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6 服薬指導
[服薬指導 眼科用剤]
このコンテンツでは、眼疾患の治療で主に用いられる点眼薬と眼軟膏の2種類の服薬指導について考察する。
まず第一に、薬剤師が心得ておきたいのは「点眼薬は、医療従事者が考えている以上に正しく使われていない。」ということ。
横浜市立大学の内尾栄一らによると、アデノウイルス結膜炎患者が使用した点眼容器を回収して、調べたところ約7割にアデノウイルスが付着していた。
この原因は、点眼薬の使用の前に手を洗うことや、点眼薬の容器がまつ毛などに触れないように使用することが守られていなかったためと推定されている。
つまり、点眼剤の場合は薬理作用や病気の説明に加え、特に使用方法についてのわかりやすい説明が重要なのである。
[点眼薬]
1)点眼薬の4つのポイント
「有効性」「安全性」「安定性」「点眼時の差し心地」
※新薬が発売されたときには、上記の4ポイントを確認する。
「点眼時の差し心地」を確認するには、メーカーから製剤見本を提供いただき、自分で試してみよう。
差し心地はもちろん、容器の使いやすさ、他の薬剤との類似性なども確認するためである。
2)点眼方法
・まず、手を流水とせっけんでよく洗う。
・下のまぶたを下に引き、点眼薬の容器がまぶたの縁やまつ毛に触れないようにして、点眼する。(下眼瞼下垂法)
または
・親指を中に入れてげんこつを作り、下まぶたにげんこつを当てて引き下げる。
そのげんこつの上に点眼剤を持った手を乗せて安定させ、点眼する。(げんこつ法)
・点眼後は、鼻や口に流れないように、しばらく目頭を軽く押さえるようにする。
(薬液の全身への移行を防ぐ大切な手技である。)
最後に、目からあふれた目薬は、清潔なガーゼやティッシュで拭き取る。
3)子どもに点眼するコツ
最大のコツは、子どもの恐怖心を取り除き、リラックスさせること。
点眼の方法自体は何種類かあると思うが、私が推奨するのは以下の方法である。
・まず、手を流水とせっけんでよく洗う。
・子どもを寝かせる。点眼する親は、自分の膝で子どもの頭を固定して、点眼する。
(点眼時に子どもが動いて、容器の先で目を傷つけることがないようにするため。)
・泣いているときはしない。涙で点眼薬が流されるためである。
・目をつむってしまう場合、目の周囲をきれいに拭いて、目頭付近に点眼して瞬きをさせるとよい。
4)点眼剤の使用期限
注意するべきは、使用するときに原薬を溶解液に溶かすタイプの点眼剤である。
患者さんが自分で調整する場合、溶解させた日を必ず記入することを強く説明する。
多くの点眼剤は、開封後の使用期限は決められていない。
使用する際の取扱いや保存が適切であるかどうかに影響されるためであろう。
一般的な使用期限の目安は、5ml容器の医療用点眼剤で約1ヶ月である。
(眼軟膏も開封後1ヶ月以内である。)
本日、何日分の薬が処方されているかは、以下を参考に概算できる。
「点眼剤の容器は一般に5mlで、1滴量を約0.05mlとすれば100滴分(100回分)である。」
これを1日の点眼回数で割ればよい。
5)点眼剤の使う順番
眼科で処方される点眼剤の種類は平均約2種類といわれている。
2種類以上の点眼剤を使用する場合、基本は点眼の間隔を5分以上あける。
点眼の間隔が短いと先に点眼した薬液が後に点眼した薬液によって洗い流され、十分な効果が得られないことがあるためである。
5分間という根拠は、結膜嚢(眼瞼と眼球で構成する空間を指す)に収納された点眼剤が角膜に吸収されるのは5分がピークであることと、turn over rateにより初めの点眼剤の98%は5分間で消失するという報告に基づいている。
※参考
点眼剤はまず結膜嚢内に留まり、その後角膜及び結膜を透過し、眼内の各組織に移行する。
結膜嚢では点眼剤は涙液と接触する。その涙液は、睡眠時を除いて常に涙腺から分泌されているが、turn over rateは1分間に16%と非常に速い。
これにまばたき運動による点眼薬物の鼻涙管への排出が加わり、5分以内にほとんどの点眼剤は消失すると考えられている。
2種類以上の点眼剤が処方された場合の原則
(状況により異なるため、あくまでも一般的な原則である。)
・基本的な順番は、水性点眼剤→懸濁性点眼剤→油性点眼剤→眼軟膏
・同じ分類の目薬が複数処方された場合、主剤と考えられるものを後から点眼する。
・pHが異なる薬剤が複数処方された場合、中性に近いものから点眼する。
涙のpHは7.0~7.4であるため、中性の近いものを先に点眼した方が、刺激が少なく、流涙も少ないので眼内移行もよい。
・眼軟膏は一番最後にする。
・用時溶解する懸濁剤は後から点眼するのが原則なのだが、カリーユニは別である。
6)点眼剤の保管方法
患者さんは、点眼剤は冷所に保存した方がよいと思っている人が非常に多い。
2種類以上の点眼剤が処方され、そのうちの1つが冷所保存の場合、2つまとめて冷蔵庫に入れることが多い。
ほとんどの場合は問題ないのだが、冷所に保管すると、成分が沈殿するなどの変化する点眼剤があるため、保管については1剤1剤確認する。
また、反対に多くの点眼剤は、室温で保存できるため、冷所保存の点眼剤を冷所で保管していないケースにも注意したい。
温度管理で注意したいのは、夏場の車である。高温の車中に置いておかないように注意する。
※逆に、誤って冷凍庫に入れて凍結した場合は、使用しないように指導する。
温度管理以上に重要なのは、遮光管理である。
添付の専用袋に入れて保管することが基本である。
(参考:褐色や橙色のビニール袋に入れてある点眼剤は、光によって変化しやすい製剤であることが多い。)
防虫剤の入った箱、開封した湿布薬の近くで保管しない。
清涼化剤を含む湿布薬、防虫剤および芳香剤などは、揮発成分が容器を透過して薬液に入り、目の刺激になることがあるためである。
患者さんの自宅における薬の保管方法を確認しておくとよい。
薬はまとめて専用の箱に入れてある場合は、注意しなければならない。
これにあわせて点眼剤とよく似た容器の薬に注意するように説明する。
具体的には、抗真菌剤(水虫薬)、外皮用ステロイド、点鼻薬、内服用下剤などである。
7)点眼剤の注意事項
・点眼剤は、点眼したあと、鼻腔に排出され、喉をとおり消化管で吸収される。
鼻腔から喉を流れるときに、点眼剤の薬液の味により苦味や甘味を感じることがある。
・他人の点眼剤や、以前に使用していた点眼剤は、使用しない。
・関節リウマチ、パーキンソン病、認知症、脳卒中後遺症などの合併した患者さんは、そもそも点眼剤が使用できるかどうかを考える。
点眼の動作に支障がある場合、家族もしくは介護者の支援が得られるかどうかを確認する。
・点眼回数や点眼用量を自分で調節しないように、用法用量を丁寧に説明する。
・高齢者が、点眼後のめまいを訴えた場合、薬剤の副作用の他に「椎骨脳底動脈循環不全」を考慮する。
これが疑われる場合は、首を強く屈曲する必要がない姿勢(例えば仰臥位など)で点眼するように指導する。
※椎骨脳底動脈循環不全
首の回旋や前後屈、体位変換など、椎骨脳底動脈を圧迫する姿勢が誘発するめまいである。
50才以上の中高年、高脂質血症、高血圧症の患者に多くみられるといわれている。
・閉塞隅角緑内障に禁忌の薬剤について
緑内障治療担当の眼科医に処方の可否を確認するのが原則である。
診断が閉塞隅角緑内障でも虹彩切開術後、緑内障点眼剤投与中は、問題なしと判断する医師もいるためである。
8)各論(一部の点眼剤についてである。)
すべての点眼剤の各論ではない。
日常の調剤業務の中で、実際に説明したことや重要だと思ったことをまとめたものである。
サブノートとしてお読みいただきたい。
①緑内障治療薬
緑内障治療において、薬剤師が頭に入れておきたいこと。
・2000年から2年間行われた緑内障疫学調査「多治見スタディー」において、緑内障の大半が正常眼圧緑内障(NTG)であることが判明した。
・治療方針は、「眼圧を下げること」である。
(参考:正常な眼圧 10~21mmHg)
・第一選択薬はPG製剤である。
・緑内障点眼剤は、全身に作用が及ぶ可能性を考えるべきであり、処方時には合併症の有無について確認する必要がある。
①-1 PG製剤
緑内障治療薬の第一選択である。
PG製剤の継続使用で問題になる副作用
「眼瞼色素沈着」:まぶたが黒くなり目に隈ができたようになる。
「まつ毛の変化」:まつ毛が濃く、太く、長くなる。
「眼瞼周囲の多毛化」:まぶたの産毛が濃く、太く、長くなる。
「虹彩色素沈着」:眼球の黒目の部分に顆粒状の色素増加が起きる。
副作用の発現メカニズムは、明確にはわかっていないが、PG製剤がメラニン生成細胞や毛根細胞に影響するためだと考えられている。
眼瞼色素沈着、まつ毛の異常、眼瞼部多毛は可逆的であり、使用中止により6ヶ月以内に改善する。
しかし、虹彩色素沈着は使用を中止しても回復しない場合が多いことは、覚えておくべきである。
また、虹彩色素沈着以外の副作用は、点眼薬が眼からあふれて、眼の周囲などに付着して起きると考えられている。
そのため、使用後に溢れた点眼薬をティッシュなどでよく拭き取ることや、洗顔または入浴前の点眼について十分な説明をする。
点眼回数が負担になる場合、配合剤を選択することも可能である。
・キサラタン
添付文書には、「遮光」「2~8°C保存」とあるが、必ずしも冷蔵庫で保管する必要はない。
安定性試験の結果から、「30°C以下」「遮光」「開封後4週間以内に使用」なら問題なく使用できる。
ただし、基本は冷蔵庫で保管することとし、旅行・出張などの際は上記の3点を条件に携帯可能と説明する。
①-2 β遮断薬
第一に禁忌を確認する。(点眼剤でも死亡例が出ている。)
→気管支喘息、気管支痙攣・同既往歴、重篤な慢性閉塞性疾患、コントロール不十分な心不全、徐脈、Ⅱ・Ⅲ度の房室ブロックを確認する。
全身性の副作用に注意する。
→喘息、徐脈、心不全、レイノー症悪化、うつ状態、皮膚発疹などの兆候を確認する。
授乳を避ける。
他科受診の際には、β遮断薬使用中と医師に報告するよう説明。
→お薬手帳の使用状況を確認する。初めてのお薬手帳の場合は使用方法について説明する。
・滞留時間延長製剤
1日に1回の点眼にするために、目の中に薬が長く留まるように工夫された製剤。
メカニズムは異なるが、いずれもゲル化することにより滞留時間を延長させる。
そのため、角膜上でゲル化するために起こる「霧視」が起こりやすく、「点眼後に目がぼやける」などを訴えることがある。
この副作用は、医学的な問題はないが、患者さんが気になる場合は点眼時間を就寝前に変更することを主治医と相談するべきである。
また、これらの製剤を他の点眼剤と使用する場合は、最後に点眼するように説明する。
もし、先に点眼した場合、ゲル化した薬剤が後から点眼した薬剤の吸収を阻害する可能性があるためである。
→チモプトールXEは、ゲル化基剤のジェランガムが涙液中の陽イオン(Na)と重合体を形成してゲル化する
→リズモンTGは、添加されているメチルセルロースの性質により、冷やすと液体、温まる(眼表面温度32~34°C)とゲル化する。
冷所への保存を忘れた場合は、冷蔵庫に30分ほど入れて、液状にする。
②白内障治療薬
病状の進行防止を目的に処方される。
・タチオン
使用開始時に溶解させる製剤だが、溶解後の薬剤は光と熱によって分解されやすい。
そのため、「溶解後は冷所(15°C以下)保存」「溶解後はできるだけ速やかに使用すること(4週間以内)」をしっかり説明する。
投薬時に薬剤師が溶解操作をする場合、その日付を油性マジックで必ず記入すること。
※白内障の手術に影響する薬剤
α1受容体遮断作用を持つ薬剤の使用に注意する。
術中虹彩緊張低下症候群(IFIS:Intraoperative Floppy Iris Syndrome)の発生リスクが高まるためである。
IFISとは、白内障の手術中に虹彩が動きやすくなったり、縮瞳が進んで術中操作が困難になる状態。
これは、前立腺と同様に虹彩の散大筋にもα1受容体が存在し、そこにα1受容体遮断作用を持つ薬剤が作用するためである。
α1受容体遮断作用を持つ薬剤-排尿障害治療剤・血圧降下剤・緑内障治療剤を使用している患者さんは、事前に眼科医に伝えるよう指導する。
[眼軟膏]
1)基本的な方法
・まず、手を流水とせっけんでよく洗う。
・チューブの先をティッシュなどできれいに拭く。
・綿棒に適量を取り、鏡を見ながら下まぶたを指で軽く引いて、下まぶたに塗る。
※チューブから直接塗ると指導している資料もある。
・まぶたを閉じて、軽くマッサージする。
・チューブの先をティッシュなどできれいに拭いてキャップする。
2)眼軟膏における注意事項
・眼軟膏を塗るには、もう片方の眼が見えていなければならない。
→眼軟膏が処方された場合、両眼の視力を確認する。
・眼軟膏塗布直後は、眼が曇ることを説明しておく。
3)各論
・アシクロビル(ヘルペスウイルス角膜炎)と抗菌薬軟膏(クラミジアによる結膜炎)は、投与回数に注意する。
1日5回点入する。
ヘルペスウイルスは、初期に5回点入しないと耐性菌ができやすいといわれている。
また、クラミジアに抗菌薬を効かせるためには、頻回の点眼または点入が必要なためである。
[参考資料]
・点眼剤の適正使用ハンドブック Q&A 「医療関係者向け資料」 社団法人 日本眼科医会監修
・「点眼剤」 愛知県薬剤師会 薬苑 第524号 平成17年5月1日 P.23-42
・特集「QOV向上に向けて」眼科用剤の服薬指導で問われる薬剤師の真価 Credentials No.17 February 2010,P4-13
・ポケット医薬品集 2009年版(白文社)
以上
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