[すご本13 身体のいいなり]


前章 >> [すご本12 ヘルプマン!]

 

 

 

 5  すご本 

[すご本13 身体のいいなり]

 

 

[すご本13 身体のいいなり]

内澤旬子著

(朝日新聞出版)

 

 

第27回(2011年) 講談社エッセイ賞受賞

 

「身体のいいなり」は、著者である内澤氏のいわゆる「闘病記」である。

この本は、がん患者さんが来局する薬局の薬剤師にオススメする。

 

内容は、ご自身の腰痛、アトピー性皮膚炎、冷え性、無排卵性月経などの病気、特に38歳で罹患した乳がんの治療・ケアを中心とした治療経験ルポである。

もちろん普通の闘病記ではない。

 

一般的な闘病記は、次の3つに分類されることが多い。(重なる場合もあるが・・)

1)亡くなられた有名人の闘病の記録

2)とにかく凄まじい治療体験

3)珍しい経過を辿ったもの、奇跡的な回復をした経過

 

他人の闘病記を読む理由は人それぞれだが、「治療の有用な情報を知りたい」「あんなすごい病気・治療に比べたら私はマシなほうねと慰められたい」「ひょっとすると俺も治るかもと希望を持ちたい」などを目的とする場合が多いのではないだろうか?

しかし、この本はそのどれにも当てはまらないのだ。

 

内容は、著者の直近数年間の身体の変化を病気を中心に綴ったもので、その変化は奇妙で面白い。

この本の帯にはこのようなコピーが書かれている。

「38才で乳癌と診断されてから、なぜかどんどん健やかになっていく・・・」(?)

 

乳がんの人が自分の治療に役立てたいと思って勉強用に買う本ではないのだ。

いや、やっぱり勉強になる。

いやいや、やっぱり・・・わからなくなってきた。

というようなエッセイなのである。

 

これまでに苦しんだ症状の数々、そして乳がんの治療と貧乏な生活、医師とのやり取り、患者として頭に来たこと・感じたことなどが大変リアルに書かれている。

乳がん治療・ケアの選択と経過、周りの人との関係性で感じたこと、仕事の決断などが淡々と語られる。

奇妙なのは、乳がんに罹患し、治療をする中で、これまでに苦しんだ症状が軽減もしくは消失していくことだ。

 

普通の医療関係者は、ここまで患者さんの正直な心情を教えてもらうケースは少ない。

それだけでも、読む価値があると思うが、オススメする理由はなんと言っても面白いからだ。

しかも、読みやすく、わかりやすい。

読み始めたら、止まらなくなって一気読みであった。

 

私は薬剤師なので、もっとも興味を持ったのは著者と医師との関係性である。

医師の説明や態度によって、この患者さんはどう感じ、どう考えるのかを知るのは興味深いことである。

たとえば、手術を行った医師が、毎朝、傷口のチェックをするために病室を訪れる。

このことが、患者さんに安心を与える大切なこととして評価している。

また、医師の説明の重要性は繰り返し指摘している。

医療関係者は-特に医師の場合、患者さんから説明や態度の悪さを正直に指摘されることは少ない。

患者さんは、医師と相性が悪いと感じたら、関係を修復するために話し合うよりも転院する。

転院が出来ない場合は、さらに関係が悪化しないように、我慢(沈黙)するのである。

だから、医療関係者は常に自分自身を客観的に評価し、自ずから態度や説明を修正しなければならない。

説明の内容、わかりやすさ、そして患者さんの疑問や不安を払拭できたかどうかを常に気を配るべきである。

 

もうひとつ印象深いのは、生活と治療費の関係である。

乳がんに罹患した時、著者は裕福ではない状態で、治療に関しても経済的要素を考慮しなければならなかった。

私は、普段「生活保護」のケースなどは意識するが、なかなか気を回せなかった。

今後は、このようなケースにも心配りし、利用できる制度や安くする方法などを考え、お声掛けできるようにしたい。

特にがんなど高額な治療の選択肢がある疾患の場合と、自費で治療・ケアしている場合などは注意したい。

 

まとめると、患者さんの本音が面白おかしく勉強できる本なのである。

 

 

 

「身体のいいなり」

内澤旬子著

(朝日新聞出版社)

 

=目次=

はじめに

 

I 持病の歴史

腰は痛いものなのだ――腰痛

痒の苦しみ――アトピー性皮膚炎

操体――ある日突然、腕がくるくる回る

 

II そして、癌ができた

貧すれば病みつき、病みつけば貧する

とにかく慣れろ、慣れるしかない入院手術生活

女の敵は女? 婦人科病棟ブルース

何はなくとも三百万 フリーのための癌対策

フリーズさせて、すみません。カミングアウトの憂鬱

調べない。根性なしがたてた治療方針

 

III ようこそ副作用

不快が一杯! 痒くて痛くて暑くてうるさい

絶不調、ほどけるように眠りたい

身体にヨガをせがまれて “オウム”は無理! ?騒ぐ心をなだめすかしつつ

視線の先が気になって ヨガから迷い込む女子道

資料もゴミも紙一重、本の山から離脱せよ

塗っても描いても痒くない! いまさら化粧道入門

安眠を求めて筋肉がつく不思議

 

IV 乳腺全摘出、そして乳房再建

ホルモン療法ギブアップ宣言

煮えろ! ! ゼンテキ決定前夜祭

ケンケンガクガク乳房再建

超繁忙期間にゼンテキ、再建

癌友がいく

たかが乳、されど乳

失われた「自然」を求めて

 

そして現在

 

 

以上

 

 

 

次章 >> [すご本14 医学統計の基礎のキソ]

 

 

 

5 すご本 ナビゲーション

[すご本 前口上]

[すご本1 「手術室の中へ」-麻酔科医からのレポート-]

[すご本2 抗精神病薬の「身体的副作用」がわかる]

[すご本3 言葉で治療する]

[すご本4 なぜエラーが医療事故を減らすのか]

[すご本5 コレステロール 嘘とプロパガンダ]

[すご本6 驚きの介護民俗学]

[すご本7 呼吸器の薬の考え方、使い方]

[すご本8 接客・接遇のためのユニバーサルサービス基本テキスト]

[すご本9 痴呆を生きるということ]

[すご本10 緩和治療薬の考え方、使い方]

[すご本11 認知症患者の摂食・嚥下リハビリテーション]

[すご本12 ヘルプマン!]

[すご本13 身体のいいなり] ←今ココ

[すご本14 医学統計の基礎のキソ]

 

 

 

↓ もし良かったら、この記事をシェアしていただけると嬉しいです。