[嚥下障害PLUS③薬剤性嚥下障害]在宅PLUSシリーズ


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[嚥下障害PLUS③薬剤性嚥下障害]在宅PLUSシリーズ

 

 

[本コンテンツは2017年4月に改訂しました]

このコンテンツでは「薬剤性嚥下障害」について考察する。

内容は大きく2点ある。

 

1点目は、「錐体外路系障害」についてである。

薬剤が嚥下障害を引き起こす原因はいろいろある。

このコンテンツではその原因を「錐体外路障害」に絞って考察した。

理由は、「錐体外路障害」が最も難しいからである。

通常、ある薬が嚥下障害を起こすかどうかは、添付文書の副作用の項目を見るだろう。

しかし、副作用の項目に「嚥下障害」がなくとも、「錐体外路障害」を起こす作用を持っていれば注意が必要である。

このような考え方は、なぜ錐体外路障害が嚥下障害を起こすのかを理解できて、はじめて可能になる。

 

2点目は、「中枢神経系用剤」についてである。

私は、嚥下障害についてもっとも注意するべき薬効群は「中枢神経系用薬」だと考えている。

その根拠の一部(論文、統計、研究報告など)を紹介する。

 

この2点を中心にしたのは、これらがもっとも薬剤性嚥下障害の核心に近いと思ったからである。

このコンテンツが嚥下障害と戦う医療従事者の方に少しでも役立てば望外の幸せである。

 

 

 

[嚥下障害の可能性のある薬剤]

薬剤性嚥下障害は、治療可能な嚥下障害の中で最も多いと言われている。

 

嚥下は、中枢神経、末梢神経、筋肉、精神状態などの多くの機能が関連した複雑な運動である。

多くの筋肉が関係しており、それらが順番通りにスムーズに動かなければならない。

それらのシステムのどこかに支障が生じると正常な嚥下ができなくなる。

その支障(嚥下障害の原因)は、大きく分けて4つに分類できる。

①筋力・錐体外路障害

②意識・注意レベルの低下

③自律神経系の障害

④口腔内乾燥・味覚障害など口腔機能の低下

 

これらの①~④を引き起こす作用を持つ薬剤が嚥下障害の原因になりうる薬剤である。

薬剤性嚥下障害で最も重要な情報である「嚥下障害の原因になりうる薬剤」を、日本神経治療学会の「標準的神経治療:神経疾患に伴う嚥下障害」より引用する。

 

「嚥下機能に悪影響を及ぼす薬剤」

「標準的神経治療:神経疾患に伴う嚥下障害」(編集:日本神経治療学会治療指針作成委員会 神経治療Vol.31,No.4(2014)P.465 Table2より引用改変)

 

トランキライザー類(抗精神病薬、抗不安薬、抗うつ薬) 錐体外路症状、精神活動や意識、注意レベルの低下、口腔内乾燥、ドパミン抑制薬としてサブスタンスPを低下させ、咳・嚥下反射低下

制吐薬・消化性潰瘍薬                 錐体外路症状

抗コリン薬                      唾液分泌低下による口腔内乾燥、食道内圧低下

筋弛緩薬                       筋の弛緩、精神活動の低下

抗がん剤                       口腔内乾燥、味覚障害、食欲低下

抗てんかん薬・抗ヒスタミン薬             精神活動の低下

カルシウム拮抗薬、アルコール             平滑筋や骨格筋の機能障害、下食道括約筋の圧低下

降圧薬、抗不整脈薬                  口腔内乾燥
(降圧薬:利尿薬・交感神経抑制薬)

 

この「嚥下機能に悪影響を及ぼす薬剤」から読み取れるのは、嚥下障害の原因になる薬理作用が多い薬剤ほど注意が必要であると言うこと。

このような視点で見てみると、もっとも注意が必要な薬剤は「トランキライザー類」であることがわかる。

この表の薬剤が処方された場合には嚥下障害に注意しながら経過観察しなければならないが、トランキライザー類には特に注意するべきである。

 

次に薬剤による嚥下障害が発生するメカニズムのうち、「錐体外路障害」について考察する。

 

 

 

[錐体外路障害]

錐体外路とは、中枢と末梢を繋ぐ運動神経の経路のことである。

そのはたらきは、錐体路による随意運動を微妙に調節し、円滑で正確な動きができるようにすると考えられている。

錐体外路は大脳基底核を通っているため、ドパミンやその受容体の異常が発生すると障害が起きやすい。

たとえば、ドパミン受容体の遮断作用によるパーキンソニズムはその代表例である。

錐体外路症状は、嚥下障害はもちろん歩行運動障害などが多面的に生じ、特に不随意運動を主とする運動障害である。

 

中枢に作用する薬剤は、「覚醒賦活系の抑制」「嚥下中枢の抑制」「ドパミン受容体の遮断作用によるパーキンソニズム」などにより嚥下障害の原因となりやすい。

特に嚥下のコントロールセンターである嚥下中枢の抑制とドパミン受容体の遮断によるパーキンソニズムによるものが多い。

パーキンソニズムは、主に体の動きが障害される症状である。具体的には、嚥下関与筋の固縮(錐体外路症状の一症状で、筋緊張が亢進した状態)や運動障害、ジストニアでは舌突出や咽喉頭狭窄、遅発性ジスキネジアでは口唇・頬部・舌・下顎の不随意運動をきたす。

 

※ジストニア

持続的に筋肉が収縮する運動であり、ある特定の肢位を維持し続ける様になる状態。

 

※ジスキネジア

大脳基底核の障害で出現すると考えられる、おかしな動きの総称である。

「おかしな動きの総称」とされるのは、様々な動きが混合し次々と現れる事もあり、一種類の動きに限定出来ないからである。

 

これまで説明したように、ドパミン遮断作用のある薬物はパーキンソニズムを発生させる可能性が高い。

ゆえに、薬剤性パーキンソニズムの原因薬剤として最も多いのは、抗精神病薬である。

抗精神病薬には「定型」と「非定型」がある。

これは、錐体外路症状が出現することが抗精神病薬の効果が出ていると考える理論から生まれた分類である。

錐体外路症状が効果の目安になるのが「定型」、錐体外路症状が出なくとも効果が認められるのが「非定型」である。

ザックリ言うと、定型抗精神病薬はいずれも強いドパミン受容体遮断作用があり、非定型抗精神病薬は錐体外路症状が出にくい。

ちなみに非定型抗精神病薬で、錐体外路症状が出現しにくい理由は、明らかになっていない。

「パーキンソン病治療ガイドライン2011」治療総論(日本神経学会)によると、非定型抗精神病薬の中では、クロザピン<クエチアピン<オランザピン<リスペリドン(低用量ではリスペリドン<オランザピン)の順に錐体外路症状が出現しやすくなるとしている。

処方提案の際に、参考にしたい。

念のため、非定型抗精神病薬が処方されていても、鎮静作用や抗ドパミン作用を持っており、副作用の危険性は無くなったわけではないことを忘れないようにしたい。

 

催眠・抗不安薬として用いられるベンゾジアゼピン系薬剤は、鎮静催眠作用のほか筋弛緩作用も有している。

そのため、食塊(食べ物を飲み込むために咀嚼した塊)を移動させる力が低下したり、食塊の通り道である食道と気道の移動コントロールのタイミングが微妙に狂うことがある。

(食塊駆動力の低下や食道入口部弛緩のタイミング異常と言う。)

 

抗うつ薬(特に三環系抗うつ薬)でも錐体外路障害が報告されている。

 

消化管機能調節剤ドンペリドンは、脳内移行が低いため、発現頻度は低いがパーキンソニズムの報告がある。

通常、薬剤性パーキンソニズムは60%が薬剤を服用開始1ヶ月以内に、90%は3ヶ月以内に発症し、数日ないし数週の単位で急速に進行するのが特徴である。

ちなみにパーキンソン病の症状は急激に悪化することはなく、急激に変化した場合は感染症などの全身状態の悪化か、薬剤性を疑うべきである。

 

 

 

【復習】パーキンソニズム

パーキンソニズムとは、パーキンソン病に特徴的に見られる症状を呈する疾患全体を指す概念である。

パーキンソン病は主に体の動きが悪くなる疾患で、特徴的な症状とは、「手足のふるえ(振戦)」、「筋肉のこわばり(筋固縮)」、「動きが鈍い(無動)」、「姿勢を保つことがへた(姿勢反射障害)」の四つの症状(四徴)である。

パーキンソン病の原因は、大脳基底核の中の線条体でドパミンが不足することである。大脳基底核は大脳皮質とループ(神経回路網)を作り、手足や体を上手く動かすために働いている脳の器官なのだが、ドパミンはこのループ(神経回路網)が適切に働くために必要な物質なのである。

 

 

 

[その他]

末梢神経や筋肉へ薬剤が作用することにより、嚥下に悪影響を及ぼす場合がある。

筋肉は神経に支配されて機能するため、神経に薬剤が影響する場合と筋肉に薬剤が影響する場合がある。

以下のようなパターンである。

・筋弛緩:神経と筋肉の接合部に作用して電気信号の伝達を遮断し、筋力が低下する。

・咽喉頭の知覚が低下し、反射や筋肉の連動が上手くいかなくなる。

・唾液分泌が低下し、食塊の形成や移動に支障がでる。

 

代表的な薬剤は、「筋弛緩薬」「抗コリン薬」「カルシウム拮抗薬」などである。

口腔内乾燥を起こす可能性がある薬は、実は非常に多い。

念のために服用薬はすべてチェックし、このような薬剤が処方で重なることに注意したい。

 

薬剤による嚥下障害のメカニズムについて「錐体外路障害」を中心に考察した。

「嚥下機能に悪影響を及ぼす薬剤」では、最も注意が必要なのは「トランキライザー類」であった。

その理由は、嚥下障害を惹起する作用を多く持っているためである。

 

次は、薬剤性嚥下障害の実態を調査した報告を紹介する。

 

 

 

[薬剤性嚥下障害の実態調査・研究報告]

薬剤の服用状況と薬剤性嚥下障害の実態を調査した研究報告である。

 

・「薬剤と嚥下障害」野﨑園子 日本静脈経腸栄養学会雑誌 3 1(2):699-704:2016

摂食嚥下障害認定看護師と摂食嚥下障害に関わる医療職の協力を得て、服薬困難のある患者の嚥下機能や服薬状況の観察と剤形や服薬方法について、調査したものである。対象は、摂食嚥下障害の専門職が服薬困難ありと判断した65歳以上の高齢者(29施設 223名)で、基礎疾患、剤形、服薬困難の状況、平素の食形態、嚥下機能について分析した貴重なレポートである。

嚥下障害の副作用の部分のみ紹介する。

この報告によると、摂食嚥下障害を引きおこした薬剤の種類としては、抗精神病薬、抗不安薬、睡眠薬(ベンゾジアゼピン系・非ベンゾジアゼピン系)、抗けいれん薬、抗うつ薬、認知症治療薬であり、最も多かったのはリスペリドン(常用量)であった。

やはり、中枢性神経系用剤は「薬剤性嚥下障害」の注意が必要であることが示唆される。

 

ちなみに嚥下障害発生は、ほとんどが投与7日以内であり、服用中止から2週間以内にほとんどが嚥下機能を回復していた。

この結果から、「1週間以内は常に摂食嚥下障害の発症に留意し、早期発見に努めるとともに、発症した場合は投薬調整などの対応を行い、回復するまでは、摂食嚥下障害の程度に応じて、食形態調整や経口摂取中止など誤嚥予防に努めるべきである。」と結ばれている。

薬剤が追加・変更された場合には、この点に注意しておきたい。

 

 

 

[中枢神経系用薬の処方]

嚥下障害の原因として中枢神経系用薬の頻度が高いことはわかった。しかし、実際にどれくらい処方されているのだろうか?

統計調査2報を示しておく。

 

・「平成26 年(2014)社会医療診療行為別調査の概況」(厚生労働省)を見てみよう。

http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/sinryo/tyosa14/dl/gaikyo2014.pdf

この調査結果は、平成26年6月審査分の診療報酬明細書及び調剤報酬明細書を厚生労働省大臣官房統計情報部がまとめたものである。

使用薬剤の薬効分類別薬剤点数について構成割合をみると、

入院では「中枢神経系用薬」13.6%が最も多く、次いで「抗生物質製剤」13.3%、「生物学的製剤」11.3%の順となっている。

院内処方(入院外)では「循環器官用薬」18.4%が最も多く、次いで「その他の代謝性医薬品」12.6%、「腫瘍用薬」10.1%の順となっている。

(ちなみに「中枢神経系用薬」は第4位で9.0%であった。)

院外処方では「循環器官用薬」21.9%が最も多く、次いで「中枢神経系用薬」14.0%、「その他の代謝性医薬品」11.8%の順となっている。

「中枢神経系用剤」の使用薬剤の構成割合は、入院では一番高く、院外処方では2番目に高く、その他の院内処方では4番目となっていた。

 

さらに向精神薬の処方実態についての研究を紹介する。

・「向精神薬の処方実態に関する国内外の比較研究」

厚生労働科学研究費補助金・厚生労働科学特別研究事業

研究代表者 中川敦夫 平成23 年(2011)3月

http://www.ncnp.go.jp/tmc/pdf/22_report10.pdf

 

この報告書の中の分担研究「診療報酬データを用いた向精神薬処方に関する実態調査研究」三島和夫 P.15-32を見てみよう。

この研究は、約33万名分の大規模診療報酬データを用いた向精神薬の処方状況調査である。

2005年~2009年の4月1日~6月30日に、向精神薬(睡眠薬、抗うつ薬、抗不安薬、抗精神病薬)を処方された20歳~74歳の受診者における処方実態を調査している。

その結果は、睡眠薬の処方率は男女ともに加齢に伴って増加しており、特に65 歳以上の女性で顕著な増加がみられた。

抗不安薬は、性別・年齢階層別の処方率および処方力価について、睡眠薬に類似した傾向を示した。

抗うつ薬は、男性では40代、女性では65歳以上に処方率のピークがあった。

抗精神病薬は、処方率及び処方力価において、年齢・性別による明らかな傾向は見られなかった。

 

睡眠剤と抗不安薬は、加齢に伴って処方率が増加していた。

抗うつ薬においても女性では65歳以上に処方率のピークがあった。

 

以上、これらの報告から、高齢者への中枢神経系用剤の処方頻度は高いと考えてよいだろう。

だから、嚥下障害の原因を検索するとき、処方内容を確認するとき、処方提案をする際は『まず、中枢神経系用剤をマークするべき』である。

 

副作用が問題になったときは、すべての処方薬の副作用の可能性を確かめ、注意深く対応するべきである。

しかし、処方の提案や設計のときには、問題になりやすい薬剤を予め知っておく必要がある。

嚥下障害の場合(特に高齢者の場合)は、第一に中枢神経に作用する薬剤と考えてよい。

ちなみに睡眠薬と抗不安薬は、「めまい、ふらつき、立ちくらみ」の原因にもなりやすい。

処方鑑査、処方提案の際に、覚えておきたい。

 

 

 

【鎮咳薬】

鎮咳薬を服用している場合、「嚥下反射」を考慮するべし。

鎮静薬や向精神薬などは嚥下反射を低下させ、不顕性誤嚥の原因となる。

風邪の季節や気管支炎などを合併している場合には注意したい。

 

 

 

以上、薬剤性嚥下障害について情報を整理した。

嚥下障害は、薬剤の服用状況に直結すると同時に飲食にも関係する重大な症状である。

薬剤性嚥下障害は、原因薬剤を中止・変更すれば、症状は消失・軽減することが可能である。

あなたの発見で、患者さんの服用状況やQOLが改善できるかもしれないのである。

そのためには、患者さんの服用薬剤の把握と副作用の確認が重要である。

この基本を、今一度、肝に銘じたい。

 

 

 

[参考資料]

・抗精神病薬の「身体副作用」がわかる

長嶺敬彦(医学書院)

 

・「薬剤と嚥下障害」

野﨑園子 日本静脈経腸栄養学会雑誌 31(2)2016 P.699-704

 

・「パーキンソン病治療ガイドライン2011」治療総論

日本神経学会

https://www.neurology-jp.org/guidelinem/pdgl/sinkei_pdgl_2011_11.pdf

 

・「標準的神経治療:神経疾患に伴う嚥下障害」

編集:日本神経治療学会治療指針作成委員会

神経治療 Vol.31No.4(2014)P.435-470

 

・「重篤副作用疾患別対応マニュアル ジスキネジア」

平成21年5月

厚生労働省

 

・「向精神薬による薬剤性嚥下障害例の検討」

兵頭政光 口咽科 17: 3;(2005)P.399-405

 

・「在宅患者における薬物治療に伴う副作用」

恩田光子ら 薬剤疫学Jpn J Pharmacoepidemiol 21(1) June 2016 P.1-10

 

・「平成26 年(2014)社会医療診療行為別調査の概況」(厚生労働省)

http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/sinryo/tyosa14/dl/gaikyo2014.pdf

 

「向精神薬の処方実態に関する国内外の比較研究」

厚生労働科学研究費補助金・厚生労働科学特別研究事業

研究代表者 中川敦夫 平成23 年(2011)3月

http://www.ncnp.go.jp/tmc/pdf/22_report10.pdf

 

 

以上

 

 

 

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