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6 服薬指導
[服薬指導 貼付剤 前編]
今回は、「貼付剤」についての服薬指導を考察する。
[貼付剤の種類]
患者さんとの対話の中で、以前に使用していた貼付剤の特定が必要なケースがある。
たとえば、「○○整形からもらってた貼り薬がすごく良かったので、あれがほしい。」とか、「以前、△△外科からもらった貼り薬でかぶれたことがあるので、それは絶対にイヤ!」などである。
このような場合は、製品名だけでなく包装品を見せるとわかることが多い。
(現在は、後発品も多く処方されているので、製品名だけで特定するのは危険である。)
同じように、剤型の確認も製剤そのものを見せるのがよい。
製剤見本や期限切れの製品から確認用見本を確保しておきたい。
貼付剤の種類は、部位、範囲、皮膚の状態などで選択されるのだが、実際の選別では患者さんとの相性が大きなウエイトを占める。
以下に貼付剤の種類を示す。
・パップ
粉末状の薬効成分や精油成分などを含ませた糊状または泥状の貼付剤。
水分を多く含むのが特徴で、この水分の蒸発により患部の熱を奪い、冷却効果が期待できる。
また、皮膚の角質層にも水分を補給して、有効成分の吸収を促す効果も期待できる。
・プラスター(硬膏剤)
プラスチック製フィルムに薬剤を伸ばしたもので、粘着剤が配合されており、はがれにくい。
脂溶性の高分子基材に成分を含ませた貼付剤。
・テープ
プラスターよりもさらに薄型で経皮吸収により全身に作用させる貼付剤。
・パッチ
極めて薄くシール状になった小型の貼付剤。
[全身性貼付剤]
全身性貼付剤は、体に貼っている間は一定の速度で持続的に薬物が体に吸収される。
従って、持続する痛み、夜間・明け方に現れる症状などの治療に有効性が期待できるということである。
また、服用する必要がないため、薬嫌いの小児や嚥下障害、認知症のために経口の服用が厳しい患者さんに有用である。
この貼付剤のメリットは覚えておこう。剤型変更のキーワードになることもあるからだ。
ちなみに全身性貼付剤が開発された経緯を簡単に説明しよう。
薬を口から飲むと、ほとんどの薬が小腸から吸収され、門脈から肝臓を通って全身を巡る。
ここで問題になるのが、肝臓が薬を処理する臓器であるということだ。
つまり、肝臓で代謝されると薬効が無くなってしまう薬は、経口投与では十分な効果は期待できないということである。
(このほか、消化液で分解されてしまう薬も同様である。)
このような薬は、他の投与経路(注射、目粘膜、口腔粘膜、鼻粘膜、肺、皮膚、直腸など)を考えることになる。
貼付剤は、有効成分の皮膚からの吸収を目的とした剤型である。
具体例を挙げる。
ニトログリセリンは、強力な血管拡張作用を持っているが、全身に循環する前に肝臓でほとんどが分解されてしまう。
そこで、肝臓で代謝されるのを防ぐために、口腔粘膜から吸収させる舌下錠が開発された。
しかし、舌下錠は血中の半減期が2~3分であるため、発作時しか服用ができなかった。
そして、これまでの剤型の課題を克服したのが、硝酸イソソルビドの全身性貼付剤である。
内服による肝臓の代謝を避け、かつ持続的に作用させる剤型が登場したのである。
この後、気管支拡張薬やニコチン製剤、医療用麻薬、認知症治療薬、パーキンソン病治療薬、過活動性膀胱治療薬など、慢性疾患の多くの分野で全身性貼付剤が開発されている。
[副作用]
貼付剤に共通して問題になる副作用は、皮膚のかぶれや痒みである。(貼付剤による接触皮膚炎のことである。)
2回目の来局時に必ず確認する。このときに副作用だけではなく、貼り方も聞いておく。
この副作用は、作用を及ぼす成分と、粘着剤や吸収促進剤などの添加剤による化学的刺激が主な原因と考えられている。
また、薬剤によっては強力な皮膚への密着性を有する製剤もあり、皮膚への直接的な刺激が大きいものもある。
皮膚への密着性が高い製剤の場合は、貼付部位の汗や蒸れなどの刺激も原因のひとつになる。
一般的な症状は、紅斑や丘疹が大部分であり、剥がしたあと1~2日で消失・軽減するため、薬剤によっては「同じ場所に貼らない。」といった指導が必要である。また、保湿などのスキンケアの指導も重要である。
なお、貼付剤の接触皮膚炎の重症化による治療の中断は、2~8%と考えられている。
かぶれを予防するために外用ステロイドのローションを先にぬってから貼付剤を貼る手法も行われている。
が、この手法は、皮膚科医によっては否定的である。
特に高齢者の場合、外用ステロイドには皮膚を薄くする作用があり、ただでさえ薄い高齢者の皮膚をより薄くさせるためである。
また、ステロイドの長期連用は、高齢者の皮膚に皮膚萎縮、血管拡張、局所の感染などの危険性を高める。
貼付剤による接触皮膚炎が発症した際の対応をガイドラインから紹介する。
参考資料:日本皮膚科学会接触性皮膚炎診療ガイドライン2009
※接触性皮膚炎は、刺激性とアレルギー性に大別される。
割合としては、刺激性がほとんどであるが、鑑別は容易ではない。
また、製剤を剥がしたあとも、注意が必要である。
すでに皮膚から吸収された薬物の効果は続くので、剥がしたあとも作用が残ることに注意する。
特に薬を切り替える際は、前の貼付剤を剥がして何時間たてば血中濃度が十分に下がるかを確認しておこう。
(特にフェンタニル製剤では、剥離後の血中濃度半減期が20~40時間である。)
※用語解説
「紅斑」:
限局性の発赤を紅斑という。
発赤とは、皮膚粘膜の赤色の色調の変化であり、毛細血管の一時的な拡張と充血による。
「丘疹」:
皮膚原発疹のひとつで、粟粒大からエンドウマメ大までの大きさの皮膚の盛り上がりをいう。
主に炎症反応によるものである。
形や色調は、種々多彩である。
[スキンケア]
一般に、皮膚のかぶれは皮膚の角質層の水分量を増やすことである程度予防が可能である。
角質層の水分は、保湿剤をしっかり塗ることで改善する。
保湿剤は、ヘパリン類似物質外遊製剤、尿素含有製剤、ワセリンの3つに大別できる。
この3剤はケースに応じて使い分ける。
保湿剤の選択の要素は、以下の3点である。
・3剤のうち、保湿作用が最も強いのは、ヘパリン類似物質である。
・ワセリンは角質層に水分を保持させる能力がもっとも弱い。
・尿素含有製剤は保湿効果より角質を溶解して柔らかくする作用が主体である。
保湿剤を塗るタイミングは、角質層が十分に水分を吸収した風呂上りが望ましく、入浴後速やかに外用する。
保湿剤の効果は、塗る量に比例するため、厚くベッタリと皮膚全体に伸ばすように塗る。
次に特にトラブルが多く発生する高齢者の皮膚の特徴を以下にまとめる。
①角質層が薄い。
②角質層の細胞間が粗になっており、表皮の水分が保持できない。
③皮脂や汗の分泌が少なく乾燥しやすい。
秋から冬にかけての皮膚が乾燥する時期は、皮膚透過性が亢進し刺激に敏感になる。
高齢者に多くみられる老人性乾皮症や乾燥性湿疹の原因である。
この時期に貼付剤を使用する場合は、過去の薬歴から皮膚のトラブルの有無を確認する。
副作用が問題になりそうな場合は、ヒルドイドなどの処方追加を主治医と相談するべきだろう。
後編に続く
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