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6 服薬指導
[服薬指導 総論]
服薬指導は、薬剤師のもっとも重要な職務である。
医薬品は、情報を伴って初めて医薬品として存在する。
用法用量や相互作用などの情報がなければ、疾患を治すどころか生命の危機を招く危険さえある。
ゆえに、薬剤師には患者さんに薬の説明をする法的義務が、薬剤師法および医薬品医療機器法において規定されている。。
(薬剤師法第二十五条の二・医薬品医療機器法第九条の三)
薬剤師は、薬剤の適正使用のため、対面により書面を用いて必要な情報を提供し、必要な薬学的知見に基づく指導をしなければならない。
つまり、患者さんに適切な服薬指導をすることは、法的にもあなたを守ることになるのだ。
※ご参考
服薬指導については、保険薬局及び保険薬剤師療養担当規則 第8条(調剤の一般的方針)においても規定されている。
ご参考までに、服薬指導の法的根拠を、[引用]の項で提示している。
服薬指導シリーズは、基本的に薬剤を説明する際に役立つポイントをサブノート的にまとめたものである。
しかし、このコンテンツだけは、説明のコツも紹介している。
その内容は、すべての服薬指導に共通して役立つ項目でもある。
具体的には、服薬指導の一般的な項目を紹介し、その項目を説明する際に注意すべきことをピックアップした。
実際の服薬指導は、ケースごとに説明する内容や量・項目が調整されるが、一般的なメニューを知ることは必要であろう。
市販されている服薬指導のテキストには、案外この部分の記述が無いものが多かったため、最初に紹介したい。
新人の薬剤師、新しい薬剤の服薬指導をまとめる際の確認事項として参考にしていただきたい。
[服薬指導の項目]
まず、一般的な服薬指導の内容を考える。
それは、概ね次のような項目である。
【初回の服薬指導】
・患者さんの背景の確認
既往歴、合併症、アレルギー歴、嗜好(アルコール、タバコなど)など
・他の治療状況
他院他科の受診、併用薬など
・本日、処方された薬の説明
薬理作用、副作用、薬の保管、治療効果、治療方針など
・生活面の注意事項
・お薬手帳
活用方法の説明など
【2回目以降の服薬指導】
・服用状況の確認
服用上の問題点など
・副作用の確認
新たな症状、検査値の変動など
・効果の確認
症状の変化、検査値の変動など
・患者さんからの疑問、不安、悩み
・前回の服薬指導において、説明が不十分であった項目の補足
特別な事情がない場合は、このような項目が服薬指導の中心的内容になる。
次にこれらの内容のうち、ポイントになる部分をクローズアップして考える。
[服薬指導時のポイント]
ここでは、項目別に説明する際のコツを解説する。
①効能効果
ポイントは、「具体的な効果」をわかりやすく説明することである。
わかりやすくとは、専門用語を多用せずに説明することである。
患者さんが薬剤の効果を理解することによって、治療の必要性を自覚できるようにするためである。
これを説明するためには、当然のことながら病態や体の仕組みについても説明が必要である。
特に自覚症状に乏しい疾患の場合は、具体的な薬の効果を理解することが重要である。
一般的には、患者さんが自分の病気や薬剤の理解が進むほど、アドヒアランスが向上する。
②用法用量
1回分の服用量と1日の服用回数、服用の時間またはタイミング、食事の影響について説明する。
特に食事の影響を考慮する薬がある場合は、どの薬が該当するかをわかりやすくするのがポイントである。
つまり、服用のタイミングを厳格に守るべき薬剤とそうでない薬剤を区別するのである。
患者さんの食事が不規則な場合は、必ず具体的な服用方法を説明する。
これは、1人暮らしの若い患者さんの場合に多い。
その他、私が経験したケースでは、銭湯の女将、タクシーの運転手、夜の飲食業、海外出張の多いビジネスマンなどである。
また、患者さんの中には朝食を抜いた場合、朝食後の薬を飲んではいけないと考えている人は多い。
このような患者さんに、薬の飲み方を説明することは、アドヒアランスの点で大変重要である。
現在の食生活では対応不可の場合には、患者さんに理由を説明してから、医師に対策を相談する。
③他の薬剤や食べ物との相互作用
相互作用について説明する際は、最初にお薬手帳の確認から入るとよい。
相互作用、お薬手帳について両方とも説明しやすいからである。
女性の高齢者の場合、健康食品やサプリを服用している確率が高いので、必ず確認するべきである。
④保管方法
室温以外の保管・管理が必要な薬剤については、紙による説明が必要である。
普段の保管上の注意の他に、通勤・通学時、あるいは旅行・出張の場合の具体的な対応が必要な場合があるので注意したい。
現在の薬剤の保管方法、幼児や認知症の患者さんとの同居の有無は確認しておこう。
⑤副作用
副作用の説明は、非常に難しい。
薬剤によって内容が異なるうえ、患者さんの性格を考慮しないといけないからだ。
一般的な副作用の説明は、主観的な表現は避け、比較的服用初期に現れるもの、頻度の高いものを説明し、重大な副作用については初期症状を伝える。
長期服用した後に発現する可能性の高い副作用については、経過に伴いトレースし、適切な時期に情報を提供する。
副作用情報の3原則
a)可能な限り客観的に伝える。
b)服用開始後に発現しやすい副作用と、長期服用中に発現する可能性のある副作用を分けて説明する。
c)比較的頻度の高い副作用と、まれに起こる重大な副作用の初期症状を伝える。
副作用を伝達するにあたり、下記の点も追加したい。
これは、薬情の副作用に過敏に反応した患者さんが、心配になって医師に相談やクレームを行い、トラブルになることを防ぐためである。
・可能であれば、門前の医師と薬局における副作用の情報伝達の方針について、打ち合わせを行うこと。
この際、実際に使っている薬情を見ていただく。
副作用の説明に対する医師の考えを確認し、方針を決める。
副作用の情報提供を医師と共有しておくことは、大変重要である。
・患者さんによって、説明の量や表現を変えて、その人に適した説明にすること。
もちろん、嘘はいけないが、非常に神経質な患者さんへの配慮は必要である。
また、逆に副作用経験者には、正確に説明した方がよい場合が多い。
⑤飲み忘れについて
「飲み忘れた場合は、念のため服用する前に連絡を下さい。」がもっとも患者さんが安心する説明であろう。
なぜなら、飲み忘れに気づいた時間により、対応が異なるからである。そして、いつ飲み忘れが起こるかはわからないのだ。
とりあえず、「2回分を一度に服用するのは厳禁。」ははっきり説明する。
⑥薬情
薬情が適切な内容であるかどうかは、非常に重要である。
患者さんがご自宅であなたの説明を反復する際の資料だからだ。
(しばしば、かなり読み込んである薬情を持参し、アンダーラインがひいてある語句を質問してくる患者さんがいる。このようなときに、重要性を実感する。)
必要な情報だけ、わかりやすい表現で見やすくまとめられているかを点検しよう。
もちろん、文字の大きさも適切かどうかを注意したい。
※添付文書の改訂
患者さんに説明する内容の基礎になるのは、添付文書である。
よって、添付文書の改訂が行われた場合、患者さんへの伝達の必要性を検討する。
もしも、情報伝達が必要である場合、第一に処方する医師へ連絡して改訂内容対応の打ち合わせをする。
必要があれば、薬情の内容を改訂する。
次にレセコンから、処方されている患者をプリントアウトする。
最後に薬局の全スタッフに改訂の連絡並びに対応方法について説明する。
[わかりやすく説明すること]
いくら、重要なことを説明しても、患者さんが理解できなければ役には立たない。
一番大切なのは、何を伝達したかではなく、患者さんがどれだけ理解できたかである。
できるだけ多くの内容を患者さんに理解いただくためには、わかりやすく説明する工夫が必要である。
※私が取り組んできた工夫をコンテンツ「コミュニケーション」にまとめてあるので、参考にしていただきたい。
[患者さんへの説明で特に注意する点]
・初回来局時の質問票
なぜ、この質問票が必要なのかを簡単に説明して、記入をお願いする。
他院他科の受診状況、副作用歴、アレルギー歴、既往症、OTC・サプリ、飲酒等を確認した場合、必要に応じてさらに詳細な情報を聞いておこう。
特に副作用歴がある場合は、詳細な情報収集が必要である。
また、他院他科の受診状況に併せて、お薬手帳を確認しておく。
・お薬手帳
お薬手帳の有無を確認し、お持ちであれば内容を必ず確認する。
当たり前だが、調剤前の段階で確認し、処方監査を行う。
もし、お薬手帳をお持ちでない場合は、質問票から他院他科の受診状況を確認し、手帳の意義を説明する。
・プライバシーへの配慮
他の患者さんに聞こえないように配慮すること。
特に、性器や肛門に使う薬剤、便に関係する薬剤などの説明は、注意深く配慮する。
[引用]
服薬指導の法的根拠は以下より引用した。
<e‐GOV 電子政府の総合窓口>
・医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(医薬品医療機器法)
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S35/S35HO145.html
第九条の三 (調剤された薬剤に関する情報提供及び指導等)
薬局開設者は、医師又は歯科医師から交付された処方箋により調剤された薬剤の適正な使用のため、当該薬剤を販売し、又は授与する場合には、厚生労働省令で定めるところにより、その薬局において薬剤の販売又は授与に従事する薬剤師に、対面により、厚生労働省令で定める事項を記載した書面(当該事項が電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によつては認識することができない方式で作られる記録であつて、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下第三十六条の十までにおいて同じ。)に記録されているときは、当該電磁的記録に記録された事項を厚生労働省令で定める方法により表示したものを含む。)を用いて必要な情報を提供させ、及び必要な薬学的知見に基づく指導を行わせなければならない。
2 薬局開設者は、前項の規定による情報の提供及び指導を行わせるに当たつては、当該薬剤師に、あらかじめ、当該薬剤を使用しようとする者の年齢、他の薬剤又は医薬品の使用の状況その他の厚生労働省令で定める事項を確認させなければならない。
3 薬局開設者は、第一項に規定する場合において、同項の規定による情報の提供又は指導ができないとき、その他同項に規定する薬剤の適正な使用を確保することができないと認められるときは、当該薬剤を販売し、又は授与してはならない。
4 薬局開設者は、医師又は歯科医師から交付された処方箋により調剤された薬剤の適正な使用のため、当該薬剤を購入し、若しくは譲り受けようとする者又は当該薬局開設者から当該薬剤を購入し、若しくは譲り受けた者から相談があつた場合には、厚生労働省令で定めるところにより、その薬局において薬剤の販売又は授与に従事する薬剤師に、必要な情報を提供させ、又は必要な薬学的知見に基づく指導を行わせなければならない。
・薬剤師法
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S35/S35HO145.html
第二十五条の二 (情報の提供及び指導)
薬剤師は、調剤した薬剤の適正な使用のため、販売又は授与の目的で調剤したときは、患者又は現にその看護に当たつている者に対し、必要な情報を提供し、及び必要な薬学的知見に基づく指導を行わなければならない。
・保険薬局及び保険薬剤師療養担当規則
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S32/S32F03601000016.html
第八条 (調剤の一般的方針)
保険薬局において健康保険の調剤に従事する保険薬剤師(以下「保険薬剤師」という。)は、保険医等の交付した処方せんに基いて、患者の療養上妥当適切に調剤並びに薬学的管理及び指導を行わなければならない。
以上
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