服薬指導 便秘薬


[前口上]
私が最初に勤めた調剤薬局は、消化器内科のクリニックの門前である。
当然、胃腸に関する薬剤の採用品目数は多かったのだが、なかでも「便秘薬」に関しては種類が多く、使い分けに関しては正直言ってよくわかっていなかった。現在から15年以上前の話である。

現在では、次々と「便秘」治療薬の新兵器が誕生した。
治療戦略も当然、進化しているはずである。
これが、便秘の勉強をしようと考えた理由である。

便秘はどの診療科でも遭遇する疾患であり、患者数も多いので、薬剤師が薬物治療の基本を勉強しておくべきテーマである。
15年前は便秘の勉強の資材にも困ったものだが、今では「便秘のガイドライン」も作成されている。
これで、診断・治療の体系的な知識も勉強が可能である。
便秘の薬物治療に関しては、このガイドラインを勉強するのが最も合理的であろう。
このコンテンツは、便秘の勉強をしたときのノートを基に作成している。
便秘を勉強したい方のサブノートとしてお役に立てば、望外の喜びである。

 

[便秘とは]
便秘のガイドラインが作成される前は、明確な診断基準はなかったはずである。
あくまで主観的な症状であり、3日以上排便がない場合に「便秘」と診断されることが多かったと記憶している。

2017年に本邦初の慢性便秘症診療ガイドラインが策定され、その中で「便秘」は、「本来体外に排出すべき糞便を十分量かつ快適に排出できない状態」と定義された。
平成28年の国民生活基礎調査によれば、日本における便秘症状を訴える患者数は男性2.5%、女性4.6%で、20~60 歳では圧倒的に女性が多い疾患である。
ただし、60歳以降はだんだん男女ともに増加していき、80歳以上の高齢者ではともに10.8%と男女差がなくなる。

2017年に作成されたガイドラインでは「慢性便秘症の診断基準」が策定されているが、排便の回数だけではなく、排便の際の状態を考慮して診断することとなっている。

「慢性便秘症の診断基準」
以下の6項目のうち、2項目以上を満たす場合に慢性便秘症と診断する。

a.排便の4分の1超の頻度で、強くいきむ必要がある。
b.排便の4分の1超の頻度で、兎糞状便または硬便(BSFSでタイプ1か2)である。
c.排便の4分の1超の頻度で、残便感を感じる。
d,排便の4分の1超の頻度で、直腸肛門の閉塞感や排便困難感がある。
e.排便の4分の1超の頻度で、用手的な排便介助が必要である(摘便・会陰部圧迫など)。
f.自発的な排便回数が、週に3回未満である。

「慢性」の定義
6ヶ月以上前から症状があり、最近3ヶ月間は上記の基準を満たしていること。
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成人の口から肛門まで合計約9メートル。口から食べられた食物は消化されながら肛門へ移動し、小腸で3~10時間、大腸で24~72時間程度停滞する。
この通過時間が長くなることが便秘である。ちなみに直腸に送り込まれた便が150ml程度貯まると、便意が発生する。

便秘症は、大きく「器質性便秘」と「機能性便秘」に分類される。
器質性便秘とは、大腸に形態的な病的変化を認めるものであり、腫瘍や炎症が含まれるため、 内視鏡検査やCT(computed tomography)検査、造影X線検査等の画像診断が必要となる。

機能性便秘とは、大腸に形態的な変化はないのだが、大腸の排便機能に何らかの障害が起こり、便秘となった状態である。患者の訴える症状により、排便回数減少型及び排便困難型に分類される。

便秘の多くは機能性便秘である。機能性便秘には3つに分類される。

 

・痙攣性便秘:ストレスで腸管が働きすぎる若年者に多い便秘で、腹痛・兎糞・間欠的な下痢が見られる。

 

・弛緩性便秘:女性や高齢者に多い腸管運動の停滞した便秘で、便意が弱く、硬便で下剤乱用の傾向がみられるケースが多い。

 

・直腸性便秘:直腸内で便が停滞する便秘で、弛緩性便秘と合併するケースも多い。排便を我慢する習慣で発症し、直腸内に大量に糞便が存在するが便意を認めないのが特徴である。

 

[便秘の薬物治療]
治療ガイドラインでは、当然のことながらエビデンスレベルの高い根拠を持つ薬物が推奨される。併せて海外のガイドラインで優先順位が高い薬物がラインナップされている。日本では、もっとも使用頻度の高い薬物-長年多くの医師に処方されてきた酸化マグネシウムなど-が、使用経験に基づきガイドラインに組み込まれている。
エビデンスレベルAで実施することを推奨する薬剤は「浸透圧下剤」と「上皮機能変容薬」であり、これらの薬剤が第一選択薬になる。
これまでの日本における便秘治療薬の使用状況は、海外と比べて緩下剤である酸化マグネシウム(カマ)と刺激性下剤の使用が極端に多いのが特徴である。米国ではポリエチレングリコールとラクツロースが下剤の7割以上を占めている。

薬物療法は、浸透圧性下剤、上皮機能変容薬(共にエビデンスレベルA(質の高いエビデンス)推奨の強さ1(強い推奨))を基本薬剤とする。ただし、食物繊維の摂取が少なく、便の量が少ないことを感じている患者に対しては、膨脹性下剤の併用も考慮する。(エビデンスレベルC,推奨の強さ2)
便を柔らかくすることを目的とするこれらの下剤に加え、必要に応じて、刺激性下剤をあくまでレスュー薬として「頓用で使用」することが薬物治療の基本戦略である。

薬物治療の症状緩和の目安は、これらの治療薬を毎日適量内服して、排便回数を2回/日~1回/2日、便性をブリストル便性状スケール※1でタイプ3~5に調整することである。

慢性便秘症診療ガイドライン2017において最も推奨されている下剤の第一選択薬は、浸透圧性下剤と上皮機能変容薬の2種類だが、同ガイドラインでは、どのクラスの薬剤を第一選択とするかは記載されていない。

※2ブリストル便性状スケール
英国ブリストル大学のHeaton博士が1997年に提唱した大便を形状と硬さで7段階に分類する指標であり、便秘や下痢の診断項目の一つとして使用されている。
http://www.med.oita-u.ac.jp/oitaNST/siryo/bristol.pdf

 

[便秘治療薬各論]
=浸透圧性下剤=
①酸化マグネシウム
酸化マグネシウムの特徴は、作用が穏やかで、耐性がなく、用量調節が可能で、しかも薬価が安い点である。作用は、腸管内に水分を引き寄せることで便を軟化・増大させ、腸管に刺激が加わり蠕動運動が活発になることで排便を促す。
抗生剤(テトラサイクリン系、ニューキノロン系)、ビスフォスフォネート製剤、ジギタリス製剤と同時服用すると、これらの薬効が減弱する。どうしても併用する場合は、服用時間を2~3時間ずらして内服するよう指導する。腎機能障害を認める患者さんでは、高マグネシウム血症をきたしやすいので注意が必要である。
慎重投与:腎障害:高マグネシウム血症、心機能障害、徐脈
相互作用:同時服用を避けるのは、

テトラサイクリン系、ニューキノロン系、ビスホスホン酸塩系骨代謝改善剤→キレート形成で吸収阻害
ジギタリス、フェキソフェナジン→マグネシウムの吸着作用及び消化管内・体液のpH上昇

 

②ラクツロース
ラクツロースは合成二糖であり、消化酵素によって代謝されないため、高浸透圧となり、腸内の水分を増やして便を軟化・増大させる。内服後24~48時間後に下剤効果が発揮される。
比較的生理的に腸管機能改善作用を示し,腸管内のアンモニア産生及び吸収を抑制する。
2018年9月にラクツロース製剤であるラグノスNF経口ゼリー分包12gが生理的腸管機能改善剤として、慢性便秘症(器質的疾患による便秘を除く)の適応が追加され、製造販売承認を取得した。

③ポリエチレングリコール(polyethylene glycol:PEG)は、経口腸管洗浄薬として、腸管内容物の排除を目的として使われてきた。
日本では、主に大腸鏡前処置の腸管洗浄に使用されていたが、欧米では慢性便秘症の治療薬として最も一般的に使用されている。
厚労省の要請を受け、2歳以上の小児から使えるよう用法・用量を設定し、経口慢性便秘症治療薬「モビコール配合内用剤」として2018年9月に製造販売承認を取得した。

 

=膨張性下剤=
カルメロースナトリウム(バルコーゼ)
国内で唯一、「便秘症」に効能を有する膨張性下剤である。
本剤の薬理作用は、消化管でほとんど消化吸収されず、同時に服用した水と共に腸内で粘性のコロイド液となり、便塊に浸透して容積を増大させ、腸壁に物理的刺激を与えて自然な排便を促す。作用は12~24時間以内に発現するが、最大効果は2~3日連続投与した後に効果が得られるため、継続して服用することが重要である。排便時の下腹部痛は少なく、怒嘖する必要がないため、肛門を刺激することなく、痔疾患患者にも使用しやすい薬である。薬剤の効果自体は他の便秘薬と比べると緩徐だが、副作用は少なく、効きすぎて下痢になるということはほとんどない。また、耐性形成や習慣性がないため、長期的に安心して服用できる便秘薬である。

 

=上皮機能変容薬=
①ルビプロストン(アミティーザ)
作用機序は小腸粘膜上のタイプ2クロライドイオンチャネルを活性化し,小腸腸管内腔へのクロライド輸送により浸透圧を生じさせ,内腔への腸液分泌を促進させる。その結果、便の水分含有量が増えて柔軟化し、腸管内輸送が促され便秘を改善する。ルビプロストンについては質の高いRCT(randomized controlled trial)がなされており、併用禁忌薬・併用注意薬はない。
主な副作用は下痢と悪心だが、悪心に対する副作用対策としては,食事直後の本剤の服用が効果的である。また、1~2週間の内服で徐々に軽減されることを患者に説明することで改善されると言われている。本剤は妊婦には禁忌なので、女性の患者さんへの事前チェックは必須である。
通常,成人にはルビプロストンとして1回24μgを1日2回、朝食後及び夕食後に経口投与する。なお、症状により適宜減量する。

②リナクロチド(リンゼス)
作用機序は、腸管分泌および腸管輸送能促進作用並びに大腸痛覚過敏改善作用であり、排便異常及び腹痛・腹部不快感を改善する。
調剤上の留意事項は、服用直前に錠剤を取り出すこととし、無包装状態、あるいは別容器に移しての保存はしないことである。これは、湿度に注意しなければいけないためである。
通常、成人には0.5㎎(2錠)を1日1回、食前に経口投与。なお、症状により0.25(1錠)に減量する。

 

=胆汁酸トランスポーター阻害薬=
エロビキシバット(グーフィス)
作用機序は、胆汁酸の再吸収に関わるトランスポーター(IBAT)を阻害することで、大腸内に流入する胆汁酸を増加させ排便を促す。
胆汁酸は大腸において、水分および電解質を分泌させるとともに消化管運動を亢進させる作用がある。
本剤は食後分泌された胆汁酸の回腸での再吸収を抑制するので、食前30分に服用しないと効果が落ちる可能性がある。
通常、成人にはエロビキシバットとして10mgを1日1回食前に経口投与する。なお、症状により適宜増減できるが、最高用量は1日15mgまでである。

 

=刺激性下剤=
①ピコスルファート
腸内細菌によって分解された成分が蠕動運動を促進する。効果発現は内服7~12時間後なので、一般的には就寝前の内服がよい。内用液なので、投与量の微調整がしやすいのが最大の利点である。

②センノシド
この薬も腸内細菌によって分解され、大腸を刺激する物質(レインアンスロン)へと変換され、これにより大腸の蠕動運動を促進させる。
投与後は8~10時間後に効果が発現するため、朝の排便のためには就寝前に内服する。長期使用による耐性が形成されるという報告がある。

 

=オピオイド受容体拮抗薬=
ナルデメジントシル酸塩:スインプロイク
オピオイドによるがん疼痛治療においては、副作用の便秘が治療を遂行する上で大きな課題となっており、便秘対策は疼痛治療のポイントである。
オピオイドによる便秘は眠気、悪心・嘔吐に並ぶ代表的な副作用である。オピオイドの便秘は、各種臓器からの消化酵素の分泌を抑制し、消化管蠕動運動も抑制するので食物消化が停滞し、腸管からの食物通過時間が延長することで生じる。さらに、大腸で食物が長時間停滞し、水分吸収が一段と進むことで便が硬くなり、結果として便秘を引き起こすとともに、肛門括約筋の緊張が高まり、排便がしにくい状態を引き起こす。しかも、耐性形成はほとんど起きない。

ナルデメジンは、血液脳関門の透過性が低いため、オピオイド鎮痛薬の作用点である中枢μオピオイド受容体の作用を阻害せず、消化管の末梢μオピオイド受容体に結合し、オピオイド鎮痛薬に拮抗することにより便秘を改善する新しい作用機序(末梢性μ オピオイド受容体拮抗薬;PAMORA)を有している。
通常、成人にはナルデメジンとして1回0.2mgを1日1回経口投与する。「適宜増減」はない。
オピオイドの投与を中止する場合には、オピオイドの末梢性作用に拮抗する本薬の投与も中止することも知っておきたい。

 

=漢方薬=
漢方薬使用の基本ポイントは
①緩下剤としての主な薬効成分であるダイオウの量によって、効果が強いものから弱いものまでを選別できることである。
ダイオウの含有量が多ければ効果は強くなる。ダイオウの含有量が多いのは大黄甘草湯や麻子仁丸である。潤腸湯や桂枝加芍薬大黄湯はダイオウが中等量になり、防風通聖散はさらに少なくなり、作用は非常にマイルドになる。ちなみに、大建中湯にはダイオウは含まれない。
 
②電解質異常の原因となる甘草(グリチルリチン)を含むかどうかである。
これは、腎機能異常患者や高齢者では注意を要するためである。ちなみに甘草を含まない漢方薬は麻子仁丸と大建中湯である。

 

[その他]
・トイレに座る習慣
ヒトは便器に座った際に前かがみになって、ロダンの彫刻「考える人」のようなポーズ(前かがみ35度)を取ると排便しやすくなる。
そこで、朝食の飲食の後、便所に座る習慣を持つことはとても重要である。

・便秘の原因になる主な薬剤
薬剤師としては、副作用で「便秘」になりやすい薬剤は押さえておきたい。
オピオイド、抗コリン薬、カルシウム拮抗薬、抗痙攣薬、向精神薬、ヒスタミンH1受容体拮抗薬、制吐薬、鉄剤など

・OTCの便秘薬
処方薬の効果が不十分なので、自分の判断で市販薬を併用されている患者さんがいる。
薬剤師として頭に入れておきたいのは、市販薬は刺激性下剤の比率が高いことである。
現在市販されている主なOTC(over the counter)緩下薬のおよそ7割をアントラキノン系等が中心となる刺激性下剤が占めると言われている。

 

[最後に]
最後に中島 淳先生の「便秘治療の最前線」(日消誌2018;115:959―966)から、「便秘薬治療の問題点」の一部を紹介する。
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「一般に便秘患者は軽症から重症難治性までさまざまな重症度の患者がおり、その診たてをせずに1種類の薬物で治療をすることで軽症患者は下痢になり、重症患者は効果がないことになり、患者の治療満足度は極めて低いことになって、多くの患者は次回の外来を我慢できずに薬物療法をドロップアウトすることになる。このため医療機関における便秘治療、特に初療患者の薬物療法のアドヒアランスは極めて低いのが実情である。
このような問題を打破するためには初療で軽症の場合下痢になることをはっきり話して、その場合休薬ないしは内服薬の減量を話すことが重要である。」
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中島先生が指摘されている問題に対して、薬剤師は「服薬指導」で大きく貢献できると考える。
便秘薬の特徴を勉強して、患者さん個々にフィットした情報提供を行い、薬剤の効果をフォローし、必要事項は処方医にフィードバックしていく。薬剤師として、そんな仕事を目指したい。

 

 

以上で、「服薬指導 便秘薬」のコンテンツは終了である。長文を読んでいただきありがとうございました。
今思えば恥ずかしいことだが、私自身は便秘をそれほど勉強が必要なテーマと思っていなかった。
しかし、日本ではエビデンスレベルが低い薬剤の処方頻度が高かったり、便通に良いと思っていた生活指導の根拠が不確かなものがあることが勉強して始めてわかった。便秘で苦しむ患者さんのために、継続して勉強することの必要性を実感している。
このサブノートが便秘治療に取り組む皆さまのお役にたてば望外の幸せである。

 

[参考資料]

「便秘診療の最前線」便秘症の内科的治療概論 
中島 淳 日消誌2018;115:959―966

「ジェネラリストのための 内科診断リファレンス」
監修:酒見英太
著 :上田剛士
医学書院

「薬のデギュスタシオン」
岩田健太郎 編集
金芳堂

「慢性便秘症の診断と治療」
味村俊樹ほか
日本大腸肛門病会誌 72:583-599,2019

「グーフィス」
池田 尚紀ら 日薬理誌 153、129~138(2019)
新薬紹介 グーフィス錠5㎎

「便秘症の診断と治療―最新の進歩」
中島 淳ら 日内会誌 106:2453~2460,2017

「便秘診療の最前線」新しい便秘診療の考え方
三輪 洋人 日消誌2018;115:933―939

「浸透圧性下剤」
鳥居明 日本内科学会雑誌108 巻1号 36-39

「慢性便秘の治療―大腸刺激性下剤の種類とその使い方―」
三代 剛ら
日内会誌 108:40~45,2019

「慢性便秘の治療―膨張性下剤の使い方―」
富田 寿彦ら
日内会誌 108:29~35,2019

「慢性便秘の定義と分類」
尾髙 健夫
日内会誌 108:10~15,2019

「慢性便秘症の治療-各論(新規薬剤について)-」
安部 達也ら
日本大腸肛門病会誌 72:600-608,2019

「便秘症の診断と病態生理」
眞部紀明ら 日消誌2018;115:950―958

「慢性便秘症の診断と治療」
味村俊樹
健栄製薬株式会社 PDF

以上


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