薬剤名
・用法用量
・期待できる効果(=改善する症状)
・説明しておくべき副作用
②患者さんから入手するべき情報
・現在行っているすべての治療内容(すべての服用薬を把握する)→禁忌、相互作用の確認、肝・腎機能の確認
・現在の不眠の症状
・生活習慣(就寝・起床時間、昼間の過ごし方、運動、食事など)
・住環境(特に就寝する部屋)
・飲酒、コーヒー、タバコなどの嗜好品について
・その他
精神的な問題、患者さんの睡眠薬に対する印象、治療についての不安や疑問
③注意事項
・自己判断で用法用量を変更しない
・アルコールとの併用はしない
・自動車の運転などの危険な作業は禁止
④睡眠衛生指導に基づくアドバイス
⑤その他
高齢者の患者さんの中には、睡眠薬へ強い不安を持つケースがある。
「一度でも飲んだら止められなくなる」「睡眠薬を飲むと認知症になる」「たくさん飲むと死ぬ」など、睡眠薬を怖がる高齢者は多い。
このようなケースでは、正しい知識をわかりやすく説明することが必要である。
そのためには、さり気なく患者さんが睡眠薬をどのように考えているかを確認しておきたい。
また、そもそも論になるが、私が重要だと感じるのは「高齢者の睡眠」に関する理解である。
患者さんのなかには、高齢に伴い睡眠の質が変化していくことを理解していないケースがある。
加齢による睡眠の質の変化で最も顕著なのは、途中で起きること(中途覚醒)が増え、最も深い睡眠(徐波睡眠)が減るという変化である。
概日リズムも変化し、いわゆる「早寝早起きの浅い睡眠」になっていく。
しかも、日中の運動量も減少し、体の疲れも少ない。
歳を取ると、「必要な睡眠時間は短くなる」ことを理解いただき、6時間程度寝ていれば十分であることを説明する必要がある。
実際に、21時に布団に入り、朝の3時に起床してしまうと悩んでおり、患者さん本人は「ワシは不眠症なんじゃ!」と言ってきかないケースがあった。
これは、入床時間が長すぎるために十分な睡眠は取れているのに、布団の中で起きている時間を不眠として感じているケースである。
BZ系および非BZ系睡眠薬は、長期・過量投与に伴い依存・耐性を生じる可能性があるが、適正使用範囲内であれば不安になる必要はない。ただし、長期投与した場合には、減薬時において何らかの離脱症状が生じる可能性を考えたほうが良い。
ちなみに、反跳性不眠は長時間作用型BZ系睡眠薬(ジアゼパム、フルラゼパムなど)では生じにくいとされ、血中半減期との関連が示唆されている。
睡眠衛生指導は、睡眠薬の種類に関係なく大切であるが、メラトニン受容体作動薬にとって特に重要である。
この薬は睡眠・覚醒リズムの調節をするので、このリズムを乱す生活習慣を是正する指導は薬理作用に直結するのである。
たとえば、寝るときの照明が明るいと体内からのメラトニンの分泌が抑制される。このことは、メラトニン受容体作動薬の効果にはマイナスになる。
[8)BZ受容体作用薬の副作用]
BZ受容体に作用する薬(BZ系と非BZ系)の、主な副作用を整理する。
先に述べたが、BZ受容体は、αサブユニットが6種類(α1~α6まで)あり、それぞれ薬理作用が異なっている。
BZ受容体に作用する睡眠薬は、どのαサブユニットの選択性が高いかによって、薬理特性が異なる。
この選択性により、発現しやすい副作用が異なるため、必ず薬剤ごとに副作用を確認してほしい。
・起床後の眠気、だるさ、ふらつき
作用時間が長い薬剤で問題となる副作用。持ち越し効果とも言われる。
・精神運動機能の低下
注意力の低下、集中力の低下、反射や運動能力の低下など。
特に車の運転などの危険を伴う作業は原則しないように説明する。
特に高齢者で問題になることが多い。
・転倒(骨折)
夜間に起きたときに、発生しやすい。
筋弛緩作用が弱い薬剤では起きにくい。
・前向性健忘
服用後から寝つくまでの記憶、夜間に起きたときの記憶、起床時の記憶などが思い出せなくなる。
・反跳性不眠・退薬症候
睡眠薬の突然の中止により、服用以前より不眠が悪化すること。
また、不眠以外の精神症状が起こることがある。
・依存状態
・奇異反応
睡眠薬により、不安・緊張が高まり、攻撃性が増したり錯乱状態となることがある。奇異反応は高用量を用いた場合やエタノールを併用した場合に起こりやすい。
[9)禁忌]※「本剤に対して過敏症の既往歴のある患者」は省略してある
【BZ受容体作動薬】
急性狭隅角緑内障、重症筋無力症、妊婦・授乳婦
【メラトニン受容体作動薬】
高度な肝機能障害のある患者(肝代謝のため)、フルボキサミンマレイン酸塩を投与中の患者(代謝阻害により、最高血中濃度およびAUCが顕著な上昇を示すため)
【オレキシン受容体拮抗薬】
CYP3Aを強く阻害する薬剤(イトラコナゾール、クラリスロマイシン、リトナビル、サキナビル、ネルフィナビル、インジナビル、テラプレビル、ボリコナゾール)を投与中の患者
[10)相互作用]
睡眠薬の多くは中枢神経へ作用するため、脂溶性の薬物が大半であり、肝薬物代謝を受ける。その結果、肝代謝機能に応じた投与量の設定が求められる。
たとえば、慢性の肝疾患のなどで肝機能の著明な変動が認められるとき、またはアルブミン濃度が著明に減少する場合は、腎排泄型薬物の選択または投与量の減少を考慮するべきである。
BZ系睡眠薬 は、CYP3Aで代謝されるものが多く、同じようにCYP3Aで代謝される医薬品との併用が問題となる。
CYP3Aを阻害する薬剤では睡眠薬の血中濃度の上昇による影響、CYP3Aを誘導する薬剤では反対に血中濃度が低下する影響を考える必要がある。
=CYP3Aを阻害する代表的な薬剤=
・アゾール系抗真菌薬
・マクロライド系抗菌薬
・H2ブロッカー
・HIV用薬HIVプロテアーゼ阻害剤(リトナビル、インジナビル等)
・Ca拮抗薬の一部
など
反対にCYP3Aを誘導する代表的な医薬品は、リファンピシン、フェノバルビタール、フェニトイン、カルバマゼピンなどである。
[11)睡眠薬と認知症]
睡眠薬と認知症発生リスクの関係については、関連を示唆するものと否定的なものと両方が報告されている。
BZ系睡眠薬の長期投与と認知機能低下や認知症発症リスクについては、何らかの関連性はありそうだが、海外からの疫学調査の結果は相反している。現在の時点では、結論は出ていない。
[12)まとめ]
不眠について薬剤師が注意するべき点をまとめる。
①現状の把握
患者さん(又はご家族)から入手しておきたい情報を整理する。これらは、治療法や薬剤の選択だけでなく、有効性や安全性の確認にも必要な情報である。
・就寝時間と起床時間
夕食~就寝までの過ごし方や生活習慣など
・昼寝の頻度や時間(昼間の過ごし方)
・夜間就寝時間中の問題の有無
例:トイレに頻繁に起きる、明け方に咳き込むなど
・睡眠に影響する疾患の有無と治療状況
特に睡眠に影響する薬剤の確認
②非薬物療法
不眠の原因の同定と除去を薬物療法より優先して行う。
・生活習慣や環境を整える
・不眠の原因になる合併症・症状の治療(痛み、頻尿、逆流性食道炎など)
・寝具などのチェック
・睡眠を阻害する薬剤のチェック
・日中の眠くなる薬剤のチェック
これらの情報を基に「睡眠衛生指導」や「認知行動療法」が行われる。
③薬物療法
「睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療療ガイドライン」によると、
原則は、不眠症状のタイプ、患者の臨臨床的背景などを考慮して、各睡眠薬の消失半減期により慎重に薬剤を選択する。
BZ系および非BZ系睡眠薬の間で短期的効果には大きな差はないが、長期服用時の効果の持続性(耐性不形成)は非BZ系睡眠薬でのみ示されている。
ただし、BZ系睡眠薬と同様に、必要最小限の使用に留め、転倒・骨折に注意しながら慎重に使うべきである。
禁忌と相互作用の確認は必須である。
患者さんへの服薬指導では、不安を軽減するための「わかりやすい説明」を心がけたい。
最初に患者さんが睡眠薬についてどのような印象を持っているかを聞いてから話すとよい。
睡眠薬の減量は不眠状態が寛解し、1~2カ月は継続した上で考えるケースが多い。
この寛解とは、「夜間の不眠の改善」「日中の眠気の改善、または活動性の向上」「生活習慣の是正」などを基準に判断される場合が多い。
睡眠薬の薬効・副作用の確認の際、これらの指標を基にするとよい。
睡眠薬の減量中に症状が悪化した場合は、いったん薬をもとの量に戻し、時間をかけながら再び減量していく。
睡眠薬を使用する場合には、薬剤管理を誰がどのような状況で行うかを確認することは必須である。
睡眠薬の他には、抑肝散や抑肝散加陳皮半夏などの漢方薬が使用される場合がある。
保険適応ではないが、アロマセラピーも不眠の改善にメリットがあると言われており、不眠にはラベンダーの精油を用いることが多く、認知症患者での有用性の報告もある。
[13)アシュトンマニュアル]
BZ系薬剤に関する有名な冊子で「アシュトンマニュアル」というものがある。
これは、英国ニューカッスル大学神経科学研究所教授ヘザー・アシュトンが、自分の臨床経験などをもとに、BZ系薬剤の作用、副作用、離脱症状、減薬法などをまとめたマニュアルである。2012年7月に日本語版訳が公開されている。
「睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドライン」とともに一読をオススメする。
アシュトンマニュアル
http://www.benzo.org.uk/
アシュトンマニュアル日本語版pdf
http://www.benzo.org.uk/amisc/japan.pdf
以上、睡眠薬の服薬指導について考察した。
どの薬でもそうなのだが、服薬指導は患者さんとの情報のやり取りで質が上がっていく。
睡眠薬は、患者さんの情報入手が特に重要な薬だと思う。
患者さんの罹患している病気、服用中の薬、生活習慣、睡眠薬の考え方などを基にし、患者さんへの服薬指導の骨格が決まるといっても過言ではない。
患者さんから入手すべき情報には何があるのか?
その情報に対して、注意するべき項目は何か?
私なりにいろいろ考えてまとめたものが、このコンテンツである。
この内容があなたの服薬指導のお役に立てば望外の幸せである。
このコンテンツの薬剤情報は、2016年12月時点のものである。
[参考資料](基礎篇・指導篇共通)
・「加齢を考慮した睡眠薬の適正使用」
小鳥居 望:CLINICIAN 2015 NO. 639 P.54-59
・「診療報酬データを用いた向精神薬処方に関する実態調査研究」
厚生労働科学研究費補助金・厚生労働科学特別研究事業
三島和夫:「向精神薬の処方実態に関する国内外の比較研究」平成22年度分担研究報告書、P.15-32(2011)
・「ベンゾジアゼピン系睡眠薬の高齢者への使用について」
三島和夫:CLINICIAN 2014 NO. 634 P.17-19
・「睡眠薬の適正使用」
CLINICIAN 2016 NO. 650
・「健康長寿診療ハンドブック」
日本老年医学会(メジカルビュー社)
・「作用機序からみた睡眠薬の位置づけ」
谷口充孝:CLINICIAN 2015 NO. 639 P.33-38
・「薬のデギュスタシオン」
岩田健太郎編集(金芳堂)
・「睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療療ガイドライン」-出口を見据えた不眠医療マニュアル-厚生労働科学研究・障害者対策総合研究事業「睡眠薬の適正使用及び減量中止のための診療療ガイドラインに関する研究班」
および日本睡眠学会・睡眠薬使用ガイドライン作成ワーキンググループ 編
2013年10月22日 改訂版
・「類似薬の使い分け」
編集:藤村昭夫 (羊土社)
・「不眠症薬物療法の臨床」
田ヶ谷浩邦:日薬理誌(Folia Pharmacol. Jpn.)129 P.42-46(2007)
・「不眠症治療薬」―オレキシン受容体拮抗薬―
北村正樹:耳展58:2;P.124-127(2015)
以上
α 在宅PLUS ナビゲーション
[服薬指導 睡眠薬]指導篇 ←今ココ
↓ もし良かったら、この記事をシェアしていただけると嬉しいです。