[すご本5 コレステロール 嘘とプロパガンダ]


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 5  すご本 

[すご本5 コレステロール 嘘とプロパガンダ]

 

 

「コレステロール 嘘とプロパガンダ」(篠原出版新社)

ミッシェル・ド・ロルジュリル:著

浜崎 智仁:訳

 

本書は、コレステロールに対する考え方とスタチンの使い方に関して問題を論じたものである。

すなわち、「血中コレステロールはできるだけ低くしなければならない。」だから、「スタチンを積極的に使用して血中コレステロールを下げ、動脈硬化の進行を抑え、心筋梗塞や脳梗塞を予防する。」という考えに対する反論である。(この本は2009年6月5日に発行されている。)

この本は、脂質代謝異常症の薬物治療を勉強したい人はもちろんだが、EBMを勉強したい人に特にオススメである。

 

実は、2年前の2007年に同じ著者より「あなたの主治医にコレステロールは悪くないと言いましょう。薬剤を使わずに治療してくれるでしょう。」という題名の本が出版されている。冗談のような題名どおり、2冊とも同じ主旨の内容である。

この第一弾の本から専門的部分を極力なくし、より理解しやすくまとめたのが本書である。

おそらく、一般の人に幅広く読んでほしいので内容を簡単にしました、という意味だと思うが、内容はかなり難しい。

医療関係者以外の方は、一読して内容を理解するのは、厳しいだろう。

 

コレステロールをめぐる論争は、かなり以前から行われており、今なお続いている。

本書では、この論争の歴史をいろいろな試験や研究を題材に解説している。

スタチンが登場してからは、大規模な臨床試験の結果を中心に考察している。

各章で取りあげられた臨床試験は、「第8章 スタチン試験の総括において」で結果がまとめられている。

内容は、1994年度4S試験から2007年ILLUMINATE試験まで合計21試験の結果を検討したものである。

総括で検討された評価基準は、「死亡率の減少」「死亡率と罹患率の一致」「仮説の単一性」「施設ごとの層化抽出法」「早期終了」「中間解析」「スポンサーの影響」「利益相反」「重大な技術的バイアス」である。

コレステロールに関する大規模な臨床試験21の結果の総括だけでも、大きな勉強になるだろう。

著者によれば、「死亡率の減少」が報告されたのは、21試験中わずかに3試験であり、そのうち4S試験とHPS試験については、利益相反がみつかっているという。

その他、「スタチンの望ましくない作用と毒性」と「梗塞の原因」について考察し、自説を展開している。

すなわち、梗塞の主要メカニズムである血栓形成において、コレステロールは主たる原因ではないとしている。

そして、これが結論となるのだが、コレステロールを下げる努力よりも、次の3点のほうが健康を守る秘訣であるというものだ。

 

・禁煙(そして、汚染されていない空気を吸うよう努める。)

・身体と筋肉にとって最適な運動をする。

・いわゆる地中海ダイエット、もしくはそれに準ずるものを取り入れる。

(これらの条件は、守った人皆が100歳になってもぴんぴんしていることを保証するものではない。なぜなら、他に無視できない要因があるからだ。)

 

 

かなり読みづらいこの本がすごいと思う理由は、2点ある。

1つめは、著者の勇気である。

循環器の専門医、スタチンを処方している医師の大部分、多くの薬剤師、スタチンを製造販売している製薬企業を敵にまわすことが確定している内容なのだ。

なかなか出版という形で発表するできるものではないだろう。

※著者は、リヨン・ハート・スタディの研究者であり、その試験の結果よりこの本の結論について確信を得たものと思われる。

(リヨン・ハート・スタディは、梗塞患者に地中海式の食事を取り入れて、心血管系の健康状態を観察するというものである。結果は、地中海式食事群が総死亡率および心疾患により死亡率を約50%減少させ、致死性と非致死性再梗塞のリスクは併せて70%減少したというもの。)

 

2つめは、EBMの勉強の素材という点である。

臨床試験の問題点はどこなのか?結果をどのように解釈するか?そこから、どのように結論を導くのか?などの勉強の素材にピッタリなのだ。

本書の読後、私が思いついた勉強のテーマを示す。

 

・日本動脈硬化学会の脂質代謝異常症のガイドラインは、何を根拠にしているのか?

・また、欧米の脂質代謝異常症のガイドラインはどのような内容か?(日本と同じなのか?)

・本書で取り上げられた臨床試験は2007年までであるが、それ以降の試験結果はどうなのか?

・スタチンのNNTはどのくらいなのか?

・スポンサーの影響、利益相反は臨床試験にどのくらい影響しているか?

・血栓の形成および粥状動脈硬化の原因は何か?

・メタ解析の問題点は何か?

・フラミンガムスタディは、学説に有利なデータのみを選択して発表したのか?

 

本書を読むと、次々と勉強のテーマが見つかるのである。

「コレステロール論争」のディベートを勉強することは、すなわちEBMを勉強することだと思う。

医学統計の勉強にもなり、疾患・治療ガイドラインの勉強にもなる。

一流の医学誌に掲載された論文であっても、結果を鵜呑みにせず、自分自身で結果を考える薬剤師になるための修行である。

本書は、その修行のテキストなのである。

 

 

(ご参考)

本書に記述されていた地中海食について紹介する。

地中海食は、これまでに臨床的有効性が証明された唯一の総合的な栄養モデルである。

 

あまり精製されていない穀物ーとりわけ小麦粉で、パン、パスタ、クスクスとして多く摂る。

季節の新鮮な果物と野菜もふんだんに摂る。

特に葉野菜は高く評価され、毎食摂ることが勧められている。

豆類(いんげん豆、そら豆、えんどう豆、レンズ豆)も沢山摂る。

木の実(アーモンド、くるみ、はしばみの実)をよく食べる。

冬には、コリントレーズン、イチジク、杏の乾燥果実をよく食べる。

卵、魚、肉は、適度に食べる。

乳製品も摂るが、発酵食品(チーズとヨーグルト)だけで、特に羊と山羊を原料としたものを少量食べる。

料理に使われる油は、オリーブオイルだけ。多価不飽和油(ヒマワリ油、コーン油など)やバターは使わない。

ハーブ(ローズマリー、タイム、オレガノ)、にんにく、たまねぎは、レモンや他の柑橘類の絞り汁と同様、料理の味付けに大量に使われる。

 

 

 

「コレステロール 嘘とプロパガンダ」目次

※章の内容のみ記載。

 

謝辞

序文

日本語版への序文

 

第一部 嘘とプロパガンダ

 第一章 コレステロール学説が、私たちに信じ込ませようとしているもの

 第二章 コレステロールをめぐるスキャンダル-Enhance事件

 第三章 臨床試験とは何か?

 

第二部 コレステロール伝説

 第一章 コレステロールは動脈を詰まらせるのだろうか? 論争の100年

 第二章 観察の後に実験

 第三章 最初の抗コレステロール薬の登場

 第四章 オスロ2とDART-コレステロール学説にとって迷惑な二つの臨床試験

 第五章 「フレンチ・パラドックス」と地中海食-コレステロール学説支持者に迷惑な二つの概念

 第六章 コレステロール伝説の教訓

 

第三部 スタチンの奇跡

 第一章 ひとつの時代の終わり、すなわちブロックバスター(大型爆弾)の到来 

 第二章 スタチンの歴史における主要な出来事

 第三章 証明に入る前の序文

 第四章 スタチンの来襲第三波(2005-2007)

 第五章 来襲第四波:天啓(Illumination)!

 第六章 スタチンの来襲第一波(バイオックス事件前 1990~2000年)

 第七章 第二波(2000-2005年):失われた幻想

 第八章 スタチン試験の総括

 

第四部 スタチンの望ましくない作用と毒性

 第一章 過小評価された現実

 

第五部 それがコレステロールでないのなら、いったい何だ?

 第一章 ティム・ラッサートの死

 第二章 常識と、心臓病学の基本への回帰

 第三章 生活習慣と生存環境

 

結論

 

補遺

 補遺一  脳血管障害のリスク:スタチンを服用する間違った立派な理由

 補遺二  SPARCLの結果の客観的分析

 補遺三  4D試験:スタチンの有効性が最大となるはずであった臨床試験

 補遺四  Illuminate(イルミネート)は中毒事件という以外にどんな説明ができるのか?

 補遺五  4Sの問題点と当時の臨床試験

 補遺六  WOSCOPとその延長に関する有益な情報

 補遺七  IDEAL試験の詳細

 補遺八  ALLIANCE:「現実世界」ではもはや有効性なし

 補遺九  心筋梗塞の急性期もしくは亜急性期(不安定患者)でのスタチン

 補遺十  HPSの研究者たち

 補遺十一 立証責任と薬剤の毒性

 補遺十二 Z因子を求めて

 

訳者あとがき

索引

 

 

以上

 

 

 

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