[がん疼痛緩和ケアPLUS]⑦便秘


[がん疼痛緩和ケアPLUS]⑦便秘
ある医師は言う。「排便コントロールはオピオイド治療の成功の鍵である」と。
このコンテンツでは、オピオイドの代表的な副作用である「便秘」について考察する。

「便秘」は、日常よく遭遇するありふれた症状でありながら甘くみてはいけない症状であり、疼痛緩和ケアの鍵となる症状でもある。
便秘について勉強した情報は、緩和ケア以外にも活用できるだろう。
なぜなら、日本には約1000万人近くの便秘の患者さんがいるからである。

なぜ、オピオイド治療において排便コントロールは重要なのだろうか?
便秘は、腹部膨満感、食欲不振、腹痛などの原因となり、患者さんのQOLを低下させる。
ケースによっては嘔吐やせん妄を増悪させることもあり、対処が遅れると麻痺性イレウスに発展することもある。
そして何よりも、オピオイドを服用すると、便秘は必発するからである。

オピオイドは、鎮痛効果を示すのに必要な量よりはるかに少ない量で便秘を引き起こす。
(動物実験では、モルヒネは鎮痛に必要な量の約50分の1量で便秘を引き起こす。)
オピオイドは、消化管の蠕動運動を低下させ、腸管の食物通過時間を長くする。
食物が大腸に長時間留まることで、便の水分が吸収され、硬くなり、便秘が起こるのである。
また、オピオイドは、肛門括約筋の緊張を高めるので、排便がしづらくなることも便秘の一因である。

重要なのは、オピオイドの便秘は耐性形成がないことである。
つまり、オピオイドを服用している間は、便秘対策が継続して必要なのである。

ちなみにオピオイドの便秘の時には、腸管閉塞・狭窄の確認、腸管内のガス・便の貯留状態を確認するための腹部レントゲン撮影による病態評価が重要であることを覚えておきたい。

オピオイドによる便秘について概要を述べたが、「便秘」に関する基本的な情報と薬物治療に関しては別のコンテンツ「服薬指導 便秘薬」でまとめてあるので、そちらを参照されたい。

「服薬指導 便秘薬」
(2017年に策定された本邦初の慢性便秘症診療ガイドラインを中心にまとめてある。)

この章では補足として「便秘の非薬物療法」「下剤の効果発現時間」「便秘薬の使用上の注意(補足)」を追記する。

[便秘の非薬物療法]
便秘の非薬物療法で最も大切なことは、「食物繊維を摂取する」ことである。
食物繊維は人間の消化酵素では消化されない難消化成分の総体と定義され、水溶性と非水溶性に分けられる。
(水溶性繊維はペクチン、グルコマンナンなど、非水溶性繊維はセルロース、リグニンなどである)
日本人の場合、1日に必要な食物繊維量は成人で20~25gとされている。
長期臥床者は食事量も少なく、消化の良い低残渣傾向になるため、積極的に摂取する必要がある。
食物繊維を多く含む食品は、野菜類、果実類、イモ類、穀類、海藻などである。

規則正しい便通をつけるためには、朝食を多めにとり、胃結腸反射を起こし、大腸の運動を促進させることが重要である。
朝食時に冷たい牛乳を飲んだり、水分を多めに摂取することも排便を促す方法のひとつである。

≪食物繊維以外で便秘を改善させる食品≫
乳製品:腸内細菌叢を整える
油脂:脂肪は腸内容物の通過を滑らかにし、脂肪酸は腸粘膜を刺激する
糖分:腸内で発酵しやすく、大腸の蠕動を促す
有機酸:酢酸、クエン酸などは大腸の蠕動を促す
香辛料:大腸を刺激する

普段、気をつけたいことは、便意はなるべく我慢しないことである。
胃結腸反射は、飲食などの刺激により起こる。
この反射により、横行結腸からS字結腸にかけて蠕動運動が起こり、便は直腸に送り込まれる。
直腸は普段は収縮しているが、便が送り込まれると拡張し、この刺激で便意を催す。
ところが、このときにがまんをすると、次第に直腸は弛緩し、内圧が低下して便意を感じないようになってしまう。
だから、便意を催したら迷わず便所に行く。「出物、腫物、処嫌わず」である。

規則正しい食生活と排便の習慣の重要性も覚えておきたい。
先に説明した結腸の蠕動が亢進する胃結腸反射は、夜の間に空っぽになった胃に食物が入ることで最も強く現れる。
つまり、規則正しく朝食を食べ、便意が出現したら我慢せずに便所に行くことが重要である。
ちなみに、排便が習慣化すると同じ時間に便意を催すようになるため、便意がなくとも排便を試みるようにしたい。

便秘にとって運動は非常に大切なので、寝たきりの患者さんでも可能な限り運動し、無理な場合は他動的に身体を動かすようにする。
要するに、全身の血液循環を改善し、大腸の運動を活発にすることが重要なのである。
また、腹部を右下腹から時計回りにマッサージすることも有用である。

[下剤の効果発現時間]
主な下剤の効果発現時間を整理する。
おおよその目安として用法の参考にする。

酸化マグネシウム:4~8時間
ラクツロース:24~48時間

プルゼニド、アローゼン:6~12時間
ラキソベロン:7~12時間

膨張性下剤:12~48時間(最大効果2~3日後)
浣腸:直後~5分以内
坐剤:10~60分

[便秘薬 使用上の注意(補足)]
下剤の服用で尿の色が変化することがある。
・アローゼン、センナエキス:尿が赤色になることがある。
・プルゼニド(センノサイド):尿が黄褐色または赤色になることがある。

・浣腸
注意点を2点紹介する。
一点目は、高齢者の夜間の浣腸は避けること。
浣腸液注入で腹圧上昇・急激な排便で迷走神経反射が起こり、血圧低下・失神を誘発することがある。
脱水を予防し、日中に行う。

二点目は、便塊が直腸まで進んでいないと排便が期待できないこと。
このためにも、腹部レントゲンによる病態評価が重要なのである。

便秘は、緩和ケアではもちろん、日常の調剤業務でも頻繁に遭遇するありふれた症状のひとつである。
しかし、勉強の必要性はわかっていながら、なかなか実行できない人が多いのではないだろうか?
実は、私もその一人であった。
今回、便秘についてまとめたのは、オピオイドの副作用としてだけでなく、PLUSの情報として勉強する絶好の機会だと考えたからである。
このコンテンツが、あなたの便秘の勉強の役に立てば幸いである。

[参考資料]
・野沢 博「長期臥床者の便秘」:日本薬剤師会雑誌 第62巻 第4号 平成22年4月1日 P.469-472

・「病気と薬の説明ガイド」:薬局 Vol.58,No.4,2007 P.233-242

・宮田憲一「便秘と下剤の薬物療法」:月刊ナーシング Vol.13,No.4,1993.4 P.54-58

・「薬のデギュスタシオン」岩田健太郎 編集 (金芳堂)

・「緩和治療薬の考え方、使い方」森田達也 (中外医学社)

以上