[がん疼痛緩和ケアPLUS]②痛み


[がん疼痛緩和ケアPLUS]②痛み
このコンテンツでは、「痛み」の基本を整理する。

[「痛み」とは?]
「痛み」の定義から見ていこう。
国際疼痛学会では「痛み」は「実際に何らかの組織損傷が起こった時、あるいは組織損傷が起こりそうな時、あるいはそのような損傷の際に表現されるような、不快な感覚体験および情動体験」と定義されている。
この定義自体は正確に覚える必要はないが、重要なのは「痛み」は主観的なものであるということ。
体温や血圧など、客観的な指標では計測できない症状なのである。
これは、患者さんへの「問診」が非常に重要であることを意味している。
言うまでもなく、患者さんからの情報は「痛み」の原因を推測し、検査・治療の方針を立てる基本情報である。
患者さんによっては「痛み」などの苦痛をがまんしている場合もある。
苦痛を医師に訴えることによって、医師に嫌われたり(診察や治療をしてもらっているのに、医師に文句を言ってはいけないと考えてしまう)、現在の治療が中止されるのではないかと誤解しているケースである。
これでは、痛みの治療はおろか、痛みの存在自体も把握できないため、患者さんのQOLを向上させるのは難しい。
このようなケースを少なくするためには、患者さんとの信頼関係を構築することに加え、「苦痛はがまんしなくてよい」ことを説明することが大切である。
「何かお困りのことはございませんか?がまんしなくてもいいから、何でも相談してくださいね。」の一言を心がけたい。

「痛み」について、医師が患者さんから入手したい情報は概ね下記の内容である。

・いつから痛むのか
・どこが痛むのか
・どのように痛むのか(たとえば、針で刺したような痛み、電気が走ったような痛みなど)
・時々痛むのか、持続した痛みか
・痛みの程度は?(これまでの経験で最も近い痛みは?)
・なにかをすると痛みが強くなったり、弱くなったりするか

患者さんから「痛み」について相談され、病・医院の受診を勧告する場合は、上記の質問の答えを用意するようアドバイスしよう。

なお、がん疼痛は、がんの診断時に20-50%、進行がん患者全体では70−80%の患者に存在する。
痛みがあるがん患者の8割は、身体の2カ所以上に痛みがあり、6割の患者の原因は複数である。

さらにがんの苦痛は、多様である。
身体的苦痛(痛み、倦怠感など)の他、精神的苦痛(不安、孤独感、恐怖など)や社会的苦痛(仕事、経済的負担など)、スピリチュアルペインと呼ばれる自分の存在や人生に対する悩みも患者さんを苦しめる。
(これらのがん患者さんがかかえる苦痛をまとめて、「トータルペイン」という。)
いろいろな苦痛は、独立して存在するのではなく、相互に影響し、増強したり軽減したりする。
「痛み」もまた、他の苦痛の影響を受け、いろいろな要素に修飾される。
痛み自体の治療の他、他の苦痛、環境、患者さんの考え方などを変化させることによって、「痛み」が軽減する可能性があることは覚えておきたい。

[「痛み」のパターン]
①持続痛
1日12時間以上持続する痛み。定期的な鎮痛薬の投与が基本となるが、効果の減弱や切れ目の有無などを定期的に評価する必要がある。

②突出痛
持続痛が鎮痛剤でコントロールされている場合に起こる痛み。短時間で悪化し、自然消失する一過性の症状である。
痛みの発生からピークまでの時間は5~10分のケースが多い。また、持続時間は30~60分程度である。痛みの発生部位の8割は持続痛と同じ場所である。

[「痛み」の分類]
痛みは、大きく分けて2つに分類される。
「傷害受容性疼痛」と「神経障害性疼痛」である。
「傷害受容性疼痛」はさらに「体性痛」と「内臓痛」に分かれる。
この分類はある程度の疼痛緩和薬剤の有効性を推測することができるため、覚えておきたい。

<傷害受容性疼痛>
体性痛:皮膚や骨、筋肉などの体の組織への切る、刺すなどの機械的刺激が原因で発生する痛み。
    つまり、体が傷つけられた時の痛みである。
    がん患者の痛みの70%以上を占めると考えられ、非オピオイド鎮痛剤、オピオイドともに有効である。
    
内臓痛:臓器の炎症、腫瘍による圧迫、管腔臓器(食道、胃、腸など)の閉塞、臓器被膜での急激な伸展が原因で発生する痛み。
    臓器が傷ついて起こる痛みである。
    非オピオイド鎮痛剤、オピオイドともに有効である。

<神経障害性疼痛>
痛覚を伝える神経の直接的な損傷やこれらの神経の疾患に起因する痛み。
がんが大きくなって神経を巻き込んだり、圧迫したりすることによって起こるが、がん患者における神経障害性疼痛の治療アルゴリズムは存在しない。
非オピオイド鎮痛薬、オピオイドを使用するが、効果不十分の場合には鎮痛補助薬の投薬を考慮する。

[「痛み」の強さ]
疼痛の強さを評価するスケールでNRS(Numerical Rating Scale)が用いられることが多い。痛みが全くないときを0、これ以上ひどい痛みが考えられないときを10としたときの10段階で現在の症状を当てはめる評価法である。
現在の強さ、24時間を平均した場合の強さ、1日のうち最小・最大の強さを聞く。一般的に0~3点を軽度の疼痛、4~6点を中等度の疼痛、7点以上を強い疼痛と考える。現在の痛みが小康状態の場合には「痛みが一番強くなったとき(楽になったとき)は何点くらいになりますか?」「痛み止めの薬を使うと何点くらいになりますか?」などと確認する。もちろん、疼痛の強さを数字で表現することが難しい場合には、患者に合わせた他の評価法を用いる。

[「痛み」の増悪・軽快因子]
・痛みを増悪させる因子
体動、姿勢、食事、排泄、時間帯(例:夜間)、鎮痛薬の効果の切れ目など

・痛みを軽減させる因子
安静、保温・冷却、マッサージなど

この他、不安、抑うつ、不眠、せん妄などの「精神的苦痛」、経済的不安、孤立、社会的役割の喪失などの「社会的苦痛」、苦悩、絶望などの「スピリチャルペイン」は、痛みの感じ方を増強させると考えられている。反対に、楽しみ、睡眠、支持的な関わり、家族や人との交流は、痛みの感じ方を軽減させる。

[WHOがん疼痛治療法]
WHO(世界保健機構)は、がん対策の4本の柱(予防、早期発見、治療)のひとつに「有効ながん疼痛対策」を掲げて、1968年にWHO方式がん疼痛治療法を作成した。
このWHO方式がん疼痛治療法は、「三段階除痛ラダー」と「鎮痛薬使用基本五原則」から成り立っている。「三段階除痛ラダー」とは、痛みのレベルに応じて段階的に鎮痛薬の効果を強くしていく方法である。これらの内容は、2018年に改訂され、エビデンスに基づく標準化されたガイドラインになっている。

新しいWHOのガイドラインは、7つの基本原則と推奨で構成されている。
①疼痛治療の目標:患者にとって許容可能な生活の質を維持できるレベルまで痛みを軽減する

②包括的な評価:がん疼痛マネジメントの最初のステップは、常に患者を評価することである

③安全性の保障

④がん疼痛マネジメントは薬物療法が含まれるが、心理社会的および精神的ケアもふくまれうる

⑤オピオイドを含む鎮痛薬は、いずれの国でも使用できるべきである

⑥鎮痛薬は、「経口的に」「時間を決めて」「患者ごとに」「細かい配慮をもって」投与する

⑦がん疼痛治療は、がん治療の一部として考えられる:終末期であるかどうかに関係なく、がん治療の計画に統合されるべきである

※WHOの鎮痛薬リスト
<非オピオイド鎮痛薬>
アセトアミノフェン、NSAIDs

<オピオイド>
弱:コデイン
強:モルヒネ、ヒドロモルフォン、オキシコドン、フェンタニル、メサドン

[「痛み」の治療目標]
「痛み」のマネジメントでは、治療の目標が大切である。
患者さんの生活、やりたいことに支障がないように「痛み」をコントロールし、QOLを高めることが最終目標だが、段階的に目標を設定すると合理的な治療のマネジメントが可能である。
たとえば、新しい疼痛治療薬を服用した場合、夜の睡眠の状態から薬効をモニタリングするとよい。

第一目標:夜間の良眠を得られる
第二目標:安静時の痛みの消失
第三目標:体動時の痛みの消失

[オピオイドの薬物治療にあたって解決しなければならない誤解]
日本における一般市民のオピオイドへの認識について調査した結果では、約30%が、「モルヒネは中毒になる」「モルヒネは寿命を縮める」といった印象を持っている。
がん対策に関する世論調査では、オピオイドに対する印象について 約30%が「最後の手段だと思う」「だんだん効かなくなると思う」、約10%が「寿命を縮めると思う」「精神的におかしくなる」と誤解していた。
ただし、その一方で約50%が「正しく使用すればがんの痛みに効果的だと思う」「正しく使用すれば安全だと思う」と理解していた。

このような「麻薬中毒になる」「寿命を縮める」といった誤解を解くことは必要だが、患者が選択できることを伝えるのはさらに重要である。
具体的には、有効性と副作用を説明したうえで、「いったん始めても具合が悪ければ相談してやめてもよい」こと、「痛みが軽減すれば用量を減らし終了することもある」ことを伝える。

一部の患者のオピオイドへの誤解を解くことが、緩和ケアの必要条件であり、薬剤師として最も重要な役割と言ってよい。
現在の緩和ケアの基本的な考え方、オピオイドの用法用量および副作用、オピオイドの依存性などをわかりやすく説明し、患者さんとそのご家族の理解をいただくことが第一歩なのである。
これらの患者さん(ご家族)への説明については、[⑤オピオイドの服薬指導]で考察する。

以上、「痛み」の基本的な知識を整理した。
次のコンテンツは、「②がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン」の薬剤師が知っておきたいポイントをまとめる。

[参考資料]
・「がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン」2020年版 日本緩和医療学会

・「がん緩和ケアガイドブック」2017年3月31日発行 日本医師会

・「医療用麻薬適正使用ガイダンス」がん疼痛治療における医療用麻薬の使用と管理のガイダンス
厚生労働省医薬食品局 監視指導・麻薬対策課

・「トワイクロス先生のがん緩和ケア処方薬」(医学書院)

・鈴木勉、「がん疼痛治療と医療用麻薬」:YAKUGAKU ZASSHI 135(12) 1325―1334 (2015)

以上