[がん疼痛緩和ケアPLUS]⑤オピオイドの服薬指導


[がん疼痛緩和ケアPLUS]⑤オピオイドの服薬指導
このコンテンツでは、オピオイドの服薬指導について考察する。
オピオイドは説明の難易度が高い薬剤だが、私が考える服薬指導のポイントは以下の5点だと思う。

1)麻薬に対する誤解(緩和ケアの基本的な考え方)
2)服用方法の理解
3)副作用とその対応
4)自宅におけるオピオイドの管理
5)患者さんから入手するべき情報

それでは、順に考察する。

[1)麻薬に対する誤解](緩和ケアの基本的な考え方)
※この章は、「③がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン」の[オピオイドの依存][患者のオピオイドへの認識]と内容が重複していますが、重要度が高いためにあえて掲載することにしました。

第二次世界大戦のアメリカ兵の戦いを描いたある映画に、次のようなシーンがある。
進軍するアメリカ兵と待ち伏せたドイツ兵が戦闘になり、ひとりのアメリカ兵が撃たれる。
味方が駆け寄り、傷を確認すると腹部に弾が命中しており、手の施しようがない。
苦悶の表情を浮かべる傷兵にかけられる言葉は、「楽にしてほしいか?」。
彼はモルヒネを投与され、やがて天国へ旅立つ。

一般の人の麻薬に対するイメージは、末期に投与される最後の薬、またはギャング映画に出てくる禁断の白い粉であろう。
オピオイドの誤解として、代表的なものは
「麻薬は、末期に使われるもの」
「麻薬は、命を縮めるもの」
「麻薬は、依存・中毒になるもの」
の3つである。

効果、飲み方、副作用の説明と並んで、これらの誤解を解くことが大切である。
オピオイドを誤解したままでは良好な服用を保つのは難しい。

「麻薬は、末期に使われるもの」・「麻薬は、命を縮めるもの」に対する説明
WHO方式疼痛緩和ケアが普及する以前、モルヒネは確かに全身状態の悪化した、いわゆる末期の患者さんを中心に使われることが多かった。
痛みも激しく、全身状態が悪い状態なので、オピオイドの服用後、短期間で亡くなられるケースばかりであっただろう。
そのようなケースが多かったため、モルヒネが使われるのなら、死期が近いと感じるのも不思議ではない。

患者さんに説明すべきは、現在の治療戦略は昔とまったく違っていることである。
すなわち、オピオイドは末期に使用するのではなく、がんと診断された時から、必要時に使用を考えるということ。

また、オピオイドの使い方も弱いものや少量から開始し、その人にもっとも適切な量まで増加させるので、一番よく効き一番副作用が少ない量で飲めること、そして、この考え方は世界共通であることも併せて説明する。
この投与法であれば、オピオイドは患者の生命予後には影響しないことを示唆するコホート研究が複数報告されている。
逆にオピオイドが生命予後を明らかに短縮するという根拠は現時点ではない。

「医療用麻薬は、依存・中毒になるもの」についての説明
がん疼痛にオピオイドを服用して、精神依存が生じる可能性は非常に低い。
患者さんへの説明としては、
「オピオイドは、健常者が使うと中毒が起こることがあるが、痛みを持つ人が適切に使う場合は中毒が起こらない性質であること」を説明し、実際に「オピオイドの精神依存を調べた研究では、ほとんどその可能性がなかったこと」を、安全性(精神依存・中毒に関する)の根拠として伝えたい。

[2)服用方法の理解]
まず第一に、オピオイドは痛みへの効果によって種類や量が変更されること(段階的に強い薬あるいは増量していくこと)、副作用の程度によって変更や減量が行われることを説明する。
特に「増量」は、依存・中毒になったわけではないことを話しておきたい。
患者さんにとって最適なオピオイドの種類と剤型、投与量が固定されるまでは、複数回の処方変更が行われる可能性がある。
それは、言うまでもなく患者さんからの正確な情報を基とする。
実際にどのように服用しているか、痛みが本当に取れているか、副作用を我慢していないかなど、遠慮なく話してもらうように患者さんに説明する。
効果がイマイチと言ったり、副作用を申告することが治療方針にケチをつけることになると考える患者さんは、意外に多いためである。

オピオイドの服用は、定時の徐放製剤を服用し、それでも痛む場合に「レスキュー」を追加する形を基本とする。
かなり複雑な用法の場合には、服用方法をわかりやすくまとめた紙を作成して、患者さんにお渡しする。
当然、患者さんの実際の服用状態も確認するが、可能であれば、患者さんに服用を記録していただくのがベストである。
まず、夜「眠れる」ことを目標に治療を開始し、最終的には「患者さんのやりたいことができる」のがゴールである。

オピオイドの使用上の注意、注意点が多いフェンタニル貼付剤を例題にしてみよう。
※以下の内容は、デュロテップMTパッチ 添付文書 2016年5月改訂版(ヤンセンファーマ株式会社)より

主な注意点だけで9項目ある。このような場合は、メーカー作成の患者用説明文書もしくは薬局で注意点をまとめた文章を作成してお渡しする必要があるだろう。

①貼付部の温度上昇に注意する
本剤貼付部位の温度が上昇するとフェンタニルの吸収量が増加し、過量投与になるおそれがある。フェンタニル貼付中は、外部熱源への接触、熱い温度での入浴等を避けること。発熱時には患者の状態を十分に観察し、副作用の発現に注意すること。
貼付部位が電気パッド、電気毛布、加温ウォーターベッド、赤外線灯、集中的な日光浴、サウナ、湯たんぽ等の熱源に接しないようにすること。また、フェンタニルを貼付中に入浴する場合は、熱い温度での入浴は避けるよう説明する。

②機械の操作に従事させない
自動車の運転等危険を伴う機械の操作に従事させない。

③貼付部位について
貼付部位を清潔にする場合には、フェンタニルの吸収に影響を及ぼすため、石鹸、アルコール、ローション等は使用しないこと。また、貼付部位の水分は十分に取り除くこと。
皮膚刺激を避けるため、毎回貼付部位を変えることが望ましい。

④取扱い上の注意
フェンタニル貼付剤をハサミ等で切って使用しないこと。また、傷ついたパッチは使用しないこと。

⑤貼り方について
貼付後、約30秒間手のひらでしっかり押え、本剤の縁の部分が皮膚面に完全に接着するようにすること。

⑥他者への注意事項
本剤が他者に付着しないよう注意すること。本剤の他者への付着に気付いたときは、直ちに剥離し、付着部位を水で洗い流し、異常が認められた場合には受診すること。

⑦使用済み製剤の処分
使用済み製剤は粘着面を内側にして貼り合わせた後、安全に処分すること。

⑧未使用製剤について
未使用製剤は病院又は薬局に返却すること。

⑨その他
貼付日を記入しておくこと。

[3)副作用とその対応]
患者さんは、自分の飲む薬は安全で副作用がない薬であってほしいと願っている。
あなたの説明を聞くうちに「私が飲むオピオイドは、安全なんだよね」「副作用の心配はないんだよね」と勘違いする場合がある。
オピオイドについて、「必要であれば今からでも使ってよい」「寿命は縮めない」「精神依存の心配はない」と聞けば、自分で安全だと思い込むのが普通である。
このような患者さんに副作用が出現すると、「話が違う!やっぱり、危ない薬じゃないか」と思ってしまう。
これを防ぐためには、医療用麻薬の誤解と副作用は別であることを明言し、代表的な副作用とその対応の説明をすることである。

オピオイドの代表的な副作用とは、「便秘」「悪心・嘔吐」「せん妄」「眠気」である。
副作用への基本的な対応は以下の考え方である。
・副作用が発生した際には、その症状の発生原因を鑑別する。
・対症療法薬の処方を検討する。
・オピオイドの効果よりも副作用の影響が強い場合は、別のオピオイドへの変更を検討するか、可能な範囲で減量(痛みのコントロールが可能な範囲)を検討する。

それぞれの副作用についての解説は、「③がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン」の[オピオイドの副作用]を参照。

[4)自宅におけるオピオイドの管理]
患者さんの薬剤の管理状況を把握することが第一である。

私が経験したのは、ご夫婦の薬剤をひとつの箱に入れて管理しているケースである。
(「薬」と書かれた大きな菓子箱に全部入れてあった。)
奥様が管理されており、内服剤も外用剤もすべて一緒に入れており、薬が入っている古い薬袋もいくつか見つかった。
一ヵ所にまとめられてはいたが、グシャグシャの状態であった。
単にオピオイドだけの問題ではなく、総合的な薬の管理を指導する機会としたい。

薬は患者さん本人しか使用しないのが、原則である。
オピオイドはこの原則を、くれぐれも注意したい薬剤である。
「すごく、よく効く痛み止めを持ってるのよ。」
湿布薬でよく見聞するこのようなケースがないように、「他人に転用しないこと」を強く説明しておきたい。

また、同居しているご家族の中に、「小児」「認知症の患者さん」「ペット」がいないかを確認する。
使用済の貼付剤などはごみ箱に入れず、専用の袋を別に用意するとよい。

残薬が生じる場合には、薬局に持参いただくよう説明する。
(これは、最初から説明せず、薬剤が変更になったときなど、用時に説明する。)

≪自宅でのオピオイドの管理のまとめ≫
①他人に転用しないこと。誤って他人が服用してしまった場合は速やかに医師・看護師・薬剤師に連絡するよう伝えておく。
②小児やペットの手が届かない場所に保管すること。特に使用済みの貼付剤は家庭内のごみ箱等でなく別に回収用の袋等を準備する。
③残薬が生じた場合の処理方法を説明する。

[5)患者さんから入手すべき情報]
オピオイドの薬物療法は、患者さんの症状・服用状況が基になって戦略が決まる。したがって、患者さんのモニタリングがいかに重要であるかがお分かりいただると思う。
患者さんが、医師やあなたに素直に相談できることがなにより重要なのである。
「痛みは取れているか」、「副作用を我慢していないか」、「用法通り飲めているか」などの情報である。
患者さんから入手すべき情報は、これに集約される。

そのほか、新患の場合に確認すべきことをまとめる。
・オピオイドの使用経験
・医師からの説明(どのように理解されているか)
・実際の使い方
・薬剤の管理状況
・家族構成→小児、高齢者(認知症)などとの同居の確認
・自宅以外の連絡先(職場など)
・ご家族の代表者の連絡先(ご家族と別居されている場合)

※処方せんには患者さんの住所が記載されているが、念のため、現在お住まいの住所を確認しておきたい。

[保険薬局による患者・家族の支援]
最期に、このコンテンツのまとめとして、「医療用麻薬適正使用ガイダンス」より「保険薬局による患者・家族の支援」の具体的な内容を紹介する。

①疼痛管理に伴う医療用麻薬の処方に際し、処方内容の鑑査を行い、用法用量や副作用対策を患者・家族と共に確認し、服薬のための理解を助ける。
②特に服用開始時期や増量の際には、交付時だけの服薬指導だけでなく電話等により服用状況、効果や副作用のモニタリングを行い、より安全に服用できるよう配慮する。
③患者の日常生活、嚥下状態、身体状態などのモニタリングを行い、薬剤特性と総合的に勘案し処方医と連携してより適切な投与方法や製剤の選択、処方設計を行う。
④麻薬小売業者免許を有していて無菌調剤室あるいはクリーンベンチを備えている薬局では医療用麻薬の注射剤を調製して携帯型ディスポーザブルポンプ等に充填して交付することができる。また、これらの設備を有していない薬局でも、プレフィルドシリンジ製剤を交付することができる。
⑤使用済みあるいは不要となった医療用麻薬は患者・家族に適切に助言し、可能な限り回収又は廃棄することが望ましい。
⑥医療用麻薬を家族、友人等へ譲り渡すことは、医学的に危険であるばかりでなく、譲り渡した患者自身が「麻薬及び向精神薬取締法」に違反することになるので、絶対にしないように十分に指導する。
⑦在宅医療の場においては、医師や看護師、介護者とも密に連携し、これらの支援がより的確なものとなるよう努める。
(「医療用麻薬適正使用ガイダンス」3)保険薬局による患者・家族の支援 P.68-69)

以上、オピオイドの服薬指導について考察した。
基本的な服薬指導の組み立て、オピオイドに共通する注意事項を中心に内容を整理した。
あなたの業務の一助になれば幸いである。

[参考資料]
・「がん疼痛治療と医療用麻薬」鈴木 勉:YAKUGAKU ZASSHI 135(12) 1325―1334 (2015)

・「がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン」2020年版 日本緩和医療学会

・「医療用麻薬適正使用ガイダンス」がん疼痛治療における医療用麻薬の使用と管理のガイダンス
厚生労働省医薬食品局 監視指導・麻薬対策課

・「間違いだらけの緩和薬選び 世界一簡単な緩和薬の本」Ver.2 大津秀一(中外医学社)

・デュロテップMTパッチ 添付文書 2016年5月改訂版(ヤンセンファーマ株式会社)

以上