[がん疼痛緩和ケアPLUS]⑥ポイントになる薬剤


[がん疼痛緩和ケアPLUS]⑥ポイントになる薬剤
このコンテンツでは、がん疼痛緩和ケアに使われる薬剤の中で、ポイントになる薬剤を考える。
ポイントになる薬剤とは、処方頻度が高く、特徴がわかりやすい薬剤のことである。
がん疼痛緩和に使用される薬剤の中から、4剤をピックアップして掘り下げる。

[アセトアミノフェン]
痛みに対する非オピオイド鎮痛剤の選択では、NSAIDsよりもアセトアミノフェンを第一選択に考える医師は多い。
安全性を考慮してのことだが、高用量投与が認められて効果の印象が変化したことも影響している。

アセトアミノフェンは、2011年2月に添付文書が改訂になった。
最大の改訂部分は、成人用量の上限が引き上げられたことである。
具体的には、鎮痛目的の投与量が1日900~1500mgであったのが、最大で4000mgまで投与できることになった。
これが、緩和ケア専門医のアセトアミノフェンに対する評価が変わるキッカケになったと言っても過言ではない。
なお、アセトアミノフェンを効果的に使用するには、1回使用量をきちんと効果が出る量で投与することがポイントである。

ここでNSAIDsとの違いをおさらいしておこう。
アセトアミノフェンは中枢に作用し、NSAIDsは末梢に作用する。
この違いが、長所と短所を生じる。

アセトアミノフェンの最大の長所は、NSAIDsでよく見られる副作用が少ないことである。
(アセトアミノフェンは中枢に作用し、末梢のCOXにほとんど作用しないためと考えられている。)
この長所により、NSAIDsより長期投与しやすい。
また、消化性潰瘍、腎機能低下の場合にも使いやすい。

ちなみに、アセトアミノフェンとNSAIDsは作用機序が異なることから、両者は併用できることも覚えておきたい。

短所としては、アセトアミノフェンは抗炎症作用はないことが挙げられる。
だから、炎症が強い疼痛にはNSAIDsの方が効果が高い。
※たとえば、がんの転移や浸潤は組織障害による炎症を伴うため、NSAIDsの方が効果が期待できる。

通常、1回500〜1000㎎を使用し、1日の最大投与量は4000㎎を目安にする。
(通常、1回1000mgを超えると鎮痛効果の増強は得られない。)
高用量や長期投与の場合、重篤な肝障害が起こる可能性があることに留意する。
アセトアミノフェンは、投与量の80%が肝で代謝されるためである。
肝障害がある場合、アセトアミノフェンは、N-アセチル-P-ベンゾキノンイミンという毒性のある代謝物が作られる。
この代謝物はグルタチオン抱合によって弱毒化される。
しかし、大量のアセトアミノフェンの投与やグルタチオンが枯渇している場合は、十分な弱毒化ができず、肝実質細胞がダメージを受けるのである。
ちなみに、グルタチオンの貯蔵量を減らすファクターは、「高齢」「栄養状態の悪化」「絶食・食欲不振」などである。
患者さんがこれらのファクターを有する場合は、慎重に経過を観察するべきである。

アセトアミノフェンの「重要な注意事項」
アセトアミノフェンの添付文書「警告」には、以下のような記述がある。

『本剤とアセトアミノフェンを含む他の薬剤(一般用医薬品を含む)との併用により、アセトアミノフェンの過量投与による重篤な肝障害が発現する恐れがあることから、これらの薬剤との併用を避けること。』

アセトアミノフェンは、いろいろなOTCに含まれているので、服用中は市販薬の購入・服用に注意いただくようお願いしておく。
判断に困る場合は、購入・服用前に相談いただくようにしたい。
(2014年3月の時点で、日本では約900種類のOTCに含まれているといわれている。)
1日最大投与量が引き上げられた現在、アセトアミノフェンの重複投与には特に注意すべきである。
OTCの重複だけでなく、冬場のカロナールとPLの併用は、ありがちな重複である。

[フェンタニル](貼付剤)
フェンタニルは、貼付剤が発売後、使用量が非常に増えた強オピオイドである。
貼付剤という製剤の特性で、オピオイドの中でポジショニングを確立している。
ここでは、フェンタニル貼付剤の特徴や注意事項を整理する。

≪フェンタニル貼付剤の特徴≫
①副作用が少ない。
鎮痛効果については、強オピオイド間で明確な差はないと言われている。
しかし、フェンタニルは他の強オピオイドに比較して副作用が少ない。
オピオイド受容体にはμ、δ、κの3種類の存在が認められている。
μ受容体にはμ1とμ2の2種類のサブタイプが存在し、μ1受容体は脳における鎮痛、徐脈、縮瞳、尿閉、悪心・嘔吐、瘙痒感などに関与し、μ2受容体は脊髄における鎮痛、鎮静、呼吸抑制、消化管運動抑制などに関与している。
オピオイドの代表的な副作用である便秘は、主に中枢・腸管に存在するμ2受容体へオピオイドが作用することにより生じる。
フェンタニルは、μ1受容体に特異的に作用するため、副作用が少ないと考えられている。

②貼付剤である。
現在、フェンタニル貼付剤には3日間貼付製剤のデュロテップMTパッチと1日1回貼付製剤のフェントステープ、ワンデュロが市販している。
いずれも、他のオピオイド鎮痛薬からの切り替えが必要である。(フェンタニルから開始すると保険で切られる可能性が高い。)

③腎障害時でも通常使用可能である。
モルヒネ製剤は「重篤な腎障害のある患者」への投与は禁忌であるが、フェンタニル貼付剤やオキシコドン製剤の添付文書にその記載はない。
※ただし、フェンタニルの添付文書では、肝・腎機能障害のある患者には慎重投与になっている。
代謝・排泄が遅延し、副作用があらわれやすくなるおそれがあるためである。

≪フェンタニル貼付剤の注意する点≫
1)調整性が劣ること。
貼付剤のため、効果持続時間が長いのはメリットだが、効果の発現・消失までの時間が長い。
つまり、投与開始と中止・変更のタイミングに注意を要する。
効果発現は貼付してから12~14時間後。
貼付中止後16~24時間は鎮痛効果が持続することも重要である。
このように迅速な投与量の変更は難しい。

フェンタニル貼付剤は、他の強オピオイドに比べて副作用が少ない。
ゆえに、安易に増量されないように注意する。
効果の発現・消失の時間も長いので、変更・中止の時には慎重に経過を観察しながら調節する。

消失しない突出痛への対応は、通常、モルヒネまたはオキシコドンの速放製剤を使用する。
このときも、1日のモルヒネ換算量、フェンタニル貼付剤の貼った時間を必ず確認すること。

2)副作用の予防薬の調節
フェンタニル貼付剤は、原則的に他のオピオイドが効果不十分の際に切り替えて使用される。
その際に注意したいのは、便秘のために処方されている薬剤である。
フェンタニル貼付剤は、副作用の便秘が軽減されるため、便秘薬の効果が強く出てしまうケースがある。
排便の状態の確認と便秘薬の調節に注意したい。

3)その他の注意事項
一般的に貼付剤は、皮膚の状態が悪い場合は使用しない。
フェンタニル貼付剤には、それに加えてこの薬剤独自の注意事項が存在する。
それは、貼付部位の温度上昇で有効成分の放出が増加することである。
ゆえに、40℃以上の発熱がある患者さんには慎重に投与する。
電気パッド、電気毛布、加温ウォーターベッド、赤外線灯、集中的な日光浴、サウナ、湯たんぽ等の熱源にも注意する。
もちろん、入浴する場合は、熱い温度での入浴は避ける。

貼付する際に貼付部位を清潔にする場合には、本剤の吸収に影響を及ぼすため、石鹸、アルコール、ローション等は使用しないこと。
また、貼付部位の水分は十分に取り除くこと。

使用済み製剤は粘着面を内側にして貼り合わせた後、安全に処分する。
たとえば、フェンタニル貼付剤専用の廃棄袋を用意する。

家族構成を確認し、小さなお子さんと同居している場合は、保管の注意をする。
また、保管場所は高温にならない場所にすること。

[ステロイド]
ステロイドは、緩和ケアの中では「鎮痛補助薬」に分類され、炎症や浮腫を伴う痛みなどの改善に使用される。
鎮痛補助薬の中でステロイドは、他の薬剤と一線を画している。
それはそのままステロイドの特徴なのだが、使用目的が広く、症状を劇的に改善することも多いが、その効果は一時的なものであること。
従って、緩和ケアにおけるステロイドの有用性は、使用するタイミングに大きく左右される。

「間違いだらけの緩和薬選び」世界一簡単な緩和薬の本Ver.2 大津秀一著(中外医学社)は、ステロイドの使い方が詳しく書かれているテキストである。
この中で、ステロイドは余命月単位-余命2ヵ月以内なら特に適応があり、緩和スペクトルも広範囲であることが紹介されている。
確かに、進行・終末期がんでは、局所・全身症状が複合的に発生し、合併症も多くなる。
しかも、長期投与でなければ、ステロイドの副作用よりも臨床効果の方が期待できる。
このような場合、生活の質を一時的に保つ手段としてステロイドは大変有力な選択肢になる。
ステロイドは、緩和する症状のスペクトルが広く、いろいろな症状が一剤で緩和できる薬剤である。

では、ステロイドの使用目的・適応についてまとめておく。

≪緩和ケアにおけるステロイドが使用される目的≫
・食欲低下、全身倦怠感の改善
・圧迫や閉塞の改善
・吐き気止め
・痛み(特に骨転移痛)の緩和

≪緩和ケアにおけるステロイドの適応≫
・骨転移痛
・腫瘍による神経圧迫
・関節痛
・頭蓋内圧亢進・脊髄圧迫
・管腔臓器の閉塞などによる痛みなど(気道狭窄、消化管閉塞など)
・浮腫(リンパ、腸管など)
・悪液質症候群
・高カルシウム血症
など

薬剤師にとって、ステロイドが処方されたときに注意したいのは、以下の点である。

①説明
患者さんやそのご家族の中には、「ステロイド」と言うだけで過敏な反応を示す方もおられる。
期待される効果、短期使用における安全性(および、発生の可能性がある副作用)は、必ず説明しておきたい。

②副作用
ステロイドの副作用は、種類も多く頻度も高い。
添付文書で副作用の種類を確認するだけで溜息が出る薬剤である。
このような薬剤の場合、服用中の発生しやすい副作用を時系列で整理すると理解しやすく、服用中の経過観察にも有用である。

≪ステロイドの副作用を時系列によって整理する≫
※もちろん、目安である。
副作用の発生は、個人、症状(原疾患)、投与量によって異なり、その種類も発生時期もケースによって異なる場合が多いため。

早期:中枢神経症状(不眠、うつ、精神高揚、食欲亢進など)

数日以内:血圧上昇、Na↑・K↓

2~3週間以内:血糖上昇、コレステロール上昇、創傷治癒遅延、副腎抑制、消化性潰瘍

1ヶ月以内:易感染性、多毛、中心性肥満、ざ瘡、無月経、口腔内カンジダ

月単位の投与で特に注意したい副作用は、「口腔カンジダ」「消化性潰瘍」である。
※個人差はあるが、ムーンフェイスも発生の可能性があるため説明の必要がある。

薬の副作用は、「成分自体の毒性」「薬理作用に基づくもの」「その他」に分類される。
それぞれの薬に特有の副作用の多くは、「薬理作用に基づくもの」である。
ステロイドの場合は、以下の2項目を頭に入れておくと、副作用の理解に役立つ。
・「免疫が抑制されている」こと
・「副腎機能低下」の可能性があること

③原則禁忌の患者さん
ステロイドを処方した医師が、原則禁忌に該当する疾患の存在を知らなかった場合は疑義照会をすることになる。
これらに該当する患者さんにステロイドが処方された場合は、経過観察を慎重に行い、症状の改善と副作用の発生のトレースを行う。

≪ステロイドの「原則禁忌」≫
・有効な抗菌剤の存在しない感染症、全身の真菌症
・消化性潰瘍
・精神病
・結核性疾患
・単純疱疹性角膜炎
・後嚢白内障
・緑内障
・高血圧症
・電解質異常
・血栓症
・最近行った内臓の手術創
・急性心筋梗塞
・ウイルス性結膜・角膜疾患、結核性眼疾患、真菌性眼疾患及び急性化膿性眼疾患の患者に対する眼科的投与
・コントロール不良の糖尿病

※その他の注意事項
・併用薬の確認
ステロイドを開始するときは、NSAIDsは原則中止である。
・口腔内の疾患の有無など

[プレガバリン]
鎮痛補助薬は、「主たる薬理作用には鎮痛作用を有しないが、鎮痛薬と併用することにより鎮痛効果を高め、特定の状況下で鎮痛効果を示す薬物」である。
ゆえに保険適応がない薬剤が多い。
具体的には、「抗けいれん薬」「抗うつ薬」「抗不整脈薬」「NMDA受容体拮抗薬」「ステロイド」などである。
鎮痛補助薬は、主として「神経障害性疼痛」に効果を発揮する。
神経障害性疼痛とは、「痛覚を伝える神経の直接的な損傷やこれらの神経の疾患に起因する痛み」である。
たとえば、腫瘍が進行し、脊柱管などの神経を巻き込んで生じる痛みがこれに当たる。

プレガバリンは肝臓での代謝をほとんど受けないため、薬物相互作用がほとんどないのが利点である。しかし、未変化体として尿中に排泄されるため、腎機能が低下しているケースや高齢者には、クレアチニンクリアランスに応じた投与量の調節が必要である。

近年、神経障害性疼痛に対する有用性が明らかになり、国際疼痛学会、日本ペインクリニック学会などの多数の神経障害性疼痛に対するガイドラインでは、第一選択になっている。

プレガバリンはガバペンチンを血液-脳関門を通過しやすいように改良された誘導体であり、現在、我が国で「がんの神経障害性疼痛」に保険適応のある唯一の薬剤である。

副作用としては、頻度の高いものでは眠気やふらつきだが、プレガバリンに特徴的なものとして浮腫と失神を覚えておきたい。

プレガバリンの用法・用量は、1日150~300mg(最大600mg)を1日2回に分けて服用となっている。
しかし、最初から1日150~300mgでは眠気、ふらつきが高頻度で出る可能性が高い。
普通の体格の成人で1日50mgから開始し、3~5日ごとに増量していくのが無難であろう。
体重が軽い場合や状態が悪い場合、高齢者の場合には、寝る前に1回25mgからスタートする。

どの鎮痛補助薬でも共通の考え方だが、鎮痛補助薬を追加して痛みが完全に消失するケースは多くない。
従って、患者さんへの副作用による不利益を重視しつつ、効果の確認をしたい。
痛みは少し改善したが、副作用でQOLが前より低下することがないように注意するということである。

プレガバリン意外の鎮痛補助薬のほとんどは、がん疼痛に限定した神経障害性疼痛に保険適用がない。
しかし、社会保険診療報酬支払基金の審査情報提供事例として、カルバマゼピンを「抗けいれん薬の神経因性疼痛、各種神経原性疼痛、がん性疼痛」に、イミプラミンを「末梢性神経障害性疼痛」に対し処方した場合、審査上認めるとしている。

ところで、がん疼痛の薬物療法に関する各種のガイドラインには、薬物治療の根拠となる研究・論文が掲載されている。
鎮痛補助薬についても根拠が掲載されているのだが、頻繁に出てくる用語に「NNT」がある。
これは、薬剤の効果を示す指標なのだが、ご参考までに説明をしておきたい。

「NNT」は、Number needed to treatの略であり、「治療必要数」と訳される。
薬剤の効果を示す指標のひとつであり、対象の薬剤が患者さん一人に治療効果を得るために必要な患者数(投与数)を示す。
たとえば、NNT=3ならば、3名の患者さんを治療するとそのうちの1名には薬自体の効果があるということ。
言い換えると、「その治療(薬剤)の1例の効果を観察するためには,その治療を何人の患者に用いなければならないか」となる。
一般的には、NNTは小さいほど効果が高いことになる。
しかし、その治療(薬剤)によるメリットとその薬物の値段、副作用の有無などを考慮して判断される。

以上、がん疼痛緩和に使用される代表薬剤を選抜し、情報を整理した。
薬剤の情報は常に変化する。
研究の報告や論文の蓄積により、ガイドラインの薬物治療も変更される。
このコンテンツで紹介した薬剤も例外ではない。
処方のたびごとに、見直すようにしたい。

[参考資料]
・「間違いだらけの緩和薬選び」世界一簡単な緩和薬の本 Ver.2 大津秀一 (中外医学社)

・「トワイクロス先生のがん緩和ケア処方薬」薬効・薬理と薬の使い方(医学書院)

・「緩和治療薬の考え方、使い方」森田達也 (中外医学社)

・「薬のデギュスタシオン」岩田健太郎編集 (金芳堂)

・がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン 2020 (日本緩和医療学会)

・「医療用麻薬適正使用ガイダンス」がん疼痛治療における医療用麻薬の使用と管理のガイダンス
厚生労働省医薬食品局 監視指導・麻薬対策課

・「デュロテップMTパッチ」 添付文書
2016年5月改訂版 (ヤンセンファーマ)

・がん疼痛で神経障害性疼痛を疑う場合 鎮痛補助薬の使用タイミングと選択について
帝京大学医学部 緩和医療学講座(緩和ケア内科)  教授 有賀悦子
CLINICIAN Ê14 NO. 634 P.1145-1148

以上