[すご本3 言葉で治療する]


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 5  すご本 

[すご本3 言葉で治療する]

 

 

言葉で治療する

鎌田 實  朝日新聞出版

 

この本は、「週刊朝日」に連載されたシリーズ「言葉で治療する」に加筆し、書下ろしを加えたものである。

このシリーズは、「医療者によって傷ついた言葉、励まされた言葉」を読者から募集し、集まった手紙やメールを紹介しながら分析を行ったものである。

つまり、医療者と患者さんとのコミュニケーションについて書かれた本である。

一流の薬剤師を目指す人にオススメしたい。

 

自分や家族が難治性の病を患ったときに、最高の治療を受けたいと思うのは人情だろう。

しかし、その病の患者さんが全員最高の医療を受けられるとは限らない。

「神の手」を持つ医師は一人しかいないからだ。

もしも、あなたが「神の手」を持つ医師の治療を受けられないとき、どのように自分を納得させればよいだろうか?

 

この本には、最新の設備や最高の技術に基づく医療が受けられなくとも、患者さんが納得できる医療が存在することが書かれている。

この本に掲載されているがん患者さんのケースを紹介したい。(本書のP.80~)

この男性は大腸に異変を感じて、夜間救急でかけつけた医大からベッドが空いていないという理由で小さな病院に回された。

不誠実な対応に、不安と不満を抱きながら入院生活は始まる。

ところが、担当のU先生のおかげで本人も家族も納得がいく治療を受けることができるのである。

U先生は、大腸がんの治療についていろいろなことを丁寧に説明し、毎日病室に顔を出す。

患者さんの熱が続いたときには、休みの日にも病室に顔を出すのである。

大腸がんの手術は成功するのだが、残念ながら肝臓に転移しており、ホスピスに転院になる。

もちろん、ホスピスへの転院もベストの選択としてU先生がすすめた結果である。

ホスピス入院中には、先に入院していた病院の看護師長が、お見舞いに行く。

小さな病院の信頼関係を基盤とした治療と誠意的な態度は、患者本人と家族を安心させ、慰める。

看病してきた患者さんの奥様は、この経過を「夫のような経過のがん治療であったならば、がんは恐れることはないとまで思えてなりません。」と評価している。治療に携わったスタッフたちへの最大級の賛辞である。

「患者さんとそのご家族が納得のいく治療」は、設備や技術とは別のものであることがわかるのである。

私も、病院ランキング上位の病院よりもこのような施設で治療を希望する。

 

この本で紹介されているケースは、一流の医療関係者を目指す人にも重要な示唆を与える。

もちろん、知識や技術は大切だ。だから、日夜、勉強し、経験を積む。

しかし、患者さんが心から医療関係者に感謝するのは、自分が納得する治療が受けられ、自分の生を全うしたときである。

そのためには、その治療法が患者さんにとって最善である根拠が必要であり、患者さんへのわかりやすい説明が必要なのだが、その前提として必要なのが信頼関係である。

つまり、一流の医療関係者には、知識や技術の他に「患者さんとの良好な関係性を構築すること」が必要なのである。

そして、この関係性を構築する最大の手段は、「コミュニケーション」であることを、本書より学んだ。

 

この本を読むと、日本の医療がかなり荒廃していることがわかる。

私の家族や周辺の人も、この本のケースと同じようなことを経験しているから実感する。

正直、がっかりしたり、不安になるのだが、その一方で希望も見える。

ここに紹介されているような素晴らしい医療機関や医師は、日本にはたくさんあるに違いない。

また、自分が薬剤師としてどのように患者さんのベネフィット向上に貢献するのかを考える。

言葉を大切に使い、患者さんとのコミュニケーションを通して信頼関係を築く。

そのことを再認識できただけでも、読む価値がある本だと思う。

 

 

 

=目次=

・はじめに

・医療者の言葉しだいで治療の日々が天国にも地獄にもなる

・がん患者の半分がうつ症状に悩んでいる

・「きょうまで先生、がんばって、がんばってきました。もうこれ以上がんばれません。」-たましいの叫びを聞こう-

・完治できないときでも、説明が十分だと「納得」することができる

・「厳しい告知は女にはしない、という決まりがこの国にはあるのだろうか」-「安心」につなげるためには、よく説明すること

・なぜ医師と患者さんはすれ違ってしまうのか

・家族を「安心」させてくれる医療は評価が高い

・心の手当は悩んで、泣いて、向き合い、逃げないこと

・患者さんと医師の間の「信頼」をどう取り戻すか

・「聞く」ことが医療現場も教育現場も家庭も職場も大事なのだ

・医師・看護師と患者さん・家族がお互いに救われるコミュニケーション術

・心を支える魔法の言葉

・患者さんと医師の対等な関係が大事

・ある小児科の崩壊を救った「ありがとう」

・患者さんはおびえながら医療者に向き合っている

・毎日病室に来て、よく説明してくれる医師が最高

・医療にもホスピタリティが必要

・「その顔色なら絶対に大丈夫という言葉に支えられた」-がん対策基本法を骨抜きにするな

・若い医師にいい医療をバトンタッチしたい

・「時に癒し、しばしば慰め、そして常に励ます」

・言葉を上手に使えば「がん難民」はもっと減らせる

・あとがき

 

 

以上

 

 

 

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5 すご本 ナビゲーション

[すご本 前口上]

[すご本1 「手術室の中へ」-麻酔科医からのレポート-]

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[すご本4 なぜエラーが医療事故を減らすのか]

[すご本5 コレステロール 嘘とプロパガンダ]

[すご本6 驚きの介護民俗学]

[すご本7 呼吸器の薬の考え方、使い方]

[すご本8 接客・接遇のためのユニバーサルサービス基本テキスト]

[すご本9 痴呆を生きるということ]

[すご本10 緩和治療薬の考え方、使い方]

[すご本11 認知症患者の摂食・嚥下リハビリテーション]

[すご本12 ヘルプマン!]

[すご本13 身体のいいなり]

[すご本14 医学統計の基礎のキソ]

 

 

 

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