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[嚥下障害PLUS②嚥下障害と薬]在宅PLUSシリーズ
このコンテンツは、嚥下障害時の服薬の工夫について考察する。
基本的には、リハビリ等で嚥下機能を回復させながら服用状況を改善していくことが基本戦略になるが、そのときの患者さんの状態に最も適した工夫が重要なのは言うまでもない。
本当に難しいのは、工夫のバリエーションよりもその適用である。
いろいろな工夫の中からどのように最適な方法を選択するかは、教科書には書かれていない。
患者さんは、体の状態、原疾患、嚥下機能の程度が異なるからである。
しかし、第一歩は工夫のバリエーションを覚える必要があるだろう。
[嚥下障害時の服用の工夫]
まず、日本薬剤師会が作成した「薬局薬剤師のための在宅療養者への服薬支援」から、嚥下困難者への具体的な服薬支援を見てみよう。
嚥下障害に関する記述はP.5とP.13の2ヶ所にある。
P.5で最も参考になるのは「誤嚥防止のための服用方法」である。
これは、嚥下障害がある場合の基本的な服用方法と考えてよい。
<参考>誤嚥防止のための服用方法
①服用前に口腔内を湿潤させる。
②服用前後は座位を保つ。(体をまっすぐに起こす)
③座位が困難な場合は、上半身を30度以上起こす。
④飲み込むときは、うなずくようにあごをひく。(薬が気管に入らないように)
⑤舌、頬および唇に麻痺のある方は、薬が麻痺のない側を通過するよう、スプーンを用いて頭と体を麻痺のない側に傾けて服用する。
⑥飲み込みにくい時は、ゼリーなど滑らかな食感の食物を利用する。
P.13(3)には嚥下困難者への服薬支援のポイントがまとめられている。
先に紹介した「誤嚥防止のための服用方法」と重複するが、大変重要な内容なのでそのまま紹介する。
②服薬支援のポイント
家族や介護者・看護者より現在の服用状況を確認し、嚥下反射の遅れや、薬の咽頭への送り込みの困難さ、舌、頬、唇麻痺、咽頭、喉頭麻痺等の問題点について検討します。
患者にとって服用しやすい方法を確認します。
姿勢は直立座位が逆流もなく望ましいのですが、垂直座位が無理な場合は上体を30度以上起こします。
舌、頬、唇麻痺の場合は頭と体を麻痺のない側に傾け、咽頭、喉頭麻痺では首を麻痺のある側に向け服用し、薬が健側を通過するように調整します。
服用方法として、液体と薬を交互に飲み込む交互嚥下、一口に服用する薬を制限する一口量の制限、大きく息を吸って息を止めてから飲み込む息止め嚥下、一口について何回も飲み込む複数嚥下などの方法を使い分けます。
食材に混ぜる場合、とろみがあり、咀嚼しやすく、適度に水分を含んでいる物に混ぜます。(おかゆ、ヨーグルトなど)
もし、混ぜる場合には、患者、介護者・看護者とよく相談し、希望される食材に混ぜるようにします。
③服薬支援グッズ
嚥下補助ゼリー、服薬用カップ、オブラート、とろみ調整剤 など
以上の情報は、嚥下障害の患者さんが「薬を口から飲むこと」に対する基本的対応として覚えておきたい。
※補足
重箱の隅をつつくつもりはないが、少しだけ補足を入れたい。
・食事に混ぜる場合は、薬剤の味に注意すること。できれば、薬剤師自身で薬の味見をしてほしい。
コーティングされている薬剤も、中身の味を確認したい。
薬を混ぜることで著しく味が悪くなり、食事自体に悪影響を及ぼす場合があるためだ。
食事は患者さんにとって一番の楽しみであり、栄養を摂取する機会であることを忘れないようにしたい。
・オブラートを使用する場合の注意
嚥下機能がかなり低下している場合には、適応を慎重に検討すること。
理由は、飲み込む途中でオブラートが破れて口腔内に残留するケースがあるため。
また、苦味健胃薬はオブラートでは服用しないこと。
苦味健胃薬は、苦いこと自体が薬効になっており、この味によって反射的に胃の活動性を高め、胃酸分泌を促すのである。
【嚥下障害時の剤型について】
次に嚥下障害時の「剤型」について考察する。
嚥下障害が原因で服用状況が良くない場合、剤型変更は優先順位の高い選択肢である。
そのときに、知っておきたいことをまとめた。
・現在、服用している薬の他の剤型を確認し、少しでも患者さんに負担の少ない剤型を選択する。
→嚥下障害患者に安全に使用できる剤型は、貼付剤・坐剤・吸入剤。
→ゼリー、ドライシロップ、スプレーなどの剤型の有無。
・患者さんに負担の少ない同種同効薬を確認する。
→負担の少ない剤型の同種同効薬を検索。
→投与回数を少なくできる剤型。
→大きさは8mmに近いもの、服用する錠剤・カプセルの数が減る規格があるかどうか。
・薬をペースト状にする。
錠剤を粉砕する場合は、その薬の散薬の剤型がないかを確認する。その後、粉砕の可否を確認する。
脱カプセルも同様に考える。
※徐放性製剤はNGなので注意する。
・錠剤の大きさ
錠剤の飲みやすい大きさは従来の錠剤やカプセルについては7-8mmであり、口腔内崩壊錠(OD錠)では13-15mmの大きさである。
ちなみに8mm以下になると、小さすぎて取扱いにくいという問題が出てくる。
・OD錠についての注意
一般にOD錠は口腔や喉頭内に残留の心配がなく、水が飲めなくても服用できると考えられている。
しかし、口腔が乾燥している場合、水分を一緒に飲まなければそのままの形でとどまったり、咽頭に送られたりするケースがある。
また、高齢者において、OD錠と従来の錠剤を内視鏡所見で比較すると、気道侵入については、従来の錠剤と差はないとする研究報告もある。
従って、OD錠であっても、念のためにトロミ付の水などで流しておきたい。
ちなみにOD錠によく似た剤型で湿製錠や易崩壊錠と呼ばれる剤型があるが、これは服用に際して必ず水が必要である。
≪ご参考≫湿製錠とは
湿製錠(molded tablets)は薬品を含む湿潤した練合物を一定の型にはめ込んで成型した後、乾燥して製するもので、口腔内で速やかに崩壊する錠剤などの限られた用途に利用される。
【その他】
・経管投与の場合は、錠剤を粉砕したり、脱カプセルをせずに、そのまま温湯に入れて崩壊・懸濁させる「簡易懸濁法」がある。
・さらに簡易懸濁法で水に懸濁させた薬剤にトロミを付けて与える方法もある。
・錠剤やカプセル剤の場合は、ゼリーやプリンなどを嚥下し易い食品と一緒に内服する方法がある。
(薬剤服用のためのゼリーも市販されている。)
・薬を飲むときの水をトロミ付の水にする。
・内服後は2時間ほど臥床しないのが理想である。胃食道逆流予防のためである。
・嚥下障害が重度の場合、食後に服用した後、口と喉頭に薬が残留していないかを確認する。
・どのような剤型にしても、口から飲み込む場合は、一口を少量にする。
・食事中の服用が可能な薬剤の場合は、食事の途中の服用も考慮する。
薬剤が咽頭や食道で止まることがあっても、続いて入ってくる食物によって胃まで流されるためである。
また、長時間の食事が困難な患者さんの場合は、食後の服用のタイミングが難しいため。
※必ず、薬剤の食事の影響を確認し、食事中に服用しても薬効・副作用に影響のないことを確かめること。
以上、嚥下障害時の服用について整理した。
患者さんの状態に適した工夫と言うのは、言い換えると患者さんの症状や体の変化を常に把握することでもある。
その点、チーム医療は患者さんの状態の変化をトレースしやすいが、あなたも積極的に参加してほしい。
ある薬剤師は、在宅の患者さんにお会いする際に、配食の残りを欠かさずチェックしていた。
また、コミュニケーションがおかしいと感じたら、反復唾液嚥下テストを行っている薬剤師さんもいる。
このような素晴らしい薬剤師が一人でも増えることを祈っている。
次は「薬剤性嚥下障害」について考察する。
[参考資料]
・「薬局薬剤師のための在宅療養者への服薬支援」
平成19年3月 日本薬剤師会作成資料
・「薬剤と嚥下障害」
野﨑園子 日本静脈経腸栄養学会雑誌 3 1(2):699-704:2016
・「標準的神経治療:神経疾患に伴う嚥下障害」
編集:日本神経治療学会治療指針作成委員会 2014年5月
・「嚥下障害リハビリテーションマニュアル」
赤井 正美編 国立障害者リハビリテーションセンター 2015年3月
以上
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