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5 すご本
[すご本9 痴呆を生きるということ]
[すご本9 痴呆を生きるということ]
小澤 勲著(岩波新書)
認知症の患者さんは、どのような世界に生きているのか?
本書は、認知症の症状を理解するために患者さんの内面から気持ちや行動を考察し、その心に寄り添うケアを探るものである。
特に「周辺症状を理解したい人」あるいは「認知症のケアの基本的考え方を勉強したい人」は必読の名著である。
認知症の治療・ケアに関わる医療関係者と介護するすべての人にオススメする。
著者は、認知症の治療・ケアに20年以上携わってきた精神科医である。
いまさら私がすご本として取り上げるまでもなく、認知症の理解のために読むべき本のリストには必ず紹介されている本である。
恥ずかしながら私は2016年に初めて読んだのだが、初版2003年にもかかわらず、その内容は現在でも色褪せることはない。
本書を読んだきっかけは、自分の勉強不足を自覚したからであった。
認知症は、薬や病気についての知識だけでは不十分である。
介護制度や成年後見制度、社会的資源の種類、各種相談窓口などの情報も大切なのだが、なんといっても「ケア」に関する知識が必須なのである。
そこで、認知症のケアに関する本をいろいろと読んだのだが、その中で出会った一冊である。
本書の特徴のひとつは、認知症の症状と経過を耕治人の小説を引用して解説していることである。
これにより、介護する側から見たリアルな症状と苦悩が伝わってくる。
それは、教科書やテキストに載っている症例報告には記入されていない描写である。
認知症では見当識障害や失禁が出現すると書いてあることが、具体的にどういうことなのかがわかり、目に浮かんでくるのだ。
また、認知症の周辺症状を理解するために「もの盗られ妄想」「徘徊」をとりあげ、その症状の成り立ちを探っていく。
多くの認知症の本は、周辺症状には○○や△△があり、それはこのような症状であると説明されているだけだ。
それに対し、代表的な周辺症状を掘り下げ、患者さんの内面から症状が出てくるメカニズムを考察していく。
ひとつの症状の発生メカニズムをこれほど深く考察した本は初めてである。
これを読むと、認知症の周辺症状に対する看かたが大きく変わる。
「認知症にはもの盗られ妄想という症状が出る」という知識から、「もの盗られ妄想という症状はこのように出現するのだ」と理解することができるのである。
周辺症状とは、認知症を病み、中核症状がもたらす不自由を抱えて、暮らしのなかで困惑し、行きつ戻りつしながらたどり着いた結果であることがわかるのである。
私が本書の内容でもっとも勉強になった点は、「ケアの基本視点」である。
これは、著者がケアをするにあたって、こころがけてきたことである。
=ケアの基本視点=
①客観的、医学的、ケア学的に理に適ったケアを届けること
認知症という障害のありようを明らかにし、暮らしのなかで彼らが抱えている不自由を知る。
そして、できないことは要求せず、できるはずのことを奪わないというかかわりである。
②認知症を生きる一人ひとりのこころに寄り添うような、また一人ひとりの人生が透けて見えるようなかかわりをつくること
現在の暮らしぶりを知り、彼らが生きてきた軌跡を折りにふれて語っていただけるようなかかわりをつくる。
この2つの視点を統合することが、痴呆ケアの基本であるとかかれている。
私は薬剤師として、認知症の患者さんとそのご家族と接する場合、また、在宅の患者さんにチーム医療で対応する際、この視点を忘れないよう心に刻もうと思っている。
本書の著者、小澤 勲は肺癌を病み、2008年に他界した。
著者の冥福を祈りつつ、この先達が残してくれた貴重な本書を私の認知症ケアの教科書としたい。
以上
=目次=
はじめに
第一章 痴呆を病む、痴呆を生きる
1 病としての痴呆
2 生き方としての痴呆
第二章 痴呆を生きる姿
1 痴呆はどのような経過をたどるのか
2 私小説にみる痴呆老人の世界-耕治人を読む
(1)『天井から降る哀しい音』-初期痴呆の世界
(2)『どんなご縁で』-中期痴呆の世界
(3)『そうかもしれない』-重度痴呆の世界
第三章 痴呆を生きるこころのありか
1 痴呆老人からみた世界
2 初期痴呆-未来への不安
3 中期痴呆-過去への執着
4 重度痴呆-今・ここに
第四章 痴呆を生きる不自由
1 アルツハイマー病者の著作から
2 痴呆を抱えて暮らす困難
3 妄想の成り立ち
第五章 痴呆のケア
1 前提と基本視点
2 周辺症状のケア-もの盗られ妄想を例に
3 個別ケアを超えて
終章 生命の海
おわりに
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